↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
96/123

第96話 5名様、行き先未定

 二学期初日の学校は、朝から少し騒がしかった。


 久しぶりに会った友達同士で夏休みの話をしている声が、教室でも廊下でも途切れない。


 始業式が終わり、教室へ戻ってからは、提出物を出したり、配られたプリントを鞄へしまったり、担任から二学期最初の連絡を聞いたりした。


 それだけで今日の学校は終わりだった。


「終わったー」


 帰りのホームルームが終わると、みつみは机に突っ伏した。


 まだ昼にもなっていない。


「何が?」


 隣から千尋が見る。


「学校」


「今日、授業一個もなかったじゃん」


「でも朝起きた」


「そこから?」


「夏休みなら、まだ寝てた日あるし」


「それはみつみの問題でしょ」


 千尋が笑いながら鞄を持つ。


「部室行く?」


「行く」


 みつみもすぐに起き上がった。


     ◇


 部室には、二人より先に佳奈子がいた。


「早い」


「そっちも」


 佳奈子は椅子に座ったままスマートフォンを見ている。


 みつみが鞄を置き、千尋も隣の椅子を引いた。


「始業式どうだった?」


 佳奈子が聞く。


「座ってた」


「私も」


「感想それだけ?」


「あと眠かった」


「朝から?」


「みつみは朝起きた時点で疲れてたから」


「それは盛ってる」


「さっき自分で言ってたじゃん」


 話しているうちに、扉が開いた。


「もう来てたの?」


 志帆が入ってくる。


「志帆遅い」


「別に遅くないでしょう。まだ午前中よ」


 鞄を置きながら時計を見る。


「というか、今日ここに来るって決めてたっけ?」


「決めてない」


 佳奈子が答える。


「じゃあ何で全員来る前提なの」


「志帆も来たじゃん」


 みつみに言われ、志帆は少し黙った。


「……それはそうだけど」


 そこへ、もう一度扉が開く。


「こんにちは」


 絵美里だった。


「エミリン」


 みつみが手を上げる。


「一年生ももう終わった?」


「終わりました。先輩たちも早いですね」


「授業ないからね」


「一年生もないです」


 絵美里はいつもの場所へ鞄を置いた。


「始業式だけなのに、なんか疲れません?」


「あ、それ」


 みつみがすぐ反応する。


「エミリンも言ってる」


「でもみつみ先輩は朝起きたところからですよね?」


「なんで知ってるの」


「今聞こえました」


「味方じゃなかった」


「味方になる話だったんですか?」


 五人揃ったところで、学校の話はそれ以上続かなかった。


 夏休み前と同じように、それぞれ椅子へ座る。


 ただ、窓の外はまだ昼前だった。


     ◇


「で」


 佳奈子がスマートフォンを机へ置いた。


「次、どうする?」


「何が?」


 みつみが聞く。


「ダン活」


「あ」


「忘れてたでしょ」


「忘れてない。今ちょうど考えようと思ってた」


「絶対今思い出した」


 佳奈子に言われながら、みつみもスマートフォンを取り出した。


「アラワン大迷宮の続き」


「それダン活じゃないから」


 千尋の返事が早い。


「でも未攻略」


「まだ言うの?」


 志帆が嫌そうな顔をする。


「志帆が始めたんじゃん」


「あれは昨日まで」


「そんな期限あった?」


「今作った」


「じゃあ無効」


「なんでみつみが決めるのよ」


 絵美里が四人のやり取りを聞きながら、自分のスマートフォンを開いた。


「私は美部谷、もう一度行きたいです」


 今度は全員がそちらを見る。


「シャドウウルフ?」


 千尋が聞く。


「それもありますけど、すぐ倒しに行く必要はないと思います。前は五階まで行くことを優先したので、途中で見ていないところもありますし」


 絵美里は美部谷のページを開いた。


「一回行ったから、今度は前と違う進み方もできますよね」


「街もまだあるよ」


 みつみが横から画面を覗く。


「そっちですか?」


「だって前も結構見たけど、全部じゃないでしょ」


「前はそれでダンジョン入らず終わったんですけど」


「でも楽しかったじゃん」


「それは……まあ」


 絵美里は否定しなかった。


「今度は両方見ればいいじゃん」


「時間なくなりません?」


「じゃあ先にダンジョン行く?」


「それならいいです」


「決まった」


「美部谷へ行くこと自体は、まだ決まってません」


「細かい」


「そこ大事ですよ」


 志帆もスマートフォンを取り出した。


「美部谷もいいけど、別の候補も見ておきたいわね。二学期ずっと同じところに行くわけでもないでしょうし」


「なんかある?」


 みつみがすぐそちらへ寄る。


「今探してるの」


「見せて」


「だからまだ何も出てないって」


「出たら見せて」


「はいはい」


