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学園の恋愛、型の外側に残されたもの

高等部3年生、進路に悩むひかるだったが、宿舎の中はある刺激的なニュースで持ちきりになっていた。


「○○ちゃんのところの両親、離婚するんだって」


下級生の女子生徒の親が離婚するという噂は、あっという間に女子宿舎全体へと広まった。


その子の両親は、かつて外の世界で同じ職場に勤めていた縁で結婚し、子どもが幼稚園に上がった頃に二人で村へ入ったのだという。


生粋の村の子として育ってきたその下級生は、取り乱す様子もなく、どこか冷めた表情でぽつりと漏らした。


「いつかは離婚すると思っていたんだよね」


村では、男性が年上で女性が年下という年齢差の夫婦が圧倒的多数を占めていた。


だからこそ、その子は「年上の妻と年下の夫」という自身の親の組み合わせが村の歪な構造の中で浮いていることを幼い頃から察しており、「いつか村の力によって離婚させられるだろう」と予感していたのだ。


その背景には、カワギシの根底に流れる強い価値観が存在していた。


「男は男らしく、女は女らしく」――。


それが村の掲げる理念のひとつだった。


性別によって求められる役割や性格、立ち居振る舞いが厳密に定められ、人はその「型」に自分を無理やり当てはめて生きることが求められる。


夜の研鑽会でも、時折こんなテーマが出される。


「高等部の女性として、『女らしい人』とはどういう姿でしょうか?」


車座になった生徒たちが、それぞれの意見を出し合う。


お淑やかであること。いつも明るいこと。立ち居振る舞いに優雅さがあること――。


出される言葉のどれ一つとして、ひかる自身には当てはまらなかった。


内気で、作業を休みがちで、人前で素直に感情を表現できない自分。


理想とされる「女らしさ」の型からあまりにも遠く離れている事実は、ひかるの胸にまたひとつ、重い劣等感を刻み込んだ。


お正月に行われる着物の試着やお茶会すらも、結局はそうした「女性らしく振る舞うための訓練」の一環に過ぎなかったのだ。



そして、村における「結婚」システムもまた、徹底して計画されたものだった。


高等部を卒業したあと、さらに上の学び場である「大学部」に進み、それを卒業して1年から2年ほど経つと、「調整部」と呼ばれる世話役の部署から声がかかるのだという。


「そろそろ結婚はどうですか?」


本人の意思確認という形をとりながら、調整部から「この人はどうですか?」と特定の男性を提示される。


断ることも可能ではあるものの、基本的には簡素なお見合いが設定され、お互いに同意すれば数回のデートを経てそのまま結婚へと至る。相手も例外なく年上の男性だった。



学園では男女間の恋愛が固く禁止されていた。


世間を知らず、純粋で「擦れていない」といえば聞こえはいい。


大人たちの用意したレールに素直に従い、調整部の提案通りにお見合いをして結婚していく者も少なくなかった。


けれど、厳格な恋愛禁止のルールが存在する一方で、隠れて付き合っているカップルも少なからず存在するようだった。


「朝早くに、あの場所で2人で会っていたらしいよ」


「お昼休みのほんのわずかな時間、畑に向かう途中の道端で話していたのを見た」


誰と誰が付き合っているのか、密かな逢瀬の噂は女子宿舎の狭い世界でひっそりと囁かれていた。


同年代と好き合って結婚したいと願う強い意思を持つ者たちは、最終的に「村を出る」という選択肢を選んでいく。



また、恋愛禁止を徹底している割に、なぜか食事の場面では男女が混ざり合って同じテーブルにつくシステムになっていた。


そしてその席でも、「女らしさ」の押し付けは当然のように存在していた。


大皿からおかずを綺麗によそったり、一人ひとりの茶碗にご飯をよそったりする係を務めるのは、決まって女子の役目だったのだ。


それもまた、村の言う「女性らしさの訓練」の一部なのだという。


そうして同じテーブルを囲み、給仕をさせられながらも、基本的に男子部と女子部の間で会話が交わされることは全くなかった。


ひかるにとってこの食事の時間は、美味しいご飯にありつけるものの、苦手な時間でもあった。


男子部の中には、女子部に対して平気で「きしょー」と言い放つような者もいたからだ。


中には根が優しい良い人もいるのかもしれない。


けれど、ひかるにとっては「基本的に極力関わりたくない存在」であり、本音を言えば普段の食事も女子部だけで気兼ねなく食べたかった。



仲良くなったら楽しいのだろうか。


きっと、この学園生活を前向きに捉え、上手く適応して楽しんでいる人たちにとっては、そういう会話や距離感も弾けるような青春の一片として楽しいものなのだろう。


ひかるはそう客観的に思いながら、自分には到底馴染めない冷たい隔たりを感じていた。


決まった型にはめられ、決められた相手と添い遂げることが「幸せ」とされる閉ざされた世界。


そこからどこまでもこぼれ落ちてしまう自分の居場所のなさを抱えながら、ひかるは冷めた視線で皿におかずを盛り付け続けていた。

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