海の首領と空の支配者
規則的な波が揺れる、広大な海。
そこに、十匹の大きなシャチが、姿を現した。
黒と白の体色、サメのような背びれに、鋭利な歯と、サイズが二、三倍あることを除けば、普通のシャチのような見た目をしている。
それらが綺麗に隊列を組み、中央のシャチにペルフィンを乗せ、火山に迫る。
対して、シュヴァリィは、集結した八十匹ほどのドラゴンを操り、上空で竜の陣を組んだ。
「右翼、ファイア」
「ヴァア!」
まずは小手調べとばかりに、右側にいたドラゴンが一斉にブレスを放射した。
重なり合い、まともに食らえば丸焼けになる威力がある。
まともに食らえば。
「水砲」
「シャア!」
一匹のシャチが大口を開けたかと思うと、口から水のレーザーを放った。
炎のブレスと水のレーザーが衝突し――ブレスが掻き消され、レーザーが竜たちに迫る。
「散開」
散り散りに離散して攻撃を躱したは良いものの、一つ分かったことがある。
遠距離の撃ち合いだと、絶対に競り負ける事だ。
「水砲」
今度は四匹のシャチが口を開けた。
「フォーメーション、蜂」
「ヴゥ」
レーザーが照射される寸前、シュヴァリィはドラゴンを八匹づつ、十個の部隊に分け、遊撃のような態勢になった。
大空に散らばり、レーザーを撹乱する。
「迷うな、一匹づつ落とせ」
「シャア」
指示に従い、四本のレーザーが一匹を集中狙いするようになった。
四方から飛来するレーザーの全てを掻いくぐるのは難しく、一匹、また一匹とドラゴンが落ちていく。
飛べなくなっただけで、命は落としていないものもいたが、落下中にシャチに咥えられ、水の中にに沈み……浮かんでくることは無かった。
「狙われてないのは反撃」
「ヴァア」
「交代」
集中砲火のターゲットになっていないドラゴンがブレスで反撃するが、海に潜られて回避された。
そして、待機していたシャチが交代し、レーザーを放つ。
今の十匹のシャチの役割は、二匹本体の護衛、四匹レーザー、二匹待機、二匹が落下してきた奴の止め役、といったところか。
かなり手堅く立ち回っており、一気に蹂躙されることはないが、少しずつシュヴァリィが不利になっている。
「海に潜られると手出しできないのが辛いな」
「シュヴァリィは何を狙っているんだろう? 遠距離の撃ち合いじゃ勝ち目ないよ」
「噴火RO」
イースの疑問にラミリが答えた。
最初から二十匹少なかったので、それらを噴火作業に回しているのは確実だろう。
今のシュヴァリィは、できるだけ芯界の出力を保つために、境界の近くで時間稼ぎをしている。
「でも、二十匹で噴火させるなら、もうできてる頃だよ?」
「そうだな……もしかして、溜めてるのか?」
噴火のエネルギーを溜め、より大きな爆発を起こす。
それくらいの調節はできてもおかしくない。
「……この噴火で押し切れるかが勝負だな」
「来ますよ!」
ジュズが兆候に気づいた次の瞬間、天地がひっくり返った。
世界の終わりと見紛うような、大地震。
それと共に、膨れ上がった火山が破裂し、噴火した。
ドッカアアアアアアアアアアアン!
