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異邦の鉄血戦線  作者: ムック
受戒指定禁域イステカーマ
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14.5 悪鬼

「ここより南部、アイロニ荒原にて異常個体(ディヴィアント)と思しき存在を確認した。座標は後ほど送る。直ちに現地に向かいこれを撃破せよ。」


 リリィとの実験を終えたのも束の間、アシェルに新たな指令が下った。


「でぃゔぃあんと?あー、はいはい、あれね。ツチノコ的な。」


「賭けに出るなよ。」

 

 顔を真っ赤にするくらいなら素直に知らないと言えばいいのに、と頬を紅潮させるリリィを見てアシェルは思う。

 そもそも知らなくとも無理はないのだ。日頃から悪鬼(イビルズ)と相対する戦士職でもなければ聞き馴染みのない言葉だろう。


 これを説明するためにはまず悪鬼(イビルズ)の分類について知らなければならない。


 悪鬼(イビルズ)は危険度に応じて三つの分類に分けられる。最も危険度が低いものは『通常個体(コモン)』と呼ばれ、外見や習性からさらに細く種別される。甲冑を模した姿をした武装型(アーマー)や獣の姿をした猛獣型(ビースト)など(タイプ)は多岐に渡るが同時に攻略法も確立されている。それ故に危険度は最低ランク。


 対して、どの(タイプ)にも当てはめらない形態、もしくは行動原理が通常のソレとは異なるものは分かりやすく『異常個体(ディヴィアント)』と呼称されている。

 今回の討伐対象はこれだ。だがその危険度は『通常個体(コモン)』の比にならない。さらに上の分類に至る可能性を考慮すれば、大国の軍が出動する事態にまで発展しうる。


 そして、最高レベルの危険分子として認定されたものは『特異個体(シンギュラー)』と呼ばれるようになる。認定条件は人類に対して甚大な被害をもたらすこと、もしくはその潜在能力(ポテンシャル)が確認されること。被害の拡大を防ぐために個体ごとに識別名が与えられ、大教会が管理する『特異個体発見報告(シンギュラーレポート)』に記録される。ここに記されたものはまさに『天災』。それ以上に相応しい言葉をアシェルは知らなかった。


「わかったか?」


「わかりたくないかも。」


 リリィは自身の両側のこめかみをグリグリしながら考えをまとめているようだった。


「今から『異常個体(ディヴィアント)』を討伐しに行くのよね?『通常個体(コモン)』ではなくて。」


「そうだ。」


「たった三人で?」


「そうだ。」


「あれぇ……私がおかしいのかな……。」


「そうだ。」


「そうなわけないでしょ!さっき軍が動くレベルって……軍が動くレベルって!」


 私おかしくない!と言わんばかりに声を張り上げるリリィ。 アシェルに向けた人差し指がプルプルと震える。


「心配ない。大丈夫だ」


 アシェルは向けられた指を払いのけて、ため息交じりに諭す。


「だいじょばないと思うんですど……。」


 アシェルの飄々とした態度にリリィはそれ以上何も言うことはできなかった。


 それから程なくして螺旋翼機(ヘリコ・プテロン)で発見現場に急行することとなった。片道二時間程度の空の旅。山を一つ、二つと越えた先。廃村らしき寂れた土地の上空で機体は移動を止める。


「あれだ。」


 アシェルの視線の先。リリィが双眼鏡を覗くと確かに悪鬼(イビルズ)と思しき物体が佇んでいた。一体だけ、ポツンと。

 一本の細脚で立っている姿は案山子のようでもあり、長く伸びた首の先には鳥のような大きな嘴を持つ頭部が見える。目測で全長五メートル程度。明らかに異質。既存の枠組みから外れた異形である。


「ほ、本当に大丈夫なのよね……?」


「無論だ。」


 アシェルは黙々と何かの準備に取りかかっている。リリィにわかるのはそれが鉄製の武器らしいということだけ。長尺の棍棒のようにも見えるが、それにしては余計な凹凸や装飾が多すぎる気がした。


「一つ講義をしてやる。」


 アシェルはなおも手を止めることなく準備を進める。


「『異常個体(ディヴィアント)』の戦闘力はピンキリだ。『特異個体(シンギュラー)』のようにさらなる脅威に発展する奴もいれば、『通常個体(コモン)』に毛が生えた程度の奴もいる。」


 戸惑いながら話を聞くリリィをよそにアシェルは続ける。


「だが『異常個体(ディヴィアント)』の正確な力を事前に知る術はない。実際に戦ってみないことには擁する能力も近接、遠距離の得手不得手も分からないからな。」


 なら大丈夫かどうか分からないじゃない、とリリィは内心思いながらもここは抑えることにした。きっとアシェルにも考えがあるのだと。


「なら大丈夫かどうか分からないじゃない。……あ。」


「なんだ、『……あ』って。」


「どうぞ続けてください。」


 アシェルは訝しげに顔を歪めたが、ようやく武器の準備を終えると席を立つ。自身とリリィの片耳に無線機を取り付け、武器らしきものを肩に担ぐと螺旋翼機(ヘリコ・プテロン)の扉を開いた。風とプロペラの大音量が一気に機内に吹き込む。


 講義の続きは小型無線機からリリィの耳に入る。


「俺たちのような力のない弱者が事前情報なしで『異常個体(ディヴィアント)』と戦うなど命がいくあっても足りない。自殺行為だ。」


 アシェルは足場のついたロープを外に放り投げ、自身も命綱(ランヤード)を装着する。イカつい武器を肩に担いだままロープにしがみついて空中で静止した。


 ロープの揺れが安定するとアシェルは肩に担いだ武器に付いたスコープを覗き込む。未知の悪鬼(イビルズ)の姿をその視界に捉え、照準を合わせ引き金に指をかける。次の瞬間――ドンッと音が響く。


「だから俺たちはまず敵を知らなければならない。敵を知り尽くし勝つための道筋を確固たるものにする。それが俺たち無能力者に許された唯一の戦い方だ。」


 悪鬼(イビルズ)は爆散した。


「まぁ、『異常個体(ディヴィアント)』に限った話ではないがな。」


「え……敵を知り尽くすって……あれ?あれえええええ!!!?」


 悪鬼(イビルズ)が木っ端微塵に吹き飛んだと同時にリリィの理性も吹き飛んだ。

 だっておかしいのだ。口では知り尽くすなどと言っておきながら敵は一撃で消し飛んだ。話が違う。


 見誤っていなければ一度目は光が放たれた。それは悪鬼(イビルズ)に傷一つ与えることはなく儚く消えた。だが二度目は違う。棍棒に見えていた部分が射出され、悪鬼(イビルズ)に直撃すると同時に爆ぜたのである。


「な、なな、何したの!?ふっ飛んだんですけど、吹っ飛んだんですけど!?何なのあれ!」


「肩撃ち式追光強襲兵器、『際限の藁(ラスト・ストロー)』。いわゆるロケットランチャーだ。ふぅ……やはりいい威力だ。」


 アシェルにしては珍しい満足げな声だけが無線越しにリリィの耳に届く。


「いわゆるって言われても……。」


 ロケットランチャーはまだ人類の歴史には刻まれていない兵器。そもそもリリィが知る由もないものであった。

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