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第2グループの最終滑走者が演技を終える。この後製氷作業が終わると、俺たち第3グループの演技だ。 俺は日本代表の上着を脱いで、リンクサイドへ向かう。
集まった6人は皆顔見知りだが、演技前に言葉をかけるようなことは絶対にない。殺気だったライバルに話しかけるようなやつはいないのだ。
――6分間練習のスタートが告げられる。
俺は先頭を切ってリンクに飛び出した。
まず最初の1分をスケーティングの確認に使う。軽いスケーティングで氷の感触を確かめからジャンプの練習に入る。
まずは三回転ジャンプ。トリプルトウループ!
だが、この簡単なジャンプで着氷が乱れる。
「ああ、やべぇな。緊張してんな……」
俺はあえて口にすることで、焦りをまぎらわそうとした。
「焦る必要はないぞ」
そんなコーチの声。
「ああ」
だが、やはりこの緊張はどうしようもない。
俺はどちらかというと緊張しない方だった。それは、俺が強いメンタルを持っているからだとばかり思っていた。
でも、それは違っていたのだ。今まで緊張しなかったのは、結局試合を本当の意味で"勝負"だと思っていなかったからなのだ。
俺にとって、グランプリシリーズも、全日本も、世界選手権も、全ては今日、この五輪の演技への一つのステップでしかなった。言ってしまえば、今日のための練習に過ぎなかったのだ。
その意味で、今日が、俺にとって<初めて>の本番ってわけだ。そりゃ、緊張するわな。
俺はなんとか恐れを振り払おうと、再度トウループに挑む。今度は四回転――だが、転倒。氷の冷たさを再確認――。
俺はここで これ以上ジャンプの練習をやるのはやめておこうと決断した。ジャッジには悪い印象だけが残ってしまうが、しかしこれ以上やってもダメなものはダメな気がした。
大丈夫。これまでも、演技直前までさっぱりダメだったジャンプが、本番でしっかり跳べたことはある。
それからジャンプの軌道を確認し、一回転でイメージ練習をする。
そして練習時間残りが一分というところで、いったんリンクサイドに引き上げる。一番滑走の演技は6分間練習の直後に行われる。それゆえ、一番滑走の選手は体力を温存しておかなければいけないのだ。
リンクの壁を挟んで、コーチと向かい合う。
「調子は悪くなさそうだね。ジャンプの高さもかなりあるし」
「うん、悪くはないね」
コーチからボトルを受け取り水を一口。そして息を整える。
普通の選手ならここで今日は攻めるか、守るか、そんなことをコーチと相談するのかもしれない。
だが俺の場合、特にショートでは、攻めるも守るもあり得ない。ショートは技の種類が決まっているから、四回転の数は簡単には増やせない。逆に四回転抜きのショートも俺にとってはありえない。だから、基本的にはやることをやるだけ。
だからコーチとは、演技中に気を付ける細かいところを確認する。
「ステップ前のつなぎのとこ、フリーレッグが雑になりがち。ジャンプ終わっても気を抜かない」
「おーけい」
「後最後のスピンは気合入れて」
「おーけい」
そうこうしているうち、他の選手たちがリンクサイドに引きあげていき、俺だけがこの舞台に取り残された。静まり返っていく会場。徐々に、演技の時間が近づく。
そしてショータイムを告げるアナウンスが入る。
【リプレゼティングジャパン! ショウヤー・タカハシ!】




