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テレビ局のインタビューを受け終わった後廊下を歩いていると、
「勝也くん」
声をかけてきた少年は、白河――オリンピックチャンピオンだった。
「白河……」
一瞬、言葉が出てこなかった。そしてなんとか絞り出す。
「……おめでとう」
その言葉は口にしてしまえば、案外気は楽だった。彼をチャンピオンと認めるのに躊躇いはない。彼はチャンピオンに値する演技をしたのだから。
そして次の言葉は自然と出てきた。
「次は負けないよ」
だが、言葉にしてから気がついた――次があるとは限らないのだ。大抵の選手は五輪メダルを手にした後休養宣言をする場合。そして結局そのまま引退、というのはよくあるパターンだ。そう、これが白河と戦う最後のチャンスだったのかもしれないのだ。
だとしたら、俺はどうやってこの気持ちを晴らせばいい。どれだけ努力しても、次の五輪の時、彼が銀盤にいなかったとしたら――
だが、
「勝也君。僕にも、新しい目標ができたよ」
彼は、穏やかに、けれど瞳の奥に確かに闘志を燃やして言った。
「ずっと憧れだった、君を超える」
それは、白河の――現役続行宣言だった。いや、それだけでじゃなかった。
「君を、四回転で超えてみせる」
それは新たな挑戦の宣言だった。
「今までずっと、君に憧れていた。たった13歳で四回転を成功させた君を、僕はずっと神のように崇めていた。そして君と同じ舞台に立ちたいと思っていたんだ。でも僕は今まで四回転には挑んでこなかった。それは逃げていたわけじゃない。ただ、少しでも早く君と同じ舞台に立ちたかったから。だから四回転以外をひたすら磨いてきたんだ。そして今シーズン、ようやく君と同じ舞台に立てた。ずっと憧れていた君と同じ舞台にね。そのことが、五輪のメダルを手にれたことよりも嬉しい……でも。もうそれだけじゃ満足できない」
彼はそう言い切った。
「僕は、高橋勝也にすべての面で勝ちたい。ジャンプでも、ステップでも、スピンでも、スケーティングでも、表現力でも、全部で勝ちたい。だから、僕は四回転に挑む。そして全てにおいて、君を超えて見せる」
そういう彼に、今度は俺から拳を突き出した。
「……俺も、次は絶対に負けない」
彼が拳を突き返した。
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