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第48話 楽しみはとっておくのがミソ

 巨大な鋏が、ゆっくりと開いた。


「来る!」


 千尋の声に、四人が同時に散った。


 直後、ジャイアントシェルクラブの右の鋏が横へ振られる。さっきまで四人がいた浅瀬を薙ぎ、水がまとめて跳ね上がった。


「でかいだけじゃなくて速い!」


 佳奈子は水しぶきを腕で避けながら中洲のほうへ走り、振り返るとすぐ弓を構えた。


 みつみと志帆は反対側へ。千尋だけは少し距離を取ったところで止まり、黒いショートソードを構え直した。


「《マーキング》!」


 ジャイアントシェルクラブへ印をつけ、そのまま《気配察知》も使う。


 目の前の巨体だけではない。水の中に他のモンスターが混ざっていないか確かめてから、千尋は三人へ声を飛ばした。


「今はあいつだけ! 佳奈子、甲羅はさっきのカニより絶対硬い!」


「見れば分かるって!」


 佳奈子が矢を放つ。


「《パワーショット》!」


 強く放たれた矢が、巨大な甲羅へ当たった。


 硬い音が響く。


 矢は弾かれ、水の中へ落ちた。


「全然刺さらない!」


「なら下から――」


 みつみが横へ回ろうとしたところで、ジャイアントシェルクラブが身体ごと向きを変えた。


 横歩きなのに速い。


「みつみ、そっち行った!」


「えっ、速――」


 巨大な鋏が持ち上がる。


「《プロテクション》!」


 志帆の声と同時に、みつみの身体を淡い光が包んだ。


 振り下ろされた鋏を、みつみは横へ跳んで避ける。鋏の先が浅瀬へ突き刺さり、水と泥がまとめて吹き上がった。


「ありがと!」


「一回離れて! あれをまともに受けるのは嫌!」


「うん!」


 みつみは走って距離を取る。


 千尋がその横を抜けた。


「私、近くで見てくる!」


「気をつけて!」


 黒いショートソードを低く構え、ジャイアントシェルクラブの横へ回る。


「《サイレントステップ》!」


 水を蹴る音は残る。それでも一気に距離を詰め、鋏が届く直前でさらに横へ。


「《ウィークポイント》!」


 千尋の視線が、巨大な身体を走る。


 甲羅。


 鋏。


 脚。


 その付け根。


「そこ!」


 黒い刀身を振った。


 刃が脚の付け根へ入り、ジャイアントシェルクラブの身体が大きく揺れる。


「効いた!」


 みつみが声を上げる。


 だが千尋はすぐ後ろへ跳んだ。


「浅い! 斬れるけど、一回じゃ無理!」


 ジャイアントシェルクラブが鋏を振り回す。


 千尋がさらに下がる。


「でも弱いところは分かった。甲羅じゃなくて、脚の付け根!」


「そこ狙えばいいのね!」


 佳奈子が矢をつがえる。


 ジャイアントシェルクラブは止まらない。大きな身体を横へ動かしながら、千尋を追っている。


「動くと狙いにくい!」


「じゃあ止める!」


 みつみが杖を両手で握った。


「《マジックブースト》!」


 杖の先に集まる光が強くなる。


「《マジックボール》!」


 光弾が甲羅へ直撃した。


 硬い甲羅を貫くことはできない。それでも巨体が押され、横へずれる。


「もう一発!」


 二発目。


 今度は鋏へ当たる。


 ジャイアントシェルクラブがみつみへ身体を向けた。


「こっち見た!」


「そのまま引きつけて!」


 佳奈子が中洲から位置を変える。


 みつみは後ろへ下がりながら、もう一度杖を向けた。


「《マジックボール》!」


 光弾が飛ぶ。


 その横を、千尋が走った。


「佳奈子、今!」


「見えてる!」


 ジャイアントシェルクラブがみつみの魔法へ反応し、鋏を上げる。


