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世間はクリスマスに向けて徐々に浮足立っているらしい。そんな12月の初め。俺はグランプリファイナルに出場するため、アメリカ・ソルトレークシティにやってきた。
グランプリファイナルは、グランプリシリーズ6戦の成績上位6名が集結する大会だ。世界のトップシックスが集まるこの大会は、言うまでもなくオリンピックの前哨戦になる。
昨日のショートプログラム、俺はしっかり四回転+三回転のコンボを成功させ、安定の1位発進。
そして、今日フリースケーティングが行われる。フリーはショートの順位が下位の選手から順番に滑っていくので、昨日1位の俺は最終滑走だ。
まずは、昨日二回転倒して最下位と5位の選手が、フリーではなんとか立て直してみせるも、トータルの点数は当然低いままだ。フィギュアスケートという競技では、大きな失敗を挽回することは基本的にできない。特に今はノーミスがトップになる条件なので、一度でも転倒してしまうと、それだけでトップ争いから脱落してしまうことが多いのだ。
したがって、ショートは1位の俺だが、もしフリーで転倒すれば即座に王座から転がり落ちる。
さて、今から4番滑走<ライバル>白河の演技が始まる。
昨日のショート、白河はコンビネーションジャンプで回転不足を取られ、ショート4位に沈んでいた。よって、巻き返しを狙うのフリーということになる。
やつのショートは『白鳥の湖』だが、フリーはこれまた定番中の定番、『ロミオとジュリエット』。しかも、最近人気の高い現代的なニーノ・ロータ版ではなく、バリバリ古典のチャイコフスキー版。まさに王道中の王道。
――リプレゼティングジャパン! ユーヤ・シラカワ!
彼の名前がコールされると、一段と大きな歓声が上がった。
青を基調とした衣装に身を包んだ白河。リンク中央へ向かう彼は、極めて落ち着いた様子だ。
ショート4位とはいえ、3位との差はわずか。他の選手も全員ノーミスとはいかないだろうから、フリーの演技次第ではメダルくらいは取れるかもしれない。
男子フリーでは合計8つまでジャンプを行うことができる(そのうち3つまでコンビネーションにしていい。ただし3連続コンビネーションは1つまで)。
フリーは、ショートと違って失敗しても多少の融通が利くものの、演技時間が長く技の数も多いため、どれだけ集中力を切らさずに演技できるかがポイントになる。
さて、彼は8つの内、3つのジャンプを演技の序盤に固めてくる。
まずは穏やかにストリングスが響く中、お得意のトリプルアクセル、そこからダブルトウループのコンビネーションを無難に決める。そしてルッツ、フリップと三回転を立て続けに2つ。どれもクリーン。序盤はノーミスだ。このあたりの手堅さが、彼の特技ってわけだ。
そしてステップを踏んでリンクを円上に駆けるサーキュラーステップシークエンス。そこからアクセルシットスピン、コンビネーションスピンとスピンエレメンツを2つ続ける。
そしてジャンプの基礎点が1.1倍になる演技後半に入る。ここから4連続でジャンプエレメンツが続く。
壮大なメロディーに載せて、まずはトリプルルッツ――着氷。そして曲の高鳴りに合わせてトリプル+トリプルのコンボ。
そして、わずかなストロークからスリーターン、直接トリプルループ。
そしてダブルアクセル+ダブツループ+ダブルループと、地味に得点を稼ぐ。
最後のジャンプ、トリプルサルコウの着氷とシンバルとが一体になった時、会場が弾けるようなひときわ大きな歓声に包まれた。
「うーん、白河君、最近どんどん強くなってるね」
コーチが言う。確かに、ジャンプはノーミス。他の選手次第ではメダルを狙えそうだ。もっとも、俺には遠く及ばないだろうが。
最後の見せ場、ステップシークエンス。あの有名な旋律にのせて、リンクを一直線に駆け抜ける。その勢いのままレイバックスピン。普通はは体の柔らかい女子選手にしかできないビールマンスピンで会場を沸かせてフィニッシュ。
スタンディングオベーション。リンクには花束やぬいぐるみなどが雨あられのように投げ込まれ、ちびっこのフラワーガールたちがせわしなく拾い上げる。
彼は観客に丁寧にお辞儀をして、手に持てるだけの花束とぬいぐるみを拾ってからキスアンドクライに入った。
白河が画面越しに、客に向かって笑顔で手を振ると、客が大きな拍手をした。
――ザマークスフォーユウト・シラカワ
会場が大歓声に包まれる。電光板の彼の点数の横にはPBの文字。パーソナルべスト、つまり自己最高記録を更新したことを意味する。
「おいおい、点数出すぎだろ……」
なんとショートフリー合計で239.5点。かなりの高得点だ。なにせ俺のプログラムに3本の四回転を入れて出した俺のパーソナルベストが243点なのだ。四回転1本も無しでこの点数が出るとは。
……まったく面白くない。
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