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アナーキアマガジン 〜無意味な全能証明〜  作者: 黒種恋作
Vol.1『ゲミニに灯るセントエルモ』
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第6話 『ゲミニ州上院議員 北河二ユウ』

「いい加減、現実を見なさい! もう昔とは状況が何もかも違うの! ゲミニは変わらなきゃいけないときが来たの! こんな泥船に人も時間もお金もかける意味なんてないのよッ‼」


「意味なんていくらでもある。ここが昔から、ゲミニ市民みんなの大切な場所だった! 源流ここを切り捨ててまで残った場所なんて――ゲミニじゃない‼」


「いいえ、これはダメ人間を立派な美しい人物に生まれ変わらせるようなもの。根本から変わらなきゃ、なにも始まらない! 私がゲミニを生まれ変わらせるの‼」


「その理屈だったら、更生させなきゃダメだよ! 間違いを受け入れ、許したうえで改善し、より良い方向へと支え導かなくちゃいけない! みんなでゲミニを変えるの‼」


「それができなかったからこんな話になったんでしょう! 新しい道を選んで前を進んでいる人だっているのに、そこの人達に何を求めているの? 時間を無駄にするだけよ! あと、その見栄を張った気色の悪い言葉遣いを今すぐ止めなさい! 本当は誰よりも――――!」


「――ふたりとも一旦、落ち着いてくれよ!」


 二人の姉が言葉の応酬を繰り広げるなか、妹ネレが割り込んだことで口論が止まる。

 互いの視線が険しいものへと変わり、一触即発の雰囲気が港へと伝播する。

 その場の者全員が、彼女達の向かう結末をかたずを呑んで見守っていた。


 ――そろそろ頃合いだな。割り込むとしよう。


「――一理あるね。ネレの言う通り、ふたりとも落ち着いた方がいいんじゃないかな?」


 その場にいた全員の視線が僕に向かう。アスリの左隣にいた僕は気にせずに人混みをかき分け、単身で騒ぎの渦中へと飛び込んだ。


「……あなたは誰かしら? その白い制服と………重装備されたおみやげは……」


 突然、眼前に現れた僕を警戒するようにユウは身構えるが――僕が身に着けている土産品を見て、明らかに声色が軟化した。


「ああ、これは失礼。僕はアウトサイダーという者です。セントラルから観光に来ました」

「……アウトサイダー? ――ああ、なるほど『テトラビブロス』ね。貴方があの――」

「あれ、僕のことを知ってるの? あっ、それとハロッピー!」


 僕が自己紹介しただけで組織名まで言い当てるとは、大した情報網をお持ちのようだ。


「貴方というよりは、『占星天姫ゲオグラフィア』が新しい組織を立ち上げたというのは、各州の代表達の間で有名な話よ? 市民からの認知度も高いわね……ハロッピー?」

「僕流の挨拶だよ。……で、ゲオグラフィア? ………えっ、もしかしてクラミのこと?」

「ええ、そのクラミ外務大臣が、英雄と何の実績もない異邦人を新たに見出したそうね?」


「――“新たに?” それはどういう――」

「――まって、アウトサイダー」


 聞き返そうとすると、遮るようにルケが口を開いて、僕の横までやってきた。


「…………話は聞いていたけど、まさかよりにもよってここにいるとは思わなかったわ。貴方ほどの有名人が、急にこんなところに来るなんて、一体なにが目的なのかしら?」

「わたしも彼と一緒にデート……もとい観光に来ただけ。もしかして、怪しまれてるの?」

「知略家とも呼び声高い彼女が、この都市の誰もが知っている『英雄』を囲い、この都市の誰も知らない『アンノウン』を新設したばかりの組織に招き入れた。誰もが興味を持ち、警戒するのは当然のことです。……まあ、私は貴方達セントラルのいざこざには関わる気はないわ」


