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異邦の鉄血戦線  作者: ムック
受戒指定禁域イステカーマ
29/76

28.本戦

イカレ野郎ども(クレイジィィィィズ)及び(エーン)愉快で騒々しい皆々様(チョートルメェン)ッッ!興奮醒めやらぬ夜で眠れなかったかことでショウ!ついに、今日、イステカーマの序列が塗り替わるのだから!お待たせ致しました!昨日に続き第二部、本戦の開幕でぇぇっす!」


「「おおおおおおおおおおおおお!」」


 アシェルを含めた出場者十六名が見世物のように闘技場の真ん中に立たされ、地面が揺れるほど馬鹿デカい歓声に包まれる。

 出場者はそれぞれ観客に向かって手を振るなり、独自のパフォーマンスをして場内をさらに湧かせた。

 事前の調査で全員の顔は把握しており、その中に当然ドロテアの姿もあるわけで。彼女は人の目も気にせず、我関せずで干乾びた小魚を(かじ)っていた。


 アシェルが呆れ顔でドロテアを見ていると不意に視線が交錯する。直後、彼女はピッと指先で光る何かを弾いた。

 アシェルは自身に向かって飛んでくるその物体をキャッチし、手の中にある物を除くと――


小魚だった。いや、要らんが。


「……昨日ぶりだな。」


「うむ。せっかく戯れてやろうと思ったのだが当たるのは決勝か。残念だ。」


 それはアシェルが決勝まで勝ち上がることはない、という侮った考えによるものだ。お互いの持つ力を考えれば、その評価は何も間違っていないわけだが。


「楽しみは最後まで取っておくものだろ?」


「そうか。期待せずに待つとしよう。……ちなみにドロテアさんは先に食べる派だ。」


 ドロテアは去り際にポツリと呟き、再び興味は手元の小魚に戻っていた。

 その間、一部からアシェルに対してブーイングの嵐が巻き起こっていたが、気にすると心労が増えそうなので聞こえないフリをした。

 ちなみにそのブーイング集団が掲げる段幕には『ドロテア親衛隊(ファンクラブ)』の文字が。嫌でも「ドロテア様が下賜を!?」「あんな小童にぃ。」「殺す!」などと忘我混沌の声が耳に入る。


いや、よく聞くと他にも


「おい、あれ!カウラ様に触れたけしからん小僧だっ!」

「あいつのせいでカウラ様がぁ!」

「せめて一回戦で無様に負けろ!」

「カウラ様以外に負けるのは許さん!」

「殺す!」


 理不尽な罵詈雑言が飛び交っている。優勝なんかしようものなら身の安全が脅かされそうな雰囲気である。


「テメェ、随分と人気者じゃねえか。」


 とまた、一人の男が歩み寄ってきた。イステカーマの平均的な体格よりは細身だがガッチリと引き締まった体に金髪のオールバック。野性味があふれる男前の口元から鋭く尖った八重歯が覗く。


「決勝まで残る気でいるらしいじゃねえか!そりゃあ俺たちへの宣戦布告ってもんだ。先ぃ言っとくぜ。テメェが決勝まで残ることは万に一つもねえ!なにせ、初戦の相手は俺様なんだからよお!」


ドロテアとの会話が耳に入ったのだろう。血気盛んな青年は喧嘩上等と言わんばかりに槍の矛先をアシェルに向けた。


「ちょうどいい。俺にとって万に一つは充分過ぎる。」


「なんっっだそれ。クソかっけえな、おい!だが、その様子じゃあ俺様が誰だか知らんらしいな!聞いて慄け、俺様の名は――」


「ビクトル・ブリトー。知っている、不撓不屈の戦士の名だ。」


 二人の会話とは無関係に、突然歓声が一段と大きくなった。

 アシェルとビクトルは会話を中断し、全観客席から見える言わば放送席とも言える壇上を見た。

 ド派手な金ピカ衣装を身にまとった男が、天に指を指しながら登場する。


「司会進行はこの私、『Mr.(ミスター・)お祭り(フィエスタ)』ことF・F・フィエスタがお送りしまぁす!」


 続けざまにフィエスタと自称した男は進行を始める。


「さあ、ここからは出場者の紹介です!まずは言わずと知れたこのお方ァ!亡き大英雄の後を継ぎ、現『十六勇将』序列一位の座に座る不羈奔放(ふきほんぽう)の戦乙女、【人形師(ラグ・ドール)】ドロテア・ピニャーレスッ!」


