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俺は一睡もできないまま翌日の全日本フリーを迎えた。
こんなコンディションで演技を迎えるのは初めてだ。
――選手の皆さんは6分間を開始してください。
最終グループの6分間練習が始まる。これが演技前最後の調整になる。
体調は最悪。
身体的なものもあるが、なにより精神的なものが大きい。未だに、あの冷たさが身体に残っているのだ。
俺は、恐れを取り払おうと、ジャンプに挑む。
だが
「――ッ!」
回転が抜けた上に転倒。つい数日まで、ほとんど失敗することがなかった。それくらい自信をもって跳べていたものが、今ではまったく決まらなくなってしまった。
こんな状況で演技に入れば――結果は火を見るより明らかだ。
「勝也! 焦らない!」
コーチの怒号が跳んだ。
俺はそれでハッとして、ブレーキをかけ、胸に手を置き一息つく。だが、それでも体に鉛のようにまとわりついたものがなくなることはなかった。
初めて襲われる恐怖だ。
五輪へ行くのは、当然。そこで自分が納得できる演技をして、かつ金メダルが取れるのかどうか。それだけを考えてきた。
だが、いま目の前にあるのは、五輪に行くことさえできないかもしれないという現実だった。
気が付くと6分間練習の終了がアナウンスれていた。切り替えるしかない。自分にそう言い聞かせて、俺はリンクを後にした。
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