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俺とコーチは、夜の練習を終えて帰路に就く。
「そういえば、凛とはもう会ったの?」
コーチが尋ねてきた。
「……ああ。さっき見たよ」
あれを<会った>というかはかなり怪しい。なので俺は事実だけを回答する。するとコーチは怪訝な顔をした。
「見た? 喋ってはいないの?」
「ま、喋ったといえば喋ったね」
怒鳴られたが正しいけど。
「なにそれ」
これ以上説明をするつもりはなかったので、黙り込む。コーチがその沈黙に対して突っ込む前に、家にたどり着いた。
扉を開け、コーチが「ただいま」と言うと、「おかえりー」と元気のいい声が響く。ユキがだだだだっとリビングから走ってくる。
「ショーヤ兄ちゃん! 凛ちゃんもう来てるよ!」
ユキは大はしゃぎだった。君崎凛は女の子のスケーターに絶大な人気を誇っている。もちろんユキもその一人なのだ。l
「ユキ、大切な質問だ」
「ん、なに?」
「お前は、俺と君崎凛、どっちのスケートがスゴいと思う?」
今世紀最大の愚問だろう。だが時として、当たり前のことをしっかり口にして確かめる必要があるのだ。
「えーっと」
だが、ユキはなぜかものすごく困った顔をする。
「どうしたユキ。別にひっかけ問題じゃないぞ。素直に考えるんだ。ありのままを言えばいいぞ。レリゴー」
「えー。どっちも大好きだよ!」
「ユキ。いいかい、よく聞きなさい。ユキは可愛い女の子だ。だからこそ、どっちも好きなんて八方美人なことを言っていると、みんな勘違いしてしまうんだよ。これからは心の底から好きな相手にしか好きと言ってはいけません」
「そ、そうなの……?」
「そうなのです。もう一度聞くよ。俺と君崎……」
と、コーチが俺の頭をバシンと叩く。
「なに子供に自分のこと好きっていわせようとしてんの」
そしてコーチはこちらを一切見ずにリビングに入る。それにユキも続く。俺もしぶしぶついていった。
当然、そこには、君崎の姿があった。目が合う。そして……にらみつけられる。もう、親の仇でも見るような、そんな眼だった。
なんだよ、ちょっと裸見たくらいで。感じ悪。
「凛、もう来てたのね」
「神崎コーチ、先にお邪魔してました」
ぺこりとお辞儀をする神崎。
「いいのいいの。改めて、今日からよろしくね」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
俺はそんな二人のやり取りを無視して、その場を立ち去ろうとする。だが踵を返したところで、コーチに声をかけられた。
「勝也、どうしたの」
「どうしたって?」
「いつもおしゃべりなのになんで喋らないの。君崎さん相手で緊張しちゃってるの?」
「いや、それはない。じゃ、俺寝るから」
ただ、睨み付けてくる相手と一つ屋根の下と思うと気が重いだけだ。
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