表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異邦の鉄血戦線 〜その戦争、承りました〜  作者: ムック
陰陽双克譚シェン・ダーディ
PR
80/81

79.神聖なる都

 異端者の逮捕から一夜明け、一行は金白都(ジンバイ)を出発した。


 馬車にて三日を費やし、現在は日が昇る前の早朝。ようやく一行の旅路が終わろうとしていた。登り調子だった馬車はやがて峠に差し掛かかると左手に見える空の色が淡色に光り始めていた。そして小高い山の峠を越えると――


 眼下には見渡す限りの巨大都市が広がり、その中心には超がつくほど大規模な建造物――角張った三段のウェディングケーキを想起させる巨城が孤島のように鎮座していた。

 現代の建築技術を集結したような圧巻の街並みにリリィが息を飲む音が聞こえる。ただこの光景は誰にとっても同じこと。衝撃的な景色を前に、一同は目を奪われることしか出来なかった。


 神のおわす地、首都ディダン。神によって認められた者しか立ち入ることを許されない神聖な都市。悪魔の徒党と蔑まれた鉄血機構(パラベラム)はようやくその地に足を踏み入れることになるのだ。


 馬車が向かう先には城と見まごうほどの巨門。栄華を誇るように華美な装飾が施されたその門は同じように都市の四方に配置されていることで知られている。アシェルたちの正面にそびえ立つの赤き巨門は『永掟朱雀門』だ。


「門大きいっ!」


「いやぁ、実に大きい()()だねぇ。」


「アーサー、やかましい。」


 アーサーのふざけた意図を汲み取りアシェルがピシャリと一言。


 入都できる者が極端に制限されていることもあり、門前に長蛇の列が、なんてことはない。アシェルたちを乗せた馬車は待つことなく門番の応対を受ける。


天授(ギフト)の申告、もしくは許可証の提示を求む。なお虚偽は重罪であり即座に厳罰に処されるため留意せよ。我々の目は欺けないと思え。」


 ギラリと鋭い視線がアシェルを刺す。

 恐らく門衛の誰かが真偽を見抜く類の力をもっていることが予想される。でなければ天授(ギフト)は詐称し放題になりあっという間に都内は無法地帯だ。


 ただ、我々の訪問はあくまで公式。アシェルが書簡を門衛に渡すとその中身を一読する。一行の正体が鉄血機構(パラベラム)であることを知ると、汚いものでも見るように眉をひそめる。だが、そこに一つの偽りもないことが分かると己の役目に準じて業務をこなした。


「本物の神皇様の印……確かに。入場を許可する。」


「感謝する。」


 アシェルたちが都市に踏み入ろうとすると応対した門衛が厳しい声で呼び止める。


「待て。神皇様のことだ。これは穢魔(ダート)である貴公らへの恩情なのだろう。くれぐれも面倒事を起こすんじゃないぞ。」


「無論だ。俺たちは()()を結びに来た。危害を加えられない限り、俺たちから手を出すことはない。」


「危害だと?神皇様がそのような騙し討ちをするわけがなかろう!侮辱のつもりなら今ここで切り捨てても構わんのだぞ!」


「仮定の話だ。そんな意図はない。」


 門衛の耳に届いた言葉は全て真意。彼らがいくら腹を立てようが職務に忠実である以上は手は出せない。


「チッ、さっさといけ!」


「では失礼する。」


 すると、カラカラカラと扉の裏で鎖同士がぶつかるような音が鳴る。もうじきに扉が開くだろう。その前にリリィが意外そうにアシェルの顔を覗く。


「なんであんな言い方したの?」


 リリィにはアシェルの言葉が挑発的に聞こえたのだろう。


「建前を虚偽とされては困るからだ。」


 アシェルが吐き捨てるように言うとすぐさまアーサーが横槍を入れる。


「いいや違うだろう、『多芸功者(オールセカンド)』。君は仲間が軽視されることが我慢ならないんだ。」


「今すぐ口を閉じろ、『錠断(シャーロック)』。」


 ヘラヘラ笑うアーサーを無視していよいよ開かれる扉の奥をじっと見る。閉ざされていた門がギギと軋りながら開く。まるで地獄の蓋が開くような行き詰まる迫力。その先に待ち受けるのは――


 煌びやか。豪華絢爛。アシェルは未だかつてここまで彩色に溢れた街並みを見たことがあっただろうか。金白都(ジンバイ)でも見た瓦屋根と提灯はこの国の文化なのだろう。だが数が圧倒的に違う。そして基調は赤と金。その配色はまるで街全体が燃えているかのように鮮烈だ。


