↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
62/123

第62話 ガチで!?

「本当だよ。たぶん、結構行ってる」


 みつみが答えると、目の前の女子生徒は少しだけ表情を明るくした。


「やっぱり」


 それから、自分たちが階段の途中で立ち止まっていることに気づいたらしい。上から降りてきた生徒へ場所を空けるように壁際へ寄り、「すみません、こんなところで」と頭を下げる。


「降りながら話そっか」


 千尋が先に階段を下り始めると、女子生徒も「はい」と返してついてきた。


 その横で、みつみはさっき教室でしていた話を思い出す。入試の日に会っているのに、名前は思い出せない。


「あのさ、名前――」


「久央絵美里です。一年です。入試のときはありがとうございました。あのとき案内してもらわなかったら、たぶんもう一周してました」


「あ、そうそう。久央さん」


 名前を聞いた途端、受験票に書かれていた文字までぼんやり戻ってきた気がした。


 千尋も「あったね」と笑う。


「無事受かってたんだ」


「はい。おかげさまで」


 そこまで話したところで、四人も順番に名前を伝えた。絵美里は一人ずつ顔を見ながら頷き、最後に佳奈子の名前まで聞くと、今度は迷わず本題へ戻った。


「どのくらい行くんですか? 休みの日だけですか?」


「放課後に行くこともあるし、休みの日も行くよ。遠いところなら休みの日かな」


 千尋が答えながら一階へ下りる。


「最近だと狩造とか虎ヶ崎とか。クリスマスの時期にはクリダンにも行ったし」


「狩造と虎ヶ崎……」


 絵美里の目つきが少し変わった。


 さっきまで先輩へ話しかける一年生だったのに、ダンジョンの名前が出た途端、聞き方が急に具体的になる。


「先輩たち、今のレベルって聞いてもいいですか?」


「私は十」


 みつみが答えると、千尋が続いた。


「十一」


「私も十よ」


「私も十」


 志帆と佳奈子まで答えたところで、絵美里が足を止めかけた。


「……全員、そのくらいなんですか?」


「うん。絵美里ちゃんは?」


「私は六です。ジョブはディフェンダーで、ドイツにいたときからダンジョンには入っていました」


「一年生で六?」


 今度は千尋が驚く番だった。


「高くない?」


「向こうでやっていた期間があるので。日本に来てから始めたわけじゃないです」


 絵美里はそれを特別なことのようには言わなかった。それよりも四人のレベルの方が気になるらしく、昇降口へ向かいながらすぐ話を戻す。


「それなら、かなり攻略してますよね。最近クリアしたのはどこですか?」


「最近なら狩造かな」


 みつみが答えたあと、少し考える。


「でもそのあとも色々行ってるよ。虎ヶ崎も行ったし、尾洗町も行った」


「尾洗町もクリアしたんですか?」


「まだ。スパインスターのところまで行って帰った」


 絵美里がみつみを見る。


「ボスまで行ったのに?」


「うん。その日は佳奈子いなかったから、倒すなら今度みんなでって」


 名前を出された佳奈子は、上履きを脱ぎながらこちらを向いた。


「私、その日ほかの予定あったんだよね。別に三人で倒してきてもよかったんだけど、残して帰ってきた」


「……それで帰ったんですか」


「帰ったよ。海で色々見れたし、あの日はあれで楽しかったし」


 みつみも靴を履き替えながら頷く。


 絵美里は何か言いかけたが、その前に千尋が思い出したように続けた。


「私たち三人で行ったクリダンも途中で帰ったね。あれは人が多すぎたからだけど」


「クリアしないで帰ること、結構あるんですか?」


「結構ってほどじゃないけど、普通にはあるんじゃない?」


 千尋は靴箱を閉め、鞄を肩へ掛け直した。


「クリアしたい日に行くこともあるし、スキル試したいだけの日もある。素材集める日もあるし、入ってから別のものが気になって予定変わることもあるよ」


「ある」


 すぐ頷いたみつみに、佳奈子が笑う。


「みつみは特にね。自分で言い出したこと忘れて、途中で違うの見始めるし」


「忘れてはないよ。ちょっと優先順位が変わるだけ」


「それを普通は予定変更って言うの」


 志帆は二人のやり取りを聞きながら、ゆっくり昇降口を出た。


「私も気になる素材や装備に使えそうなものがあれば寄るわね。事前に決めた目的が絶対というわけではないし、その日に全部終わらせる必要もないでしょう?」


 絵美里も外へ出てきたが、そこで返事が少し遅れた。


「……そのレベルで、そういう探索の仕方なんですか?」


 言い方に笑っている感じはなかった。本当に分からないらしい。


 みつみが首を傾げる。


「レベル高いと、しちゃ駄目なの?」


「駄目という話ではないです。ただ、十前後まで上がっているなら、もっと攻略を進められるはずです。安全を確保しながらクリア条件を優先して、必要な素材があるなら先に決めて取りに行く。その方が同じ時間でも先へ進めますよね」


 さっきまでより言葉が速い。先輩相手だからと迷う様子もなく、絵美里はそのまま続けた。


「ボスまで到達しているのに倒さず帰るのも、私ならたぶんしません。次にまた同じところまで移動する時間が必要になりますし、その日に倒せる戦力があるなら、そのままクリアした方が効率はいいです」


「効率はね」


 千尋は否定せずに頷いた。


「でも、毎回先へ進むために行ってるわけじゃないかな。行ってみたい場所があったとか、新しいスキル使いたいとか、今日はこれ拾いたいとか。その日の目的がクリアじゃないことも普通にあるよ」


「私は面白そうなの見つけたら見たいし」


 みつみが言うと、佳奈子も続ける。


「私はクリアするためだけに遠出するより、みんなで一日楽しかったらそれでいい日もある。もちろんボス倒したい日は倒したいけど」


「攻略そのものが嫌いなわけではないのよ」


 志帆が補う。


「ただ、効率が一番上に来ていないだけね。寄り道しても別に困らないなら、気になった方へ行くこともあるわ」


 絵美里は四人を順に見た。


 さっきまで淀みなく返していたのに、今度は少し長く黙っている。


「……もったいなくないですか?」


「何が?」


「そのレベルなら、もっとちゃんと攻略できそうなのに」


 みつみは千尋を見る。千尋もこちらを見たが、困ったような顔ではなく、少し面白そうにしていた。


「ちゃんと、か」


「一応、私たちなりにはちゃんとやってるけどね」


「事故らないようにはしてるし」


 佳奈子まで加わると、絵美里は小さく息をついた。


「すみません。馬鹿にしてるわけじゃないです。むしろ逆で、思っていたよりずっとレベルが高かったので。だったら、どうしてそのやり方になるのか分からなくて」


 言い直した声は、さっきより少しだけ先輩へ向けるものに戻っていた。


 それでも視線は四人から外れない。


「一度、一緒に行かせてもらってもいいですか?」


「いいよ」


 みつみが答えると、千尋もすぐ頷いた。


「私はいいけど、見ても効率よくはならないと思うよ」


「それは見てから判断します」


「そこは判断するんだ」


 千尋が笑う。


 志帆と佳奈子も特に反対はしなかった。みつみは次の予定をまだ何も決めていなかったことを思い出し、鞄の中のスマートフォンへ手を伸ばしかける。


「じゃあ、次のダン活部に一回来る?」


「はい。お願いします」


 絵美里は今度は迷わず頷いた。


「実際に見た方が早いですから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。