回答入手(犯罪)
俺たち五人は寮の部屋に戻り、食卓についた。
いつもはジュズが座る、誕生日席に俺がつき、話を始める。
「俺に聞きたいことは色々とあると思うけど、一つだけ教えて。お前らどこにいたの?」
「普通につけてたわ」
「そんなに堂々と言われましても……」
「友達が知らない女の子とデートしてたら、ついてくよ」
まあ確か、に?
俺も逆の立場ならやるかもしれないと、無理やり自分を納得させ、質疑を交代する。
「あの女の子は誰なの? ジャックハートさんとの関係は?」
「今から全部説明する」
人の秘密を勝手に暴露するようで気が引けたが、彼女らはもう無関係ではないので、話すことにした。
街中でハートと出会い、ジャックから二重人格の話をされたこと。
ハートと何度かデートし、消えないよう説得したこと。
そして……消えようとしていたのは、ジャックに脅迫されたせいだったこと。
「そんなことがあったのね」
「ああ」
あまりに特殊な状況に、他の三人はまだ飲みこめていないようだったが、シュヴァリィだけはいち早く納得したようだった。
「つまり、あのジャックとか言うのを斬ればいいんですね」
「まあ、そう――だな!」
窓から飛び出そうとしたジュズを引き留め、話を戻す。
「そういう訳で、決勝の試合、俺は先発で出る」
「……勝算はあるのKA?」
「ああ」
ジャックの芯界は、無限に湧き出す犬の軍団。
飛行能力は無いので、シュヴァリィのドラゴンならば、有利に立ち回れるだろう。
処理能力不足も、数と噴火で補える。
問題は――アイツが、まだ手を隠していそうなことだ。
本戦の試合において、ジャックは全てを数の暴力で轢き殺してきた。
まだ奥の手を抱えている可能性は十分ある。
「まあ、ハートを助けるためには、やるしかないか。ジャックを――殺す」
重い一言。
人殺しの経験は、一度もない。
覚悟を決めるための、自分への誓言だった。
しかし、
「それでいいの?」
イースが、待ったをかけた。
「……仕方ないだろ、ハートを助けるにはそれしか――」
「ラギナは、ジャックさんのことを、どれくらい知っているの?」
「それは――」
容姿、口調、戦法――ハートへの対応、くらいだ。
それも、正しいとは限らない。
俺は、まだ彼女の――彼女らのことを、何も知らない。
どうしてジャックが生まれたのか、どれくらい一緒にいたのか、どちらかを、殺すべきなのか。
「後戻りは、できないよ」
「わかった、時期尚早だった。決断は、もう少し調べてからでも遅くないな」
腹を括って、楽しようとしていた。
人の命を預かるなら、責任感を持たなければ。
張り詰めた空気が緩むなか、シュヴァリィが口を挟む。
「とはいえ、決勝は明後日よ。調べる時間はあるの?」
「ああ、ある」
犯罪なのでとても気が引けるが、殺人よりマシだ。
「何とかならないことは無い」
「そう。なら、今すぐ取り掛かりなさい」
「わかった。勉強部屋使うからなるべく来ないようにしてくれ」
「はーい」
一番勉強部屋を使うイースの返事を聞いてから、リビングを出て、部屋に篭った。
胸に手を置き、芯界を書き換えながら、嘯く。
「テトレディさんの教えを忘れるところだった」
心の中で猛省し――書き換えが完了した。
「Toughive log books」
「過去を見れるのがマプティルだけだと動きにくいよ〜。ラギナ君、コピーして!」
「また酔った勢いでそんな……マプティルさんが嫌がりますから」
「してもいいよ」
……意外な答えにギョッとし、彼女の方に振り返った。
珍しく本から顔を上げ、ジッと俺を見ている。
「マプティルさん、もしかして俺のこと――」
「代わりにコレ、教えて」
彼女が俺に見せたのは……日本語で書かれた、本だった。
「ッツ!?」
日本語。
この世界には存在しない、異界の言語。
反射的に本を奪い取り、パラパラとめくってみると、その正体がわかった。
「俺の、過去の本」
「そう。私の芯界は、触れた相手の過去が書かれた本を蔵書する、図書館。アナタの本も当然ある」
「ッ――」
深く読み込むと頭痛がしそうなので、一旦本を返した。
彼女は、その本をパラパラとめくりながら、
「他のどの言語と似ても似つかない。文字も文法も何もかも。けど、確かに文が書かれてる」
マプティルさんはパタンと本を閉じ、身を乗り出して言った。
「私は、この本の内容に興味がある」
「……」
「だから、取引。私はこの本の内容を一切口外しない。アナタに芯界を提供してあげる。だから――糸口を、ちょうだい」
マプティルさんの目は、怪しげに光っていた。
俺が、今まで触れてきた人の、生まれてから触れるまでが記載された本が並ぶ、不思議な書館。
許可無しに芯界で人を解析するのは犯罪だが――バレなきゃセーフだ。
「ジャックハート・トラヴェッド」
名前を言うと、一冊の本が吸い込まれるように飛んできた。
表紙には名前だけが記載された、辞書のように分厚い本。
これを、一日で読破する。
「さて……やるか」
覚悟を決めて、本を開いた。
芯界戦闘決勝戦。
先発のジャックと俺は、会場で睨み合っていた。
「逃げなかったことだけは褒めてやる」
「……」
「なにか言ったらどうじゃ」
「言いたいことは色々あるけど、勝ってからじゃないと聞かないだろ。だから――」
胸に手を置き、宣言する。
「絶対に勝つ」
「いい殺気じゃア」
両者目をバチバチに光らせ、準備が完了しーー気圧されたのか、少し遅れて審判さんが戦闘の火蓋を切った。
「開始」
「Magirl」
「Fusrest |barsusanima」
芯界で許可なく他人のことを詮索するのは犯罪になってます。




