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キスアンドクライを出ると、そこには君崎の姿があった。
「カッコよかったよ。勝也が一番、誰よりも、輝いてた」
「……ありがとう」
その言葉は、きっと本心だったのだろう。
だが、今の俺にとっては――慰めだ。
トリノオリンピック、男子シングル。
優勝は、白河悠人だった。
――日本人初、そしてアジア人初の金メダリストの誕生だ。
フィギュアスケートは長らく欧米人のスポーツだった。そして彼はその歴史を見事に打ち破る快挙を成し遂げたのだ。
一方、高橋勝也の最終順位は――第4位。
金メダルはおろか、銅メダルにさえ届かなかった。やはりショートで出遅れたのが大きな要因だ。だが、仮にショートで成功していたとしても金メダルではなかった。フリーの得点だけでみても、白河に負けていたからだ。
スコアを見れば、敗因は明確だった。
確かにジャンプの基礎点では俺がダントツのトップ。誰よりも難しい構成に挑んだのは間違いない。
だが、スピン・ステップの取りこぼしがあまりに多かった。レベル4は一つだけ。特にクワドルッツ後のステップはなんとレベル2GOE+0と悲惨なものだ。
白河がスピンを全てレベル4、ステップもレベル3で揃えて、その全てに加点をつけてきたのとは対象的。
さらに演技全体を評価する演技構成点でも、俺は全出場選手中4位。
一言で言えば俺の演技はずさんだったのだ。四回転に頼るばかりで、他の大部分が練習不足。逆に白河は四回転はなくとも、全てのエレメンツで工夫を凝らし、技と技の間の密度を濃くしていった。
「完敗、だな」
それでも、後悔はなかった。
少なくとも、今の自分にできる限界に挑戦した。最後まであきらめず、一流の選手たち全員が挑みさえしなかった、世界でもっとも難しい技を、この五輪で成功させた。それは間違いなく誇れることだ。
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