 名が呼ばれたと同時に怒涛の大声援。これぞ祭り、と見せつけるような音圧が体にズシンと響く。


「続きまして――」


 そこから順に出場者の紹介が始まった。ドロテアを除きその殆どが【戦士(ウォーリア)】か【拳闘士(インファイター)】の天授(ギフト)持ちのなか、また一人希少な天授(ギフト)を持つ者がその名を呼ばれた。


「幾度の敗北をもってしても、彼に膝をつかせることはできなかった!世代を代表する若き強者(スター)の一角、不倒の槍使い、【槍兵(ランサー)】ビクトル・ブリトー!」


 ビクトルは槍を高々と持ち上げて、さらなる歓声を誘った。

 強者には喝采を。その言葉通りだとしたら、彼もまたこの国で強者と認められし戦士なのである。それは天授(ギフト)からも読み取れる。


槍兵(ランサー)】は【戦士(ウォーリア)】の派生天授(ギフト)だ。

 伝聞による知識ではあるが、生来与えられた天授(ギフト)はある特殊な条件下で変容することが確認されている。


 【槍兵(ランサー)】の場合、【戦士(ウォーリア)】を規定の位階まで習熟させたうえで、槍術において極めて高い練度が要求されるとか何とか。

 そこに至る人間が一割にも満たないことから、求められる練度は最低でも達人クラスとまで言われている。


 それをこの若さで成し遂げているビクトルは名実共に次世代の強者(スター)なのは確かだろう。


 ここまでで十五名の紹介が終わり、未だにアシェルの名前はない。


 自身が心配することではないが、取るに足らない無能力者をトリにするとは司会役もセンスがない。アシェルは場がシラケると腹を決めつつ、ついに紹介が始まった。


「そして、最後は大注目のこの人だあ!予選にてあのカウラ・ヴェスタを破った今大会最大のダークホース。イステカーマの窮地に現れた未知なる来訪者!その正体は救世主か、はたまた破滅の使徒か。驚くなかれ、望むるは惜しみない喝采のみ!鉄血機構(パラベラム)、使節団代表、『多芸巧者(オールセカンド)』ォォ!」


「うおおおお!」

「昨日はすごかったぞ!」

「今日もすげえもん見せてくれよな!」


 先程までの苦言やら罵詈雑言を容易く塗りつぶすほどの声援が会場を満たした。


 世界に歓迎されている――

そう勘違いしそうになるほどの大声援に、今まで感じたことのない困惑と気恥ずかしさがアシェルを襲う。


 思えば物心がついたときには既に『穢れた悪魔』―穢魔(ダート)として世界から侮蔑と忌避の対象だった。そんな人間がこれだけの人から肯定されるなんて今までは妄想ですら許されなかった。


 アシェルは非現実的な光景を前にして頭がクラクラする。そんな不甲斐ないアシェルの姿を見て何を思ったか、ビクトルが悪態をつくように言い放つ。


「なにしけた面してやがる。誇れよ。これはテメェが示した力の褒賞だろうが。」


「正直、驚いている。まさか俺が『穢魔(ダート)』と知らないのか。」


「ハッ、関係ねえよ!弱者には嘲笑を、強者には喝采を。それがここのルールだ。強さこそが己の存在価値。テメェはその手で価値を示したんだぜ?」


「野蛮だな。」


「分かりやすくていいだろ?」


 ビクトルはニッと口角を吊り上げて、八重歯を輝かせた。


「まぁな。」


 アシェルの口角も応えるように自然と上がってしまう。野蛮と評した腹の中では不思議と充足感が熱を帯びていた。


 それから本戦前のイベントはつつが無く進行し、足早に第一戦目が開始される運びとなった。鉄は熱いうちに打つもの。観客の熱が収束する前に燃料として第一戦目の対戦カードが発表される。


 その日の盛り上がりを決定づける重要な一戦。その一戦目を飾るのは最も観客の興味を引く大注目のカード。


「初戦、ビクトル・ブリトーvs『多芸功者(オールセカンド)』!」


 アシェルは刀を手にビクトルと対峙した。

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