 千尋も自分のスマートフォンを開いた。


「じゃあ私も近場から見よっかな」


「遠いのはなしね」


 佳奈子が言う。


「あと朝早いのもなし」


「条件出た」


 みつみが笑う。


「学校始まったばっかで、休みの日まで早起きしたくない」


「佳奈子先輩、海のときも似たこと言ってませんでした?」


 絵美里が顔を上げる。


「あれは海のために早起きするのが嫌だったの。今回は普通に早起きが嫌」


「同じでは?」


「違うよ」


「どこがですか?」


「気分」


 絵美里は数秒考えたあと、追及するのをやめた。


「……分かりました」


「分かったの?」


「分かってませんけど、これ以上聞いても同じだと思ったので」


「それ正解」


 千尋が笑った。


     ◇


 しばらくすると、五人のスマートフォンには別々のページが開いていた。


 美部谷を見ている絵美里。


 別の候補を探している志帆。


 近場の一覧を見ている千尋。


 距離や交通を見ている佳奈子。


 そしてみつみは、自分の画面より他の四人の画面を覗いている時間の方が長かった。


「千尋、それ何?」


「さっき見たやつ」


「どんな?」


「今開くから待って」


「志帆のは?」


「まだ読んでる」


「エミリン、美部谷なんか増えた?」


「情報は増えませんよ。さっきと同じページです」


「佳奈子は?」


「電車で一時間半」


「遠い」


「だから閉じようとしてる」


 みつみはまた千尋の画面へ戻る。


「写真ある?」


「下」


「見たい」


「みつみ、自分のスマホは?」


「あ」


 机を見る。


 最初に置いた場所に、そのまま転がっている。


「使ってないじゃん」


 佳奈子が笑った。


「みんな持ってるから」


「四台渡り歩いてるだけじゃない」


「効率いい」


「よくないと思います」


 絵美里に言われ、みつみはようやく自分のスマートフォンを手に取った。


「じゃあ探す」


「最初からやればいいのに」


 千尋が笑う。


 五人とも画面を見る。


 部室が少し静かになった。


 外から聞こえるのは、校庭の方で何か準備をしている運動部の声と、遠くで閉まる扉の音くらいだった。


 数分後。


「お腹すいた」


 みつみが言った。


 志帆が時計を見る。


「まだ十一時半前よ」


「でも朝ごはん早かった」


「さっきまでダンジョン探してたのに」


「お腹すいたらそっちの方が気になる」


「分かる」


 佳奈子がスマートフォンを伏せた。


「私もそろそろ食べたい」


「駅前で何か食べて帰る?」


 千尋が聞く。


「ファミレスでよくない?」


 佳奈子がすぐ答えた。


「賛成」


 志帆もスマートフォンをしまう。


 絵美里は美部谷のページを閉じる前に、もう一度画面を見た。


「次のダンジョン、結局決めないんですか?」


「ファミレスで続きやればいいじゃん」


 みつみが立ち上がる。


「絶対ご飯来たら忘れますよね」


「そのときはそのとき」


「決める気あります?」


「あるよ」


 言いながら、みつみはもう鞄を持っていた。


     ◇


 駅前のファミレスは、昼の混雑が始まる少し前だった。


 五人で一つのテーブルへ座り、それぞれメニューを開く。


「何食べよ」


 みつみが最初から最後まで一度めくり、また最初へ戻った。


「もう二周目じゃん」


 千尋が言う。


「候補が三つある」


「何?」


「ハンバーグとパスタとオムライス」


「全然絞れてない」


「全部違うから迷うの」


「同じなら迷わないでしょう」


 志帆はメニューを見ながら笑う。


 向かいでは佳奈子が、もう注文を決めたらしくメニューを閉じていた。


「私はハンバーグ」


「早い」


「部室出るときから食べようと思ってた」


「じゃあ何でメニュー見てたの?」


「一応ほかにいいのないかなって」


「なかった?」


「ハンバーグが勝った」


 絵美里は写真を見比べながら、少し悩んでいる。


「これ、量多いですかね」


「普通じゃない?」


 千尋が横から見る。


「エミリンなら食べられるでしょ」


「そういう問題ではなくて、午後もう帰るだけなので」


「じゃあ食べてもいいんじゃない?」


「それもそうですね」


 絵美里はあっさり決めた。


 結局、みつみが最後まで迷った。


「決めた」


「やっと?」


「オムライス」


「最初から候補だったやつじゃん」


「一周して戻った」


「二周してたけどね」


 注文を済ませると、五人はドリンクバーへ行ったり、スマートフォンを見たりしながら料理を待った。


 さっきまで開いていたダンジョンのページも、まだそのまま残っている。


「美部谷、行くならいつ?」


 絵美里が飲み物を置きながら聞いた。


「日から決める?」


 千尋がカレンダーを開く。


「今週は嫌」


 佳奈子が言う。


