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アナーキアマガジン 〜無意味な全能証明〜  作者: 黒種恋作
Vol.1『ゲミニに灯るセントエルモ』
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第4話 『ポントスに咲く理性の光』

「へえ~師匠、あれからセントラルに勤めることになったんですか。漂流者から一気にエリート街道まっしぐらなんてさすがです! やっぱり私、本当に大物を釣り上げたんですね!」

「いや……ほんと流れに身を任せすぎるのはよくないなって学ばされた感じだけどね……」


 ストラとネレの案内の元、十分も経たずにポントス港にたどり着いた僕達一行はひとまず港全体を見て回ろうということになったので、宿泊先のお家に荷物を置いて、港の散策に繰り出していた。もちろん護衛なので、僕はアスリの左隣を歩いている。


「ねえねから話は聞いてたけど、にいにだったのか。PRライブ撮ってるときに釣り上げたってのは。あの動画めちゃくちゃネットで好評でさ? だいぶ再生されてるぜ?」


 ネレから【アナグメントフォン】――長いから『アナホ』でいいや。

 アナホの動画を見せられる。そこには、マグロの一本釣りを行うような感覚で釣り上げられる僕の姿があった。


「これのおかげで、一週間前までは結構客が来て盛り上がったんだぜ? イケメンの釣れる港って感じでさ?」

「ああ、そういえばネットニュースで見たなぁ。あれ、アンタやったんか」


 えっ、なんか知らぬところで有名人になってる。いや、うそ。知ってたよ、知ってたとも。

 僕はその記事の見出しを見た瞬間、そっ閉じしちゃっただけなんですよ、恥ずかしい。


「あの動画のアウトサイダー。かわいいよね。わたしお気に入りにしてる……」

「えっ?」


 今、鳥肌たったんだけど。いま滅茶苦茶怖いこと言われなかった? 気のせいにしとこ。


「ま、まあ、それにしても海がすごくきれいだね」


 ポントス港は砂浜と一体化したとても立派な漁港だった。波止場にはいくつもの漁船やクルーザー等が立ち並び、奥の方には魚を卸売りする巨大な市場も存在している。

 果てしなく地平線いっぱいに広がるエクセア海の大海原。

陽光に照らされ、海底の様子がはっきりと視認できるほど透き通っていた。


 ――ただ、ここも他の場所と同じで活気というものがまったくない。


「ポントスはアナーキア内外でも一番だと誇れる港です。大体の船は『アルミア社』製の魔法や超能力――【法式】を動力源にした物を使っているので、極力海も汚しません。エクセアを守ることも仕事ですから。……お金さえあれば、全部それに買い換えたいんですけどね」

「へー………そういえば、魔法だの超能力だの、不思議な力は全部【法式】ってまとめられているけど、それってなにか違い的なものはあるの?」


 これは前々からずっと思っていたことだが、この都市は前の世界だとファンタジー扱いされていたものが数多く存在する。魔法に超能力、吸血鬼やスライム、天使や悪魔みたいな人間以外の別種族にゴーレムやオートマタと呼ばれる機械仕掛けの人口生命体。

 そんな夢に満ち溢れた幻想パラダイスがこの都市の一つの側面であり、面白いところだ。


「吸血鬼だのエルフだのオートマタだのっていうのは、そういう人達がいるんだねで、済むことだけど、魔法とか超能力とかは話が別。法式ってまとめられている割には、人によって呼び方が違うみたいだからさ? この前セントラルを歩いていたら、知らない人が占星術とか奇跡とか神能とか口ずさんでいたよ?」

「えーと、それは……」

「――全部、似た者だよ。人によって言い方が違うだけでね。クラミが前に言ってたと思うけど、この都市にあるものはすべて外の世界で存在を否定され、必要がなくなったもの。アウトサイダーの反応からして、前いた世界にその異能ってものはなかった…………であってる?」


 ストラが言い淀んだのを察知してか、横にいたルケが説明しようと言葉を入れた。


「まあ……異能はなかった、かな? あれはそんな高尚なものなんかじゃないしなあ………」

「じゃあ、アウトサイダーのいた世界にも、昔は異能というものがあったかもしれない。でもその世界に異能は必要のなくなった、もしくは迫害されてしまったものなんだと思う」

「たしかに……教科書で悪魔と契約した人を魔女と呼んで裁判したみたいなのはあったね」


 だよね、とルケが、僕の言葉に頷いた。


「このアナーキアの外には無数の世界がある。そしてどんな世界にも産まれてきたのに邪魔だとか不要だと言われてしまうものは存在する。人や種族もそうだし、生きるための知恵、道具もそう。そんな世界から忌避されたもの達が最後にたどり着く楽園――それがアナーキア」


 そうか、なるほど。ルケの話で全貌が見えてきた。


「要するに、似たようなものだけど統一はできない。してはいけない。迫害されてたどり着いた楽園内でさえ、その存在を否定されるのは誰だってごめんだ。だから、どんな名前で入ってきても、その存在を受け入れ、その存在を常識とする。――そういうわけだね?」