黒い雲が立ち上り、溶岩が流れ、無数の火山弾が降り注ぐ。
「突撃!」
「ヴヴ!」
それと同時に、ドラゴンたちが一斉に急降下を始めた。
予想通り、ここで決め切るつもりだろう。
幾ら噴火の勢いがあるといっても、すべてのシャチを倒しきれるとは思えないので、狙いは本体狙いか。
しかし、
「潜航」
「シャア!」
ペルフィンを乗せていたシャチが、海に潜った。
万一にも本体がやられないよう、対策している。
そして残りの九匹は、海面に残ってドラゴンと応戦。
「……どうして海面にシャチを残したの?」
「多分、本体が呼吸するために、何度か浮上する必要があるからだ」
本体が出てきた時に、海面付近をドラゴンが制圧できていれば、本体狙いでワンチャンス作れる。
潜航時間は、訓練していることを考えれば二分ほどか。
あと二分後に決着が――
「待て……噴火工作をしてたドラゴン、どこいった」
いつもなら噴火と同時に飛び出して合流していたのに、今回はそれが見えない。
「出てきてましたよ」
「本当か!?」
「はい。……火山弾になってました」
「え?」
突然、撮影しているドローンの高度が下がり、水中を映す。
そこには……岩を抱えて、海中に沈んでいくドラゴンたちの姿があった。
「やりやがった!」
火山の噴火で、火山弾と共にドラゴンを発射し、潜水させた。
相手の本体を乗せたシャチは、状況把握がしやすいように浅いところにいたため、ドラゴンに包囲されている。
「シャア!」
「ヴァア!」
すぐに他のシャチが本体を守るため、海中に潜ろうとしたが、海上に残ったドラゴンがそれを許さない。
背を向けた瞬間に体に爪を食い込ませ、絶対に援護には行かせないという意志を感じさせる。
結局海面付近を制圧されてしまうと不利になるのも相まって、シャチも応戦体制に入った。
こうして、戦場は海中へと移動する。
状況を把握するため、本体を乗せたシャチが辺りを一瞥した。
四方八方上下を埋め尽くす、十匹のドラゴン。
潜航したのは二十匹だったが、上手く本体の近くに着水できたのは十匹だけだった。
追い詰められているようにも見えるが、別にそうでもない。
そもそも、シャチとドラゴンでは一匹一匹の強さが違う。
ドラゴン10に対してシャチ1で、ようやく適正な数の差だ。
そしてフィールドは水中、魚が有利なのは言うまでもない。
それでも戦いが成り立っているのは、シャチが本体という、一撃必敗の弱点を背負っているからに他ならない。
もしそれがなければ、泳げないドラゴンの包囲網など、簡単に強行突破できていた。
背びれにしがみついているペルフィンを逃がされれば負け、逆に、刺せれば勝ち。
これはそういう戦いだ。
束の間の膠着。
嵐の前の静けさ。
動いたのは、シャチだった。
「シャア!」
取った行動は、強行突破。
急加速して、包囲網の上側のドラゴンに喰らいつき、そのまま海面を目指す。
背側のドラゴンがそれを追うが、尾の一振りで蹴散らされた。
海面ではドラゴンが押されている状況、今息継ぎされると、終わる。
ドボン
その時、一匹のドラゴンが着水した。
足の裏を、もう一匹のドラゴンと合わせて。
「「ヴァアア!」」
同時に脚を蹴り出し、ロケットのように加速。
海面を目指すシャチに正面から立ち向かい、本体に手を伸ばした。
「ジャア」
しかし、届かない。
ペルフィンに手が届く寸前にシャチに喰らいつかれ、その勢いが止まる。
誰もが、最後の一手が止められたと思った、瞬間。
真の最後の一手が、伸びた。
ガッ
ペルフィンの腕を掴んだのは、ドラゴンの背にから飛び出した、シュヴァリィだった。
「ッ!」
すぐに攻撃しようと常備しているナイフに手を伸ばすが、シュヴァリィの方が速い。
あっという間に身を乗り出し、ペルフィンの脳天に、持っていたドラゴンの爪を突き立てた。
「試合終了」
「よく勝ったな……」
「本体狙いが上手くいった。褒められた試合じゃないわ」
「あの相性差で勝てたんだから凄いよ」
チームメンバーから称賛の声が上がる。
最初は淡々と答えていた彼女も、段々嬉しそうになっていた。
「これで、世界大会の出場は確定だよね?」
「ああ、ニチーム出場だから、決勝に上がった時点で確定だ」
しかし、決勝戦で勝つに越したことはない。
勝てば、世界大会でシード枠になれるらしいし、何よりシュヴァリィの評判が上がる。
みんな、最後まで全力で臨むつもりだ。
「相手は誰DA?」
「もう出てるみたい」
準決勝は同時に行われ、もう片方の方が先に終わっていたらしい。
勝ち残ったのは、チームトランピア。
……ジャックハートが所属するチームだ。
「……決勝が始まる前に、終わらせておいた方がいいか」
「どうしました?」
「何でもない。それより、シュヴァリィ」
突然、改まったように名を呼ばれた彼女は、戸惑いながら振り返った。
「なに?」
「例の件、早めることはできるか?」




