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男子フリー終了。これで全日本選手権すべての種目が終了した。
そして、今からオリンピック代表選手の発表が行われる。
リンクサイドに向かうと、そこには上位選手が揃っていた。
もちろんそこには君崎の姿もあった。視線が合う。だが俺はなんと言っていいのかわからず、しばらく立ち尽くした。
そんな俺に、君崎のほうから声をかけてくれる。
「お疲れ」
「ああ」
それ以上言葉を交わすことはなかった。
君崎は、俺に向かって非難の言葉を浴びせたりはしなかった。ただ虚無の表情を浮かべ、リンクの白さを見つめていた。
――お待たせいたしました。いよいよ2010年バンクーバーオリンピック、フィギュアスケート日本代表選手の発表です。
会場が一気に静まり返る。
――発表は、公益財団法人日本スケート連盟、佐藤フィギュア委員長にお願いいたします。
白髪の混じった男がマイクを渡される。。
――ええ、それでは。第21回、冬季オリンピック大会、バンクーバー大会の選手を発表させていただきます。
発表はペア、アイスダンス、女子、男子の順番だ。
――ペア、金瀬晴夏、木下雄一組』
演技後以上に、心臓の鼓動が早くなる。
――ダンス、松原優樹菜・宮下一郎組。
そして女子シングル――
――女子シングル、河合藍。
心のどこかで期待していた自分がいた。もちろん、俺の成績で五輪に行くなんてそんな茶番あるはずがない。そんなことはわかっている。だが、この世界のすべてが、間違いであってほしかったのだ。
――男子シングル、白河悠人。
全日本の優勝者から発表していく。
心のどこかで奇跡が起きるのではないかと期待していた。
だが現実は、
――高橋勝也。以上です。
その瞬間、会場が今日一番の歓声に包まれた。
「え?」
今なんて言った。嘘だろ?
次の瞬間、コーチに抱きしめられる。
「勝也、おめでとう」
そう言ってコーチは俺の背中を叩く。
「……選ばれたのか」
呆然とした。
ありえない。だって俺は全日本3位
――いや、そうだ。その可能性は十分にあった。現世界チャンピオンであることに加えて、昨シーズンから今日まで、国際大会では無敗だった。“たまたま”この全日本が悪かっただけ。そして2位の選手は、国際大会ではほとんど活躍できていない無名の選手。逆に“たまたま”全日本で2位だった。連盟はそう判断したんだろう。
嬉しい――そんな感情は一切なかった。だって、俺は逃げたのだ。安全策を取って、しかも失敗したのに、それでお情けで五輪に出場。
そんなの、俺のフィギュアじゃない。
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