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『215点! なんと、なんと、世界記録を10点以上も更新しました!』
これだ。これがフィギュアスケートなんだ。誰もが無理だって思うような、そんな一見到達不可能に思えることに挑戦して、失敗しながらも、最後にはそれを成功させる。
俺もまた、君崎みたいにみんなを驚かせたい。誰もできないことをしたい。
消えていた内なる闘志が、再び燃え上がるのを確かに感じた。
テレビは録画放送なので、実際の演技はとうの昔に終わっている。俺は演技を見終わった後、いてもたってもいられなくて、すぐに君崎に電話をかけた。 三十秒ほど待つと、電話が繋がった。
「君崎?」
『どうしたの?』
「今どこ?」
『ホテルだけど』
『何号室? 行ってもいい?』
俺が聞くと、彼女は部屋の番号を教えてくれた。どうやらちょうど外から帰ってきたところらしい。
「勝也」
その端正な顔が今は曇っていた。さっきまで画面に映っていた彼女の表情には、あれほど喜びに満ち溢れていたのに。
「あのさ、さっきはごめん」
うつむきながら、彼女は本当に申し訳なさそうに言った。
「いや。謝ることなんてないよ。君崎は本当のことを言っただけだ』
「ううん、そんなことは」
「いや、確かに、間違いなく、今の俺は白河に負けてる」
それは事実なのだ。だけど、それがイコール諦めることにはつながらない。
「君崎のフリー見たよ。本当にスゴかった」
俺がそういうと、ようやく彼女は少しだけ笑った。
「ありがとう。勝也に言ってもらえると嬉しい」
「久々に人の演技を見て、身体が震えた。いてもたってもいられなくなった」
ずっと人生の目標だったオリンピックに出場できない、その絶望はきっと計り知れなかっただろう。だが彼女は決してそれで諦めなかった。へこたれることなく、自分の演技に磨きをかけ、たった一か月後の試合で、四回転+三回転を決めるという伝説を作り上げたのだ。
「君崎が教えてくれた。俺にできることは変わらないってことに」
今の自分にできること。それは誰より難しいジャンプを跳ぶこと。ただそれだけだ。
「そんで、最後の最後の瞬間、フリーの4分30秒が終わるその瞬間まで、俺は諦めない。それで白河を倒して金メダルを取る。だから、見ててくれ。俺のスケートを。俺のジャンプを」
俺がそう宣言すると、彼女は黙って頷いた。そして拳を突き出した。
「約束だよ」
「ああ、必ず勝つ」
俺は彼女の小さな拳に、自分のそれをコツンとぶつけた。
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