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 ♪


 ショート4位では記者会見もない。俺はフリーが終わるとすぐさまホテルに戻った。

 どっと疲れてが出てベッドに横たわる。だが、

「……眠れない」

 泣いても笑っても明日ですべてが決まる。そう思うと、いろいろなことが頭の中を駆け巡ってしまうのだ。

 ずっと憧れだったオリンピックの舞台。

 まさか、自分がこんなにも弱い人間だとは思わなかった。

 そして三十分ほど、呆然としていると、ピコンとスマホが音を鳴らす。君崎からのメッセージだった。


 ――もう寝た?


 そのメッセージに既読を付けた瞬間だ、コンコンとドアがノックされる。俺はバッとベッドから起き上がり、慌ててドアを開ける。

 そこには寝巻姿の君崎があった。また、ふわっと、いい香りがした。

「どうせ寝れないんでしょ」

 小悪魔な笑みを浮かべた。

「どうせ眠れないと思って」

 君崎はそう言ってベッドに腰かける――その距離は昨日よりもかなり近い。

「どうだった、五輪の舞台は」

 最高だったよ。そう言いたい所だったが、

「一瞬だったなぁ」

 それが正直な感想だった。

「もっと一つ一つのスケーティングを楽しむようにしたいって思ってたけど、実際はあっという間で。気がついたら終わってた」

「たぶん、白河はそれができてたと思う」

 彼のスケーティングはやっぱり一つ一つがものすごく丁寧だった。もちろん、基礎的なスケーティングスキルの差はあるだろう。だけどそれ以上に、彼は俺より遥かに冷静だったということなのだ。

「俺はさ、プレッシャーには強い人間だって思ってた。俺は誰よりも強い、だから、絶対勝つ。そう心の底から信じてたから緊張しなかったんだ。でも、俺は誰よりも強いなんて、思い上がり以外の何物でもなかったって」

 きっと白河は自分の弱さをしっかりと見つめてきたのだ。だからこそ、この大舞台で、彼は冷静でいられた。その差は大きい。たぶん埋めがたい。

 でも。

「やっぱり金メダルが欲しい。最高の演技をして頂点に立ちたい」

 それが、やっぱり俺だった。

 すると、君崎は一拍おいて、

「私ね、あんたのこと好き」

 唐突に、本当に唐突に彼女はそう言った。

「それって、スケーターとしてってこと? それとも」

 俺が恐る恐る聞くと、

「どっちなのか。今は言わないでおこうかな」

 彼女はまたあの小悪魔的な笑みを浮かべだ。

「答えは、また明日。演技が終わってからね」

 それだけ言うと、彼女は立ち上がる。また甘い香りがふわっと漂った。

「じゃ、私寝るわ。おやすみ」

「おう……」

 俺は一人部屋に取り残される。

 もう明日の演技に対する不安はない。だけど、それとはまったく別の理由で寝られそうになかった。


 ♪


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