「始まったばっかだし、最初の休みくらい普通に休みたい」


「ダン活も休みじゃない?」


「体力使うじゃん」


「アラワンも使った」


 みつみが言う。


「それは遊んだから」


「ダンジョンも遊びじゃん」


「種類が違う」


「また気分ですか?」


 絵美里が聞く。


「今回はちゃんと違うよ」


「さっきもそう言ってました」


 料理が届き始めると、その話はそこで途切れた。


 みつみは目の前に置かれたオムライスを見て、ダンジョンのページを閉じる。


「いただきます」


「完全に終わった」


 志帆が笑う。


「何が?」


「次のダン活の話」


「食べてからでいいじゃん」


「ほら、やっぱり忘れたでしょう」


 絵美里に言われ、みつみはスプーンを持ったまま首を振った。


「忘れてない。保留」


「言い方変えただけでは?」


「ちゃんと覚えてるから違う」


 千尋も食べ始める。


「まあ、急ぐ必要ないでしょ。行きたいところあったらグループに貼っとけばいいし」


「それでいいと思う」


 志帆も頷いた。


「美部谷も候補に残しておけばいいし、新しいところが出てきたらそっちでもいいし」


「アラワンも」


「それは別枠」


 佳奈子が即座に返す。


「でもまた行くでしょ?」


「行くのは行く」


「じゃあ候補」


「ダン活の候補ではないの」


「細かいなあ」


「そこは細かくない」


 そのうち話は学校へ移った。


 二学期の予定や、今日提出物を忘れていたクラスメイトの話。


 夏休みにまだやり残した気がすること。


 アラワンで佳奈子が撮った写真。


 みつみのガターの写真がまだ残っていることも、そこで判明した。


「まだ持ってるの?」


「あるよ」


 佳奈子がスマートフォンを見せる。


「消してないの?」


「戦闘記録だから」


「それ私が言ったやつ!」


「便利だったから採用した」


「じゃあ送って」


「欲しいんだ」


「私持ってないから」


 佳奈子がグループチャットへ送る。


 五人のスマートフォンが少しずつ鳴った。


「ほんとにガターしか写ってない」


 千尋が笑う。


「私も写ってないじゃん」


「みつみが投げた直後だから」


「証拠写真」


「だから戦闘記録」


「負けた記録でしょ」


「負けてない。ボウリングに勝ち負けないし」


「さっきまで攻略って言ってたじゃん」


 みつみが何か言い返そうとして、口を閉じた。


「……次は勝つ」


「やっぱあるんじゃん」


     ◇


 昼を食べ終わっても、五人はすぐには席を立たなかった。


 それぞれ飲み物を追加して、また少し話す。


 次のダンジョンは、結局決まっていない。


 みつみが途中で一度だけスマートフォンを開いた。


「これも気になる」


「また増やすの?」


 志帆が画面を見る。


「近い?」


 佳奈子も覗く。


「さあ」


「そこからなの?」


「今見つけたから」


 千尋も身を寄せる。


「どれ?」


「これ」


「写真少ないね」


「だから気になる」


 絵美里は四人の間から画面を見たあと、自分のスマートフォンを取り出した。


「名前だけ送ってください。帰ってから見ます」


「じゃあグループに貼る」


 みつみが送信する。


 それでまた一つ、候補が増えた。


「で」


 佳奈子が空になったグラスを置く。


「結局、次どこ行くの?」


 みつみはスマートフォンに並んだ候補を見る。


 美部谷。


 さっき見つけた場所。


 志帆が調べていたところ。


 千尋が見ていた近場。


 ほかにも、まだ開いていないものがいくつかある。


「さあ?」


 みつみが答えた。


 千尋が笑う。


「まあ、そのうち決まるでしょ」


「決まらなかったら?」


 絵美里が聞く。


「そのとき考える」


 佳奈子はそう言って、伝票を取った。


「とりあえず帰ろ。私、午後寝る」


「まだ始業式の日なのに?」


「始業式の日だから」


「それも気分?」


「今日はちゃんと理由あるから」


 五人で席を立つ。


 店を出ても、次の行き先はまだ決まっていなかった。


 二学期は始まったばかりだった。


第8部、最後まで読んでいただきありがとうございます!


次回から第9部がスタートします。

二学期に入った5人の青春ダンジョンライフ、引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。


また、ダン活の短編『高1春休み』も公開中です。

こちらもぜひ読んでみてください!

https://ncode.syosetu.com/n5580mv/


ここまで読んでの正直な評価を、★0~★5でいただけると嬉しいです。

今後の方針の参考にさせていただきます。

続きも読んでいただけるなら、ブックマークもあわせてお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。