アサシンハート
「はー、遊び尽くしましたね!」
ハートは楽しそうに、そして少し疲れたように言った。
彼女の左手にはヨーヨー、右は食べかけのリンゴ飴。
腕には金魚が下がり、顔にはお面をつけている。
少し持とうかと聞いたが、断られてしまった。
「屋台制覇したんじゃないですか?」
「ああ。けどまだ、メインイベントがある」
「……?」
「見てな」
芯界をシュヴァリィのものに切り替えて、一匹のドラゴンを取り出した。
航空法に違反することになるが――超低空飛行だし、大丈夫だろう。
「よし、乗れ」
「分かりました!」
二人を乗せたドラゴンが、少し重そうにしながらも大空へ飛び立つ。
そのまま、近くの山を登り、山頂に下りた。
外灯が並ぶ綺麗な景色に、ハートが目を輝かせる。
「ここは……もしかして、アフターエッ」
「違う! ――空を見とけ」
その時、空に火の花が咲いた。
パンッ
鮮やかな赤が、辺り一体を染める。
何か話そうとしている間に、次の花火が上がった。
パッパパンッ
次は黄緑色。
小さめのが三つ、空を埋めるように打ち上がった。
そこからは、息をつぐ暇もなく。
沈黙の夜空を花火が充す。
「……凄いです」
「そうだろ?」
「綺麗で、鮮烈で……儚い」
彼女は、花火から目を外し、俺の方を見つめた。
「良かったです。最後にこれが見られて」
「ッ……」
「今までありがとうございました」
「……ダメ、なのか? まだ、もうちょっとだけ――」
「……」
ハートは、無言で浴衣の袖を捲る。
彼女の腕は、ありえないほど真っ赤に腫れ上がっていた。
「ど、どうしたんだ!?」
「最近、交代頻度が高かったので。その反動です」
……おそらく、浴衣の下、彼女の全身は真っ赤だ。
今日は全身が痛かっただろうに、俺は、気づけもしなかった。
「……」
「最後に一つ、頼み事をしてもいいですか?」
「――何でもいいぞ。言え」
彼女は一瞬躊躇いを見せたが、しっかりと向き直り、
「私を、殺して下さい」
真剣な目で、言った。
「は!?」
「実は私、一人で消えることはできないんです。誰かに手伝ってもらわないと」
「……どういうことだ?」
「普通に肉体を殺しちゃうと、ジャックまで死んじゃうじゃないですか。私だけを消すには、どうしたらいいと思います?」
「……」
「芯界を、圧し潰してしまうんです」
……芯界の押し合いに負け、完全に自分の芯界が消えると、人は死ぬ。
その事象を目で見たことはないが、芯界があと少しになった時には、高所に立った時のように、本能が警鐘をならす。
芯界とは人の在り方を映し出したものだ。
それが消えると、その持ち主は当然死に至る。
確かに、ジャックとハートの芯界が違うなら、片方の芯界を消せば、そっちだけが死ぬというのは、説得力がある話だ。
「……俺の手で、ハートを殺せと。そういうのか?」
怒りを感じる声の問いに、ハートは毅然として答えた。
「はい……好きな人で、満たされて――死にたいんです」
ああ、駄目だ。
今ので確信した。彼女の方が、意思が硬い。
「、、、分かった。協力する」
「ありがとうございます」
ほぼゼロ距離で話していた俺たちは、互いに一歩引き、胸に手を当てた。
「Dream of bandy」
「Magirl」
今回使うのは、アメの芯界。
自分の芯界でやるべきだと思ったから、今回はこれでいく。
対して、ハートの芯界は……一面暗黒岩の暗い世界。
もう少し明るいものと予想していたが、ジャックに引っ張られたのだろうか。
そして、その中央で、ハートはナイフを握っていた。
「……せっかくなので、戦いませんか?」
「いいのか? 俺は強いぞ」
「じゃあ、勝ったら――キスして下さいね」
言い終わった途端に、ハートはナイフを掲げ、宣言する。
「変身!」
瞬間、ナイフから闇が溢れ出した。
漆黒の闇は、ハートを包み、その姿を変えていく。
数秒後、魔法少女に変身したハートが、姿を現した。
「じゃーん! みんなの心を影から射貫く、アサシンハートです!」
「敵幹部にしか見えない……」
「フェアリーシオンも最初はそんな感じだったので! では!」
ナイフで空を袈裟斬りしたかと思うと、その姿が消えた。
まあ、アサシンハートと言っていたし、そういうことだろう。
姿を消し、見えないところから、刺してくる。
「……」
とりあえず、自分を守るようにアメのドームを作り、近くに来れば感知できるようにした。
これを、どう突破するの――
ザンッ
俺の背後側のドームに、ナイフによる裂け目ができた。
まさかの脳筋突撃。しかも判断が早い。
瞬時に穴が空いた方をアメで攻撃したが、当たった感触がない。
斬るだけ斬って、突入していない!?
それに気づいた直後、今度は俺の真上に穴が空き――ハートが、降ってくる。
「とー!」
「ッ!?」
咄嗟にアメでコーティングした手で、ナイフを受け止め、そのまま投げた。
投げられたハートはアメの池に嵌り――捕縛に成功した。
「やっぱり強いですね」
「……」
ハートは芯界を押す力を弱め、少しずつ小さくなっていく。
完全に無くなるまで、あと数十秒。
「お願いばかりですけど、いいですか?」
「何だ?」
「抱きしめて下さい」
拘束していたアメを溶かし、痛くないよう優しく、抱きしめる。
彼女の体温が、衰弱するように低くなっていく。
その時、首筋に鋭い金属が当てられた。
ナイフ。
「私の勝ちです」
「いや、それは――」
口で、口を塞がれた。
甘い。甘酸っぱい。
ハートが消えるまで、残り十数秒。
彼女との記憶が脳裏を駆け巡る。
待て。
違和感がある。計算が合わない。
何か、重大な隠し事をされている。何か、大きな嘘をつかれている。
「ラギナさん?」
口を離して彼女を見つめ……一つの質問を投げかけた。
「ハートとジャック――主人格はどっちだ」
木曜はすみませんでした。
BOXイベが悪いよ……。