 隠すつもりのない敵意むき出しの表情でユウがルケをにらむ。

 それと気になる単語をお口になられた方がいらっしゃいますが、無視です、無視。


「まあ、なんでもいいわ。とりあえず自己紹介ね。――私は北河二(きたかに)ユウといいます。ゲミニ州の上院議員を任されています。ゲミニが好きです。それでなんの御用ですか?」


 さっぱり端的に自己紹介をしたユウは睨むのをやめてもう一度、僕に目を向けた。


「ちょっと雲行きが怪しくなってきたから、少し口を挟ませてもらっただけだよ。ふたりにはゲミニの案内をしてもらっていてね。観光中に目の前でけんかされたら困っちゃうでしょ?」

「師匠………………」

「……たしかにそこまで満喫されていたら言い返せないわね」


 そう言って、ユウは僕の身体中につけられた土産品を凝視した。

 周りからすれば、無表情のユウが本音ではなにを考えているのか理解しづらかっただろう。

 しかし、僕にはユウは少し嬉しそうにしていることがとてもよくわかった。

 それは紛れもなく、故郷に対して誇りを持った人間にしか出せない顔に違いなかった。


「どんな事情があるのかも知らないよそ者が口出しするなって思うだろうけど、逆に第三者視点で言わせてもらうね? 今のきみ達を初対面の人が見たら印象最悪だ。どっちも故郷を大切にする気持ちは伝わるけど、もう少し気を付けて発言した方がいいんじゃないかな?」


「「………………」」


 柔らかく丁寧に仲裁の言葉をかけると、ふたりは押し黙って僕に耳を傾けた。


「………そうだ! これもなにかの縁だし、ユウさんもどこかゲミニのおすすめスポット紹介してよ? きみならガイドマップとかに載らない穴場スポットとか知ってるんじゃない?」


 おどけたように僕が言うと、彼女は考え込むように一瞬目を閉じ、すぐに目を開けた。


「……アムピトリ渓谷にあるエナリオの滝やヴォダの泉はどうかしら? ゲミニの人も滅多に立ち寄らない秘境とされる場所だけど、神秘的で美しい景色をまったり堪能できるわ」

「へ~そんなとこあるんだ。観光前に色々調べたけど初めて聞いたよ。さすがゲミニ市民」

「……そうね」


 ユウは満更でもない様子だった。どうやら彼女は喜び顔で表現しないタイプの人らしい。

 ゲミニの話になった途端、めちゃくちゃ嬉しそうな空気を醸し出している。


「……ごめんなさい。どうやら少し頭に血が上っていたみたい。確かにせっかくゲミニに来てくれたお客さんの目の前ですることではなかったわ」


 そんな風に世間話に花を咲かせると、突然ユウが謝罪の意を込めてか、頭をぺこりと下げた。

 それを見た周りの人達はひどく驚いていた。明らかにそんな空気ではなかったからだろう。


「落ち着いてくれたみたいでよかったよ」


 僕がそういうと、ユウはふと――誰かの存在に気づいたように人混みをちらりと見た。


「……ええ、落ち着いたわ。――だから、最後にこれだけは言わせてもらうわ」


 そしてすぐさま視線を戻し、ユウが目を感情的にギラつかせながら僕を見る。


「アナーキアで最も素晴らしく美しい場所は間違いなく――このゲミニよ。今は汚点塗れの復興状態にあるけれど、私が必ずゲミニを一番にして見せる。大勢の人達に認めさせて見せる。――それだけは胸に刻んでおいてちょうだい」


 そう大きく宣言した後、ユウは踵を返し、ひとりで港を後にした。

 めらめらと燃えたぎるその意志はまさに野心家と呼ばれるに相応しいものだった。

 内に秘めた野望を発露させたその姿を見て、田舎育ちの身の程知らずだと罵る者はいない。


 ――北河二(きたかに)ユウは紛れもなく、夢と情熱にあふれた人間だった。


「……ありがとう、師匠」


 ストラが代表して僕に礼を言う。それに対して返す返答は、とっくの昔に決まっていた。


「いいよ、いいよ。その代わり――きみ達の口から直接、事情を聞かせてもらおうかな?」


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