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芯界  作者: カレーアイス
第五章 歪な二人
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夏祭り

 セーフ!

 数日後、一組のカップルが、夕方の小道を歩いていた。


「ラギナさんから誘ってくれて嬉しいです! 感激です!」

「それは良かった」

「今日は何するんですか? またデュエルですか?」

「や、違う。今日は……夏祭りだ」


ヒュルルル、パン!


 大きな火の花が、大空に咲き誇った。



 この世界では、夏に祭りをするという文化は無かったが、俺が作った。

 具体的には、俺がシュヴァリィに企画書を提出して、彼女が派閥の貴族を巻き込み、母である女王の許可を得て、王都で一つの祭りを開催した。

 支持率が上がるかもしれないということで、彼女もノリノリだった。

 名目上は宗教の記念日を祝うらしいが、そんなことはどうでもいい。

 楽しめれば。



 広場いっぱいに敷き詰められた屋台を前に、長袖の浴衣を着たハートは興奮していた。


「おー! 小さなお店がいっぱいです! どこから行きましょうか!?」

「まずは綿飴だろ」

「そうなんですか!?」


 企画書の段階では綿飴とリンゴ飴の屋台を十個ずつ置いてたのに、いつの間にか二つずつまで削られていた。

 誠に遺憾だが、入り口に配置してくれたのでよしとする。


「綿飴二つ」

「はーい」


 店員のお姉さんに頼み、二人分の綿飴をもらった。


「はいどうぞ」

「ありがとうございます!」


 ピンク色のフワフワ綿飴。

 食べてみると……甘くて美味しいけれど、少しフワフワ感が足りない。

 まあ、かなり唐突に決まった祭りだし、店員さんも慣れていないのだろう。

 帰りにもう一度寄ろう。きっと美味しくなってる。


「美味しいです!」

「ならよかった。次は――」

「私、アレが欲しいです!」


 綿飴を食べながらハートが指さしたのは、お面屋さんだった。

 ドラゴンやオーガなど、様々な種類のお面が置かれており、そこには魔法少女シリーズのものも並んでいた。


「全部買いま――いえ、推しのフェアリーシオンだけにしておきます」

「そうか……」


 キラキラした目を伏せ、フェアリーシオンのお面だけを手に取った。


 今言い直したのは、もうすぐ自分が消えてしまうからだろう。

 どうせもうすぐ死んでしまうから、最も欲しかった、一つだけに絞った。

 俺は今日、その決意を曲げさせる。


「どうですか?」


 お面を被ったハートが、浮いた声で聞いた。


「似合ってる。フェアリーシオンそのものだよ」

「えへへ。では、次は――」

「待て待て、何も見えないだろ。ずらしとけ」


 お面を頭の側面まで移動させ、視界を確保した。

 当の本人は不服そうだったが、危険なので仕方ない。


「うー」

「ほ、ほら、あっちに金魚(すく)いがあるぞ」


 ビニールのプールのようなものの中を、無数の小さな魚が泳いでいた。

 お金を払って紙が張られた輪状の針金を貰い、ハートに渡す。

 日本の金魚より大分大きく、少しグロテスクな感じがするが、ハートは気にならないらしい。


「これが破れなければいいんですね?」

「そうだ。慎重に――」

「とう!」


 勢いよく水に飛び込んだ紙は、金魚を捕捉する前に破れてしまった。


「……紙が弱いです!」

「お前のやり方が悪い。お姉さん、もう一回」

「あいよ」


 店員のお姉さんに再度料金を払い、新品の針金をハートに渡した。


「ゆっくり、ゆっくりだぞ」

「分かりました」


 今度はゆっくりと着水。

 そのまま、水面の近くにいる金魚の下に紙を置き――


「とー!」

「早まるな!」


 勢いよく振り上げ、無事に紙は破れた。


「これ、難しいです」

「ハートがせっかちなだけだ。犬の方がまだ待てるぞ」

「じゃあ、手本を見せて下さい」

「いいぜ」


 もう一つ針金を貰い、浴衣の袖を捲った。


 適当な水面近くにいるやつに狙いを定め、尾びれを枠の針金に引っ掛けながら、軽く持ち上げる。


「おぉ!」

「騒ぐな、ここからだ」


 息を整え、感覚を研ぎ澄まし――ヒュッと空中に放り投げ容器に入れた。


「凄い!」

「だろ?」


 慣れたものだ。

 昔は、妹にせがまれて――


「イッ」

「……どうしました?」

「何でもない。それより、これいるか?」


 金魚が入った袋を差し出したが、ハートは首を横に振り――


「自分で捕まえてこそ価値があるんです! もう一回!」



 結局、ハートが金魚を取れたのは三十回目だった。


「取れました!」

「「おめでとう」」


 ビニール袋の中を、赤い金魚が泳ぐ。

 すっかり寂しくなった財布を片手に、賛辞を送った。

 ずっと粘っていたせいで、店員さんからも大きめの拍手を貰ってた。


「やりました……この子をハートと名付けます!」

「何で自分と同じにするんだよ……」

「それは――」


グー


 ハートが何か話そうとした時、彼女のお腹が鳴った。


「……集中していたら、お腹が空きました」

「何か食べるか。リンゴ飴とか」

「アレが食べたいです」


 彼女が指さしたのは、かき氷屋だった。

 俺としてはリンゴ飴の方が良かったが、近くになさそうなので、折れることにする。


「味は何がいい」

「……ラギナさんは、何にするんです?」

「まあイチゴかな」

「じゃあ私はブルーハワイがいいです!」


 質問の意図がわからなかったが、この後すぐに明らかになる。


「んん、美味しいな」

「そうですね……私、イチゴ味も食べてみたいです!」

「……なるほど?」


 俺がかき氷を差し出す前に、目を閉じて少し恥ずかしそうに、小さな口を開けていた。

 その勇気に免じて、俺のスプーンでかき氷を口に運んでやる。


「美味しいです!」

「そりゃ良かっ――」


 開いている口に、かき氷が放り込まれた。

 味は、ブルーハワイ。


「お返しです!」

「……ありがとう」


 ありがたく味わい、飲み込んだ。

 この時の彼女の笑顔は、とても美しくて……儚くて。

 俺は、生涯忘れないと思う。


 遅れてすみませんでした。

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