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アナーキアマガジン 〜無意味な全能証明〜  作者: 黒種恋作
Vol.1『ゲミニに灯るセントエルモ』
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第3話 『ゲミニの双児姉妹』

 それから数時間が経過し、僕らはゲミニ州のいたる所を観光して回った。

 ゲミニの観光名所で有名なのはケトビーチ、レーネスの丘、ハリモグラ市場などがある。

 どれもこれもゲミニの美しい文化や歴史、その美しい街並みを代表するうえで、欠かせないスポットであり、実質初めてやってきた僕からすれば、大満足の場所ばかりだった。

 でも――、


「……なんか全然人がいないね」


 このかんこ――護衛任務のため、スケジュール管理を任された僕は、ネット記事を中心にガイドブック等を購入し、その中でも選りすぐりの観光スポットをこの日のため選出してきた。

 実際、その評判通り魅力あふれる場所ばかりだというのに――お客さんがどこにもいない。

 歩いているのはアナーキアらしくエルフだの魔人だのゴブリンだのゴーレムだの見境ないが、全員間違いなくゲミニ州民だろう若者達がほとんどで、老人は見当たらない。

  どんよりと皆が顔を地面に俯かせて、仕事に勤しむ姿はなかった。


 ――“ゲミニ州、活気あふれるおさかな楽土、命が廻る海の世界。”


 そのキャッチコピーは偽りだったのだろうかとさえ思うほどだ。


「……まあ、アウトサイダーより満喫している人はたしかにいないね」


 左端を歩いていたルケが振り返って、僕にツッコみを入れてくる。


「……アウトサイダー、さっきから新しいスポットに着くたび、どんどん身体におみやげが装備されていってるよ? まさに重装備って感じ」

「え……………?」


 ルケに言われ、自分の身体を見ると確かに至る所におみやげグッズが装着されている。

 へんてこメガネや腕につけるハリモグラのぬいぐるみとカチューシャ、レネのハーモニカ等、他にも色んなグッズが目白押しだ。


「確かにちょっと買いすぎたな……そろそろ自分で使える分のお金が消えそう」

「あははっ、なんやそれ! アンタ、おもろい人やな!」


 真ん中を歩くアスリからけたけた愉快に笑われる。

 一応、護衛という都合があるため、僕とルケを挟んで行動しようということになったのだ。

 僕はアスリから見て左隣。ルケは右隣だ。


「いやあ……アスリって僕の事情はある程度、知ってる? 元々僕って、旅行客なんだけどさ」

「あーなんかクラミちゃんが言うとったな。なんか即時スカウトされたんやっけ?」


 アスリの回答に僕は頷く。


「そうなんだよね~。アナーキアの職業安定所ってすごいよね。実績なしの履歴書も書けない無職を拉致して、手に職つけさしてくれるなんてさ?」

「ぷっ……職業安定所って。間違っとらんけど、セントラルのことそう呼ぶ人初めて見たわ!」


 どうやらツボにはまったのか、僕の一挙手一投足に対してげらげらと笑うアスリ。

 まあ、喜んでもらえて何よりである。


「それで、アウトサイダー。次はどこに行くの?」

「ああ、次はポントス港だね。ガイドブックでも一押しされていた間違いなしの観光スポットで、アナーキア一の漁獲量を誇る港だよ。その近くの海辺にあるコテージが宿泊先でもあるね」


「――んあ。ポントスぅ?」


 ルケからなにか返されるかと思いきや、聞き覚えのない声が耳に響いた。

 声がしたのは道の隣にある砂浜の方。舗装された道が砂浜よりもすこし盛り上がっているので、少し下の気づきにくい場所。

 そんなところに、なにか得体のしれない神々しさを感じさせる少女が砂浜に鎮座していた。


「おい今、ポントスつったよな? もしかして客人か?」


 燃え盛る炎のように真っ赤な髪と青い瞳。青を基調としたセーラー服と水兵帽を着て、荒らしい口調で語りかけてくる少女は、まさに屈強な海の船乗りを彷彿とさせた。


「……貴方はだれ?」

「どうもこんにちは! ハロッピー!」

「ああ、ワリぃワリぃ。突然で驚かせちまったな。――オレは時栖(ときす)ネレっつうもんだ。この先のポントス港で働く海の女ってやつよ! ネレでいいぜ! よろしくな……ハロッピー?」


 少女がルケに返事を返し、軽やかな身のこなしでガードレールを飛び越えた。


「オマエら観光客だろ? そこのにいちゃんの装いからしてそうだ。――って、ええ⁉」


 突如として、ネレがある一点に向かって指を突き刺した。完全に有名人を見たときの反応だ。


「おい、アンタ。もしかして天見川(あまみかわ)ルケか? もしかしなくてもそうだよな⁉」

「そうだけど」

「え、うそ、マジかよ! セントラルの英雄がなんでこんなトコにいんだ⁉ すっげぇ‼」


 特撮ヒーローが変身したときの反応でその場で少女――ネレがぴょんぴょん跳ねる。


「てか、客人が来るなんて久しぶりだから、心がすっげぇ舞い上がっちまった。大歓迎だぜ! お三方、もしよかったら、オレがポントスの案内を――――いったぁ⁉」


 突如として、ネレの後頭部に青色のナニカが鋭くぶつかり音を鳴らした。

 それは刀の持ち手である、“なかご”と呼ばれる部分だった。


「――やっぱりここにいたんだ。ダメだよ、お客さんに絡んじゃ。ネレはちょっと威圧感がすごいんだから。人の往来が激しい場所とか特にね。コンビニ前とか」

「威圧感って、オレはコンビニ前でたむろってる不良じゃねえ! ……って、あ、ねえね⁉」


「「「ねえね?」」」


 その印象から飛び出てくるには可愛らしすぎる単語に驚きつつも、ネレの後ろにいるだろう新キャラに目を向ける。


「――――え?」

「――――あ、師匠?」


 その人物に対する記憶は僕の脳内に鮮明に残っていた。水色の髪と赤眼が特徴的な着物を羽織った少女。二週間前、僕がこの都市を来訪した際に命の恩人として出会った少女。


「―――ストラ、さんだよね?」

「うん! お兄さん、否、師匠! 今までなにしてたの! 心配したんですよ?」


 見覚えしかない少女ストラが勢いよく僕に向かって飛びついてくる。装備品おみやげの影響で支えきれず、僕と彼女はその場に倒れこむ形で再会を果たした。


「……師匠ってなんの話や? おふたりさん、仲ええなあ」

「……師匠って呼ばれてる人が、腰が低いのは要チェックだね。――ライバル登場の予感?」

「なんだ? 知らない間に、新しいにいにが、できてたのか?」

「いや、各々考えを述べてないで、この混沌とした状況をなんとかまとめてよ!」


 少し離れたところ他人事の雰囲気出さないでください。何とかして。

 てか、ルケさんが何やら不穏なこと言ってたような気がするけど、気のせいかな。


「――ま、よくわかんねぇけどさ! とりあえず、続きはポントスでしようぜー!」


 あ、ネレさんがなんとかしてくれた。ほんとありがとう。


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