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俺が演技が終えると、会場からは大きな声援が送られた。でも、それは俺に向けられたではない。観客は、今の俺の姿ではなく、かつて強かった世界チャンピオンに対して拍手をしているのだ。
前を向いて歩けなかった。
限界に挑むのがスポーツだ。ずっとそう信じて、それを貫いてきたのに。ここ一番で恐怖にかられて逃げたのだ。五輪に出られないかもしれないという恐怖に負けて、安全策を取ってしまった。プライドを捨てたのだ。
それなのに、演技を無難にまとめることさえできなかった。
いや当然だ。100パーセントを出し切ろうと努力して、ようやく80パーセントの実力が発揮できる。80パーセントを狙った演技で、80パーセントの実力は発揮できない。そんな当たり前のことを、俺は忘れていたのだ。
無残に撤退してきた俺に、コーチは何も言わなかった。
俺たちは黙って、観客に手を降ることもなくキスアンドクライに座り込む。こんなにキスアンドクライの椅子が居心地の悪いものだったことはない。
いつもなら、とにもかくにも点数が出るのが楽しみで仕方ないのに。今日はこのまま耳を塞いで、目を瞑って立ち去りたい。
もちろん五輪への夢が絶たれたことはもちろん悔しかった。
でもそれ以上に、勝負から逃げてしまったことが,何より悔しかった。
自分が自分でなくなってしまったのだ。
――高橋さんの得点。技術点。
おおよそ、自分のそれとは思えない点数が出る。続いて、演技構成点。こちらは今日の出来だけでは決まらないので、それなりの点数だが……計算をするまでもなく。
――高橋さんの現在の順位は、第3位です。
俺の五輪への道は、閉ざされたのだ。
会場がどよめいた。俺は何も言えなかった。
今まで五輪に向けて、一つひとつレンガを積み上げてきたつもりだったのに。現実には風船が膨らんでいただけだった。
そして膨らみすぎた風船は、突然目の前で割れてしまったのだ。
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