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異邦の鉄血戦線 〜その戦争、承りました〜  作者: ムック
受戒指定禁域イステカーマ
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14/81

14.能力表示

 新作スイーツの試食権という多大な対価をもって、リリィはある実験の被験者となった。


「それで、私にできる仕事なんてあるの?」


「ああ、もちろんある。何ならリリィにしかできないことだ。」


「ふっふっふ。やったりましょう!」


 リリィにしか、という部分を聞いた途端、彼女は意気揚々と袖をまくる。


 実験は数日に渡って訓練室で行う。それほどハードな内容ではないものの、ある程度動けるスペースとして訓練室は最適な空間だ。かつてアシェルが対人格闘や剣術を身に着けた場所でもある。


「それで、私にしかできないことってなぁに?」


能力表示(ステータス)の調査だ。」


「あ、なるほどね!」


 リリィは何故自分にしかできないか、その理由をすぐに理解した。鉄血機構(パラベラム)のメンバーは全員が無能力者だ。

 それは天授(ギフト)祝業(スキル)を持たないだけでなく、自身の能力表示(ステータス)すら見ることができないことを指す。

 そんなアシェルたちが超常の力を持つ者に対して対等以上に立ち回るためには、相手のことを熟知する他ない。


「まずはリリィの能力表示(ステータス)を紙に書き写してくれ。」


「わかったわ!能力表示(ステータス)開示(オープン)!」


 リリィは特定の文言を唱えたあと、虚空をじっと見つめる。アシェルから見るとリリィはただ何もない空間を見つめているだけだが、彼女には自身の能力に纏わる要素が数値として見えている。


「やはり、俺には見えないか。」


「当たり前よ。そもそも他人に見えるものじゃないからね。基本的にだけど」


 彼女が『基本的に』と言い表した理由は分かっている。何事にも例外は存在するものだ。


 その一部の例外として【鑑定士(アプレイザー)】や【共感者(センシビリティ)】は他人の能力表示(ステータス)を盗み見ることができることが確認されている。

 だが、これらの天授(ギフト)持ちはあまりに希少で一国に一人いるかどうか、さらには存在が認知された場合には教会及び教皇国に身柄を保護されるのが通例である。

 よって、アシェルが遭遇する可能性は極めて低いと言っていい。


「できたわ。」


 アシェルがリリィから紙を受け取るといくつか区分された能力が記載されていた。

---------------------

リリィ・オクトルール

[ギフト]

-     

[ロスト]

-

[パラメータ]

SP   :1/1

 スタミナ:100/100

 攻撃力 :500

 防御力 :23

 敏捷力 :15

 精神力 :20


[スキル]

〈任意型〉

狐化かし(アウトフォックス)-Lv1 消費SP1


〈自動型〉

-


[状態]

-

--------------------------------


過去の調査結果とも照らし合わせて特に目につく所はない。ただ、一点を除いて。


「バカタレ、嘘を書くな。」


「バレたー。」


 アシェルでも一目でわかるひどい改ざんがある。攻撃力の数値500は間違いなく嘘だ。ステータスはあくまで加算値。通常の肉体に上乗せされる不可視の力だ。一般的に、攻撃力が50も加算されれば赤子のパンチですら大の男の拳に匹敵する。それが500ともなればその威力は計り知れない。


「で、本当の値は?」


「ご…めんなさい。」


「謝罪はいい。実験をするんだから本当の数値がわからないと意味がないだろ。どれだけ低かろうと気にしない。」


「……ご。」


「え……?」


「だから……5。」


 アシェルは絶句した。想定外の数値に一瞬だけ思考が停止したのだ。攻撃力5といえば野良猫の猫パンチ程度の威力と聞く。まさに猫の手を借りた程度の力だ。


 弱いという自覚があるリリィは珍しく赤面していた。だが気にしないと言った手前、アシェルは無闇に言及することもできず、気まずい空気のまま話を次に進めることにした。


 二人は記載された項目を上からなぞるように検証を重ねる。


名前、天授(ギフト)ともに事前の調査通り。


 まずはSP。意味は分からないものの、祝業(スキル)の消費SPという記述から使用回数を制限するものと断定した。時間経過によって自然回復するらしいがその速度は非常に緩やか。ちなみにリリィの場合、狐化かし(アウトフォックス)一発で限界がくる。


 スタミナはその言葉通り、力の持続性に関する数値のようだった。走れば数値は減少するし休めば回復する。消耗速度は動きの激しさや運動環境にも影響を受け、マッサージや入浴、睡眠で回復速度は向上する。

 これは無能力者にも通ずるもので、イメージとして最も理解はしやすかった。


続けること数日。


『攻撃力は装備での補強は不可。リリィに剣を持たせても攻撃力の値は変動しない。』


『防御力は肉体へのダメージ軽減を担っている。力を発揮するのは意識的に防御をした時のみ。裏を返せば意識外からの奇襲には適用されない。また絞め技、関節技に対する抵抗力も薄い。』


『敏捷性はおおよそ瞬発力と置き換えてもいい。足の速さだけでなく、腕の振りや反応速度にも影響を与える。攻撃力との相関は不明。』


『精神力は検証不可。リリィの経験則により苦痛や恐怖への耐性に大きく影響していると推測。精神干渉への抵抗力や逆に支配力に結びつく可能性が高い。』


 考えれば考えるほどステータスに対する興味は深まるばかり。数値は一体何を基準にして付加されているのだろうか。


 『付加されている――一体、誰に?』


 アシェルは閃くように思い浮かんだ疑問を振り払う。


 もし本当に神とやらがいるのならそれによる仕業なのだろう。だが仮に上位の存在がいたとして自身が観測できるとも限らない。考えるだけ無駄だ。

 そういえば原初の使徒(イワンガーチル)の逸話は残されているんだったか。それもどこまでが真実なのかは甚だ疑問が残る。伝説、神話とは得てしてそういうものだ。


 何はともあれ、実験は大変有意義なものになった。

疲れ果てて足腰立たなくなったリリィにアシェルは労いの言葉をかける。


「助かった。おかげでいい情報が得られた。」


「ぜぇ……ひっ……はぁ、はぁ。うそ……つき……。ハードじゃないって……言ったのにぃ……。甘いもの……忘れないでね……。」


 そう遺してリリィは力尽きた。アシェルは仕方ない、とリリィを寝室まで運んでやることにした。

 それと『萬職人(フル・クラフター)』との試食権の交渉も。

 非力な少女にしてはよく頑張ってくれた。ご褒美としてそれくらいは準備する価値があったというものだ。


 リリィを抱き上げるとルインと視線が交錯する。


「どうした?」


「いえ、あ……マスターもお疲れ様でした。」


 後日、リリィには新作スイーツのおはぎを差し入れた。

 はじめリリィは渋いチョイスだと顔をしかめた。それを見てアシェルは鬼気とした表情で迫る。おはぎには一家言あるのだ。

 素人はコーティングの餡こにこそ目が行きがちだが、美味いおはぎの本領は米にこそある。

 もちろん餡自体の品質(クオリティ)も然ることながら、その甘味を引き立たせ、食感にアクセントをもたらし、さらに本来の甘みで上品に余韻を締める役割は米にあるのだ。


 (がわ)に囚われてはいけない。真の意味でスイーツを楽しむならば本質を見極めなければならない。


 アシェルがそう語ったところリリィは白い目を向けたが、実際におはぎを口にした彼女はその魅力に取り憑かれたように頬張っていた。

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