↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
24/43

高等部1年秋、懐かしい再会

高等部1年生の2学期、ひかるの午前中の作業場は「野菜出荷場」に決定した。


そこにいる仲間たちは基本的には皆優しかったが、ひかるの体調は相変わらず不安定で、作業を休みがちな状態が続いていた。


出荷作業は時間と手際が命だ。


一人が休めば、その分だけ他の仲間の負担が増える。


優しかった仲間たちの視線も、日が経つにつれて少しずつ冷ややかになり、どこか疎まれるような空気が漂い始めた。



見かねた世話係は配慮のつもりか、ひかるを作業の「頭数」から外すという措置をとった。


最初からいないものとして業務を回す仕組みだ。


露骨に迷惑をかけることはなくなったものの、自分が集団にとって不要な存在なのだと突きつけられたようで、ひかるの胸には惨めさが残った。


そんな秋、村で「カワギシ博覧会」が開催された。


博覧会は毎年11月、約20日間にわたって大々的に行われる村の一大イベントだった。


「無所有」や「一体社会」といったカワギシの独自の理念や、農業・畜産・生活面にわたる具体的な活動内容を巨大なパネルにして展示し、全国からやってくる一般の参加者に向けて広報する場だ。


それだけでなく、村人がガイドとなって参加者を案内し、実際の農作業や出荷、調理といった現場の中身を包み隠さず見せるツアーも行われていた。


自分たちの「理想郷」を外部へ開示し、共鳴者を募るための重要な行事だったのだ。



その賑わいの中、思いがけない再会が待っていた。


あの日突然姿を消した元学園生の紬が、村の見学を兼ねて同級生たちに会いに来てくれたのだ。


久しぶりに見る紬は、どこかすっきりと洗練され、元気に笑顔を咲かせていた。


手紙のやり取りだけでは分からない生の表情に接し、ひかるは心から安堵した。


二人きりになれたわずかな時間、ひかるは以前から気になっていた「大検(大学入学資格検定)」について尋ねてみた。


紬は丁寧に、お兄さんから聞いたという話を教えてくれた。


「受験する教科は12個くらいあって大変そうだけど、どの教科も6割くらい点数が取れれば合格できるみたいだよ」


12教科という数字の大きさに一瞬圧倒されかけたが、「6割で合格」という基準を聞いて、ひかるの心に少しだけ現実味が宿った。


決して不可能な壁ではない。頑張って勉強を積み重ねていけば、自分にも何とかなるかもしれない――。


真っ暗な将来に、確かな灯火が灯った気がした。


紬は自分の近況についても話してくれた。


高校生になってから自分もアルバイトを始めたこと。


家計は決して裕福ではないけれど、家族全員で力を合わせて暮らしていること。


2人のお兄さんは引越しのバイトやコンビニの夜勤で汗を流し、父親は昔の友人のツテを頼って不動産営業の仕事に就いたこと。


(みんな、自分の足で必死に外の世界を生きているんだ……)


カワギシの「無所有・共用・共活の理想郷」とは全く違う、泥臭くも温かい現実の営み。


家族が肩を寄せ合って生きる紬の言葉は、ひかるの胸に強く響いた。


博覧会では、高等部生による劇の出し物が恒例となっていた。


ひかるは劇中の合唱隊に配置され、日中の作業が終わったあとの夜の時間を使って、仲間たちと練習に励んだ。



季節は巡り、冬がやってきた。


年末には大量の餅つきやお正月の準備に追われ、新しい年を迎えると、女の子たちは色鮮やかな着物に身を包んでお茶会に参加した。


行事の華やかさとは裏腹に、出荷場の作業は厳しさを増した。


冬場はハウスや畑で採れたほうれん草やブロッコリーの出荷が最盛期を迎え、凍えるような寒さの中で冷たい野菜を扱い続けた。


春になると、今度はニラやハウストマトの出荷に追われる毎日となった。



そんなある日、ひかるを激しい腹痛が襲った。


何日経っても一向にお腹の痛みが引かず、起き上がることもできなくなったひかるは、意を決して世話係に頼み込んだ。


「……お腹が痛くて治らないんです。診療所へ連れて行ってください」


村の中には、簡単な診察ができる「診療所」が存在していた(歯医者も村内に整備されていた)。


村の診療所で手に負えないと判断された場合のみ、一般社会の病院へ連れて行かれるという仕組みだ。


診療所で受診した結果、医師からは「急性腸炎だろう」と診断された。


「一応この薬を3日間飲んでみてください。それで治らなかったら、外の一般病院に行きましょう」


処方された薬を飲むと、幸いにも数日で痛みは引き、体調も持ち直した。


しかし、満足に食事ができなかったこともあり、体重は一気に3キロも落ちてしまった。


元々細かった身体はさらに削げ落ち、体力の低下に拍車がかかった。


そうして、身体の不調と小さな希望の狭間を揺れ動きながら、高等部2年生の1年間も淡々と過ぎ去っていった。


外の世界へ飛び出すための大検という秘めた決意と、相変わらず思うように動かない冷たい身体。


様々な思いを抱えたまま、ひかるはいよいよ、学園生活の最後となる「高等部3年生」の春を迎えようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。