 門衛の一人が一行の案内につき馬車を誘導する。進めども進めども燦々たる景色は途切れることなく続く。そして、街の中でも一二を争うほど背の高い朱色の建造物の前まで来ると中に招き入れられた。

 どうやらそこは賓客を迎えるための場所であるらしく、敷地を跨ぐ際に立派な門が出迎えた。


 『(ポーター)』は馬車の手入れのためその場で離脱し、残るメンバーで建物の中に入ると男女に分かれてスタッフに連れられる。この国で過ごすための衣服と式典に着ていく正装を選ぶことになっていた。前者は目立たないための配慮。後者は厳粛な式典への必需品として、だ。


 再び全員が合流するまでそれなりの時間を要した。 

 アシェルとアーサーの服選びは一瞬だった。型は長服(チャンパオ)一択。シェン・ダーディ発祥の武術カンフーに用いられる丈の長い衣服。簡潔に例えるならくびれのない寸胴のワンピースの側面に深いスレッドが入ったような服だ。下にはゆるっとしたボトムスを履く。

 アシェルは常用している戦闘服に倣って上下を黒に統一し、アーサーは対照的に白を選んだ。

 アシェルが姿見で身なりを確認すると思いのほかサマになっている。


「どうしたんだい、『多芸功者(セカンド)』君。自分の姿に見惚れでもしたかい?」


「そんなんじゃない。」


「ちなみに私はとても満足している。これならいくらか釣り上げられそうだ。」


 言外に『女性を』という目的語を含んでいることをアシェルは理解している。


「余計なことはするなよ?」


「しないさ。余計なことは、ね。」


 アーサーが言って聞くような性格でないことも知っている。アシェルは諦めの境地に達し、ため息をついた。


 それから準備に長い時間を要したのは女性陣だった。とりわけリリィが強いこだわりを発揮し、服選びを難航させたのは容易に予測できた。


「お待たせ致しました。」


 先に合流したのはルインだった。深夜の夜空のように深い紺色の旗服(チーパオ)。男性用の長服(チャンパオ)に比べ身体にぴったり張り付く仕様のためボディラインが浮き彫りになっている。そして腰近くまであるスレッドからは黒タイツが覗く。


「ルイン嬢、相変わらずお美しい!」


 アーサーがいつもの調子で絶賛する。アシェルとて異論はない。同意を込めて一度頷く。


「ありがとうございます。」


 ルインは照れるでも喜ぶでもなく淡々と返す。業務報告を聞き届けるように。男性陣の評価などまるで意に介していないように映る。


「あ……マスター、よくお似合いです。」


 雇い主に対するお世辞を忘れないルインはさすがである。『私は!?』とビックリするアーサーを無視してアシェルも言葉を返す。


「そうか?だがルインほどじゃない。」


「恐縮です。」


 ルインは深々とお辞儀をする。その顔が能面のように無表情であることは見なくとも分かった。


 それからかなり遅れてやってきたリリィはテカテカした赤色の旗服(チーパオ)に髪を後頭部で纏めた団子ヘア。あいも変わらずド派手に美麗な姿である。アーサーはオーバー気味なリアクションで拍手を送る。


「お待たせっ!どやさ!」


 リリィが服装を見せつけるようにポーズを取る。アシェルは腕時計を確認した。


「時間がかかり過ぎだ。」


「はぁ、わかってない。全然わかってないよアシェル。」


 リリィは哀れみとも呆れともとれる微妙な表情でアシェルの肩にぽんと手を置く。


「紳士はね、淑女にはこういうとき『全然待ってないよ』って言うのよ。」


「それを言うなら淑女は『どやさ!』なんて言わないぞ。」


 アシェルは置かれた手をすっと払いのける。リリィは悔しさで頬をぷくっと膨らませてジリジリと睨む。


「皆様、お揃いでよろしかったでしょうか。」


 案内人が話しかけづらそうにしながら声をかけてくる。


「ディラン様がお待ちです。これより応接間にご案内します。」


 これから対面するのは鉄血機構(パラベラム)への書簡の差出人であり、神皇の右腕であるルゥ・ディラン。神話の時代より神に仕えてきた一族の末裔である。


 そんなことよりも。リリィが待たせすぎた非礼をどのように詫びるか。アシェルの頭の中はそのことで一杯になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