欲望の三片「梅雨がくれば、夏も来る」
「なんか、もう暑くなってきた気がする。」
梅雨のじめじめした雨が頻繁に降り注ぎ、
ソメイヨシノの亡骸で肥えた土壌が喜ぶ季節に入り始めたこの九州地方。
私の町もだいぶ暑くなってきた。
丘の上の海東高校に行く自転車の数も減り、
朝の登校が、なんだか…さびしくなった気がする。
「……」
まぁ、車の方が楽だし、
あと、雨の日のカッパって蒸れるし、肌荒れるし、暑いし、気持ち悪いから…
「……」
そりゃ、色々と含めてそうなりますよね。
丘の上の方から、通り魔みたいに感覚でスカートめくりをしようとする風を
さっといなしながら、私は今日も学校に向かう。
木々の間から漏れ出すチクチクしてそうな陽光が
私を刺してから、影をとぎれとぎれに作り出していた。
「四葉乃さん」
「……」
後ろを振り向くと昨日助けてくれた人がただ静かに佇んでいた。
「昨日は、ありがとうございました。……あの」
「ほんと、怪我無くてよかったです。四葉乃さん。…修理代の話は金額が決まってから、また連絡します」
「……」
お名前が聞きたかったんだけど…
「……」
なんか、タイミング逃したような…
「なにか協力できることとかありますか」
「…別にないですよ。それに気にしないでください。あれは事故ですし」
「そうですか」
…何かできること…ないかな。
「何かできることですか」
「あの…口に出てましたか」
「すいません。少し、聞こえてしまいまして。」
…やらかした。いつもの癖が…
「そうですね…」
名前も知らない彼女は、少しだけ考えてから、
私の方を真っすぐ見てから言った。
「それなら、少し協力してもらってもいいですか」
「……」
「…はい、私にできることなら」
私は、少し食い気味に彼女の提案に乗ってしまった。
もしかしたら、ちょっと、不自然だったかも。
「……」
「そろそろ時間なので」
彼女は腕時計をちらっと見たあと、また「また連絡しますから」と
だけ言い残し、その場をそそくさとあとにした。
「……」
「そういえば、名前また聞き忘れた。」
ちなみに、その後、連絡先を見れば、
苗字くらいはわかるという当たり前のことに気づいた上で、
いきなり苗字を呼ぶのも不自然だから
今度あったときに聞こうと決心した私だった。




