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翌朝。睡眠時間は決して長くはなかったが、しかし思ったよりも気持ちよく目覚めることができた。思いのほか身体が軽かい。
演技は午後からだったので、まだ寝ることはできたのだが、二度寝をするなんて普段しないことはやめておくことにした。
少し早めに会場に向かい、ペアのショートプログラムを観戦する。そしてそれが終わった頃、着替えるために控室に向かった。
控室には、昨日と同様、いやそれ以上にピリピリとした空気が流れていた。やはりトップ選手の多くが、この時点でメダルに届かない状況にあったことも一因だろう。
あまり居心地のいい空間ではなかったので、俺は着替えた後早々に立ち去った。
と、廊下に出ると、ちょうど一人の少年が向こうから歩いてきた。、
「白河……」
「やぁ、勝也くん」
いつもなら俺の身体を触ってくるおふざけタイムなのだが、今日はそれはなかった。代わりに、その瞳でまっすぐ俺を見てくる。
その綺麗な瞳に、確かな闘志を燃やしている。
「僕はね、ずっと君の背中を追いかけてきた。そしてこの最高の舞台で、ようやく君と戦える」
きっと彼は心の底から言っているのだろう。でも今では、彼がショート1位。俺は4位。俺が追う立場だ。
「僕が四回転を跳ばないことを、君が良く思っていないことは知ってるよ」
俺はなんて答えていいのか、分からなかった。
「確かに、今の僕には四回転はない。でも、僕は僕のスケートを磨いてきた」
それは、分かってる。俺はあえて口にしなかったが、白河のすごさをちゃんと認めている。
「だから、今日は、僕の全力を君にぶつける」
そう言って、彼は拳を突き出してきた。
俺は一瞬ためらって、
「……俺もだ。俺の限界を明日の演技で見せつける。そして、金メダルを取る」
拳を突き返した。
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