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俺はご飯を済ませてからホテル戻った。シャワーを浴びて、ベッドに腰かけテレビをつける。
ちょうど女子シングルの放送が始まっていた。
「あぶねあぶね、見逃すところだった」
放送は1時間の枠しかないので、映されるのは第2グループの選手だけのようだ。
今回NHK杯に出場する選手で有力なのは、元世界王者のガブリエル・レイノルズ。そして昨年全日本選手権準優勝の河合藍だろう。
まずはレイノルズの演技。ちなみに巨乳の金髪美少女で、個人的に大ファンだ。
「それにしても、よくあんなに重たいものを胸に二つもつけてジャンプを跳べるよな……」
もし彼女が貧乳だったら、たぶん四回転が跳べるに違いない。
完璧なトリプルトウ+トリプルトウを決めて首位に立つ。
そして、君崎にとって国内最大のライバル河合藍の演技が始まる。
彼女はコンビネーションを、トリプル+トリプルではなく、トリプル+ダブルにして手堅くまとめ上げた。結果、レイノルズに次いで暫定2位。
そしていよいよ君崎の番だ。
――12番。君崎凛さん、日本。
『さぁ、君崎凛が登場しました。今日はリン・スマイルが見られるか』
深紅の衣装に身を包んだ君崎。その表情は、まるで戦にでも向かうような険しさを湛えている。
『君崎ワールドが始まります』
カルメンに乗せて滑り出す。
女子のショートでは、四回転ジャンプは認められていない。だから今日、君崎が四回転に挑むことはできない。
『冒頭は彼女の代名詞ともいえるトリプルルッツ+トリプルトウループを予定しています』
鶴のように左足に体重を乗せて後ろ向きの助走。そしてエッジをアウトに切り替えてカーブを描き、トウをついてカーブとは反対方向に回転を始める。
流麗なトリプルルッツ、そしてここからトウループ――いや、
『なんと! ループです!』
『トリプルルッツ、トリプルループのコンビネーション。非常に難しいジャンプです』
彼女は得意のルッツ+トウではなく、さらにその上のルッツ+ループに挑んで完璧に成功させたのだ。
ルッツ+ループの三回転+三回転は、女子では最も難しい技で、跳べる選手はほとんどない。男子でもなかなか跳べない技だ。なんとこのエレメンツ一つで11点もの得点を誇る。
あんな技を隠し持ってたのかと素直に驚く。
そしてトリプルフリップ、ダブルアクセルを完璧に決める。
『これで3つのジャンプをべて成功!』
『チェンジフットコンビネーション。スピンのポジションも綺麗です』
スピン・ステップもぬかりなくレベルをしっかりとってくる。
『さぁここからは、君崎の時間! ストレートラインステップ』
『音符の捕まえ方もうまいですね』
『満面のリン・スマイル! 君崎凛、完璧に滑り切りました!』
『いやぁ、素晴らしい演技でしたね』
会場は総立ちで拍手を送り、大量の花束やらぬいぐるみやらが投げ込まれる。至るところで<凛><りんちゃん><RIN>等と名前が書かれた横断幕や旗が揺れている。
『リプレイです』
『最初のトリプルルッツ+トリプルループですね。非常に高さ、流れのあるジャンプでした。これはGOE、技の出来栄えの方で加点が付くと思います』
『彼女はトリプルルッツ+トリプルトウループを得意としていますが、今回はあえてルッツ+ループに変更してきました』
『やはりオリンピックを狙う強い姿勢が現れれていましたからね』
『さぁ得点が出ます』
パーソナルべストを大幅に更新、レイノルズと河合を抜いて1位に躍り出た。
……今日の彼女の演技は、挑戦心がむき出しになったプログラムだった。これは明日のフリー。もしかしたら、もしかするかもしれない。
――いったいいつぶりだろう。他人の演技にこれほどワクワクさせられたのは。
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