欲望の二片「坂を下れば、暖色が煌めく」
扉が開いた瞬間、
冷や汗が全身から沸いてきていた。
まるで、怪物にバリケードを突破され、
食べられる寸前のような…
そんな感じの…
「……」
「……」
海東高校の制服を着た家主は、
私を見るなり、とても不思議そうな顔をした。
「……」
大きな穴の開いた天井と私を交互に見て、
ただ黙り込む。
彼女の紐リボンがひらひらと蝶のように舞うのを一瞥してから、
私はゆっくりと目線を下げていく。
早く謝らないと。
私のミスだから。
…でも、結局なんていえば…
「おじゃましております。」
「……」
「……」
…何を言ってるんだ、私は。
絶対、言葉選び間違ってるよ。
「……」
再び目線を落とした私は、
自分だけの世界に閉じこもることを選択していた。
だが、
「怪我してませんか? 大丈夫ですか?」
どうやら、彼女は世界線では違った。
「……」
「大丈夫です」
「なら、よかったです」
彼女の柔らかいオーラは、
私にはなんだかちょっとまぶしかった。
「崖から落ちたんですか?」
「…はい」
天井の開いたリビングの椅子に腰掛け、
私は事情を話していた。
「なら、すぐにでも病院に行ったほうがいいです」
「そうなんです…か」
「万が一、頭を打っている可能性もあります。少し歩けば、病院がありますので、早くそちらに向かいましょう。」
「…はい、わかりました。」
私は、少し胸を抑え、
紙コップに入った水をゆっくりと飲み干し、
彼女を追って外に出た。
「大丈夫ですか、まっすぐ歩けますか」
「大丈夫そうです。わざわざ気にかけてくださって、ありがとうございます」
「何かあったら、すぐにおっしゃってください。肩をお貸ししますので」
その後、彼女は私の前をゆっくりと歩きながら、
適度な距離感を保ちながら坂を下ってくれた。
夕焼けの暖色のせいか、
彼女はまるで幼子の手を取る大人のようだった。
「……」
診察をした結果は…といえば、
特になにも異常はなかった。
かすり傷だけで、大きな怪我はどこにもなかった。
何かあればまたすぐに来るようにとだけ、
お医者さんに言われた。
「怪我がなくて、よかったわね。黒」
「お母さん、また迷惑かけて…」
「いいのよ。崖のところにガードレールがいけないのよ」
お母さんは私が謝る前に言葉をさえぎり、少しなぐさめるように言った。
「前にも怪我した人がいたそうだから。」
「……」
「……」
「でも、怪我がなくて本当によかった。」
ここでひとつ、忘れていたのは、
助けてくれた彼女の名前を聞き忘れたことだった。
屋根の修理の関係で、連絡先はもらったのだけど…