「その通り、えらいえらい」


 ルケがしゃがめと合図してきたので、言う通りにすると頭を撫でてくる。

 しかし、そっか。そうなんだ。

 どこの世界であっても、生命は過ちを犯してしまうものなんだね。


「みんな違うけど、根底にあるものは一緒。行き所のない悲しみがある。まさに似た者同士か」


 ならば、超能力だの魔法だの、違いはしっかり覚えてあげないとだめだな。

 僕もまた、彼らと似通った存在。この都市にお世話になっている身なわけだし。


「まあ、ややこしいことには変わりないから、慣れとらんうちは、方言を覚えるもんやと覚えときや。些細なことやし、『プラトニアアカデミー』とかのえらい学者さんしか気にしとらん」

「なるほど。生活用語としては大雑把だけど、“学術”的には、一応分類されているんだね」


 確かプラトニアといえば、アナーキア屈指の名門校で、外からやってきた者達に基礎知識を教えるための学校として代表例らしいね。僕は例外扱いされて、入学できてないけど。


「ま、そういう勉強の話は置いといてさ。にいに、ルケさん、アスリっち、見ろよこの景色を!」


 そんなこんなで僕らはから少し離れた灯台のふもとにたどり着いた。

 ネレに言われ、目を向けた先に広がっていたのは、まさに絶景と呼ぶに値するものだった。

 海と空がまるで鏡のように続くその様は、まさに水天一碧。

 陸から先に広がる海の渚は悠々と波を打ち、己が自由の象徴であるかのように振舞っていた。


「――これはホンマ絶景やねぇ」


 自然が創作した天然の芸術品を見て、うっとりとした表情でぽつり、アスリが呟く。


「だろ? この灯台はポントスのシンボルでさ。昔はよくここから見る景色を肴に恋人と愛を囁きあったんだとさ」

「夜になると星が空いっぱいに広がって、星の光で夜道を歩けるくらい綺麗なんだ」


 声のトーンを一段階上げ、時栖姉妹は誇らしげに語る。

 彼女達にとって、このポントスという港は大切でかけがえのない居場所なのだろう。


 ――たった一度、ほんの少しの間だけ、僕も作ったことがあるから、それは理解できる。


「「……ここはふたりにとってかけがえのない、大切な居場所なんだね――――あっ」」


 ノスタルジックな感情を言葉という記号で表現すると、ルケと意見が噛みあった。

 一言一句違うことなく、声色でさえも同等の―――まるで双子が繰り出す感情。


「師匠にルケちゃん。二人共、仲いいんだね」

「うん、相思相愛だもん」「いや、たまたまだよ。……えっ?」


 ステラから微笑ましものを見る雰囲気がガスのように充満し、僕とルケ以外を笑顔で包む。

 原初の創作家、大自然め。やってくれたな。お前のせいでからかわれちゃったじゃないか。

 ルケの様子を見ると満更というかめちゃくちゃ嬉しそうに頬を赤く染めていた。

 時々、背筋がゾッとする感覚に見舞われる気がするが、いい雰囲気なのでよしとしておこう。


「……ん? というかあそこの海のど真ん中、今にも怪獣が出てきそうな空気だけど、なに?」


『えっ?』


 それは今いる灯台近くから海を見て、ちょうど真ん中のところだった。

 海面を巨大な影が浮上する前兆とばかりに膨らみ始めていた。

 それはまさしく大きな光だった。光という装飾品を身に着けた恐ろしき怪物。

 輝きを放つその巨体は半分以上が透明で、顔にある黄色い小球体と内臓であろう部分にある真っ赤な球体だけが不透明のままむき出しになっている。胴体の前部にはこれまた、大きな透明な六枚の翼が左右に二枚ずつ連なって、まるで天使を思わせるような姿をしていた。


「えっ、なに? あのおっきなクリオネ?」


 海面からゆっくりと直立不動、縦にスライドするように巨大なクリオネは、己がエクセア海の主と言わんばかりに存在感を放ち、本当なら滅茶苦茶シュールな絵なのに、その輝きと相まって、神が地から這い出てきたように思えた。


「ああ、今日は一週間のルーティンだったね。あれはエマヌエルっていうエクセア海の新たな『ヌシ』です。今からビーム飛ばしてきますけど、ここに到達しないので安心してください」


「「「えっ、ビーム?」」」


 まったく安心できないストラの言葉を聞いたネレ以外の三人が反応すると、エマヌエルとやらの輝きが身体全体の単位でさらに増幅した。

 太陽が擬人化したかのように錯覚するほど、光は強くなり――一瞬のうちに消滅した。


「「えっ、消えた?」」


「というより必殺技、準備完了! 発射します! って感じだね」


 そうだ。あれをゲームのボスで例えるなら、今のは時間切れの即死攻撃を放つ前兆。そのためのチャージタイムみたいなものだ。そしてその考えはまさにテスト満点花丸解答で――、



『―――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!』



 ――眼球を焼き尽くさんとする《理性の光》が腹から放たれ、世界を包み込んだ。


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