 身体の横が開いた。


「《スナイプ》!」


 佳奈子の矢が飛ぶ。


 脚の付け根。


 千尋が斬った場所へ、矢が深く突き刺さった。


「入った!」


 巨体が傾く。


「もう一回いける!」


 佳奈子がすぐ次の矢へ手を伸ばした。


 ハーネスから抜き、そのまま弓へ持っていく。


 だがジャイアントシェルクラブが大きく身体を振った。


 水が跳ね、矢をつがえた佳奈子の視界を塞ぐ。


「見えな――」


「佳奈子、下がって!」


 志帆が走る。


 水しぶきの向こうから、巨大な鋏が出た。


「《プロテクション》!」


 淡い光が佳奈子を包む。


 鋏がぶつかった。


「うわっ!」


 佳奈子の身体が後ろへ飛ばされる。


「佳奈子!」


 志帆が駆け寄る。


「平気?」


「痛った……でも平気。光ったの見えた」


 佳奈子は水の中へ手をつきながらも、自分で起き上がった。


「怪我は?」


「たぶんない。それより弓――あった」


 少し離れたところに落ちた弓を拾う。


 志帆は佳奈子の腕と脚を見て、大きな傷がないことを確認した。


「無理しないで。痛かったらすぐ言って」


「分かった。でもまだ撃てる」


 佳奈子が弓を握り直した。


 その間にも、千尋とみつみがジャイアントシェルクラブを引きつけている。


「千尋、右!」


 みつみの声で千尋が横へ跳ぶ。


 鋏が空を切った。


「危なっ!」


「《マジックマイン》!」


 みつみが浅瀬へ魔法を置く。


 ジャイアントシェルクラブが横歩きで追ってくる。


「こっちこっち!」


「みつみ、近い!」


「踏ませたい!」


 後ろへ下がるみつみを追い、巨体がさらに進む。


 一本目の脚がマジックマインの上へ乗った。


「踏んだ!」


 魔法が弾ける。


 水と泥が大きく吹き上がり、ジャイアントシェルクラブの身体が傾いた。


「今!」


 千尋が走る。


 だが、巨体は倒れなかった。


 残った脚で踏ん張り、逆に大きな鋏を振り上げる。


「千尋、止まって!」


 志帆の声。


 千尋が急停止する。


 直後、目の前を鋏が通り過ぎた。


「危な……」


「一人で行かない!」


「分かった!」


 千尋は素直に下がった。


 みつみも一度距離を取り、佳奈子と志帆のところへ寄る。


 ジャイアントシェルクラブも追ってこない。


 四人との間に少しだけ距離ができた。


「硬すぎない?」


 佳奈子が息を整えながら言った。


「脚の付け根なら攻撃は通る。でも近づくと鋏が邪魔」


 千尋は黒いショートソードを構えたまま、巨体を見ている。


「私の魔法も甲羅には当たってるだけって感じ。ひっくり返せたら柔らかそうなのに」


 みつみが杖を握り直す。


 志帆はジャイアントシェルクラブの動きを見ながら、少し考えた。


「さっきマジックマインを踏んだとき、かなり傾いたでしょう。もう一度同じ側を崩せない?」


「同じ脚?」


「一か所だけじゃなくて、片側をまとめて。傾いたところを押せば――」


「ひっくり返せるかも」


 千尋が続けた。


 佳奈子もジャイアントシェルクラブを見る。


「じゃあ私、脚狙う。千尋が弱いところ教えてくれたら、そこ撃つ」


「私も同じ側から魔法当てる」


 みつみがすぐ乗った。


「倒れたら私が行く。志帆、プロテクションお願いしていい?」


「もちろん。でも倒れなかったら戻ってきて。黒月があっても、あの鋏に挟まれたら笑えないから」


「……今、黒月って」


「そこ拾うところじゃない!」


 志帆が珍しく強い声で遮った。


 佳奈子が笑いそうになったが、目の前でジャイアントシェルクラブが動き始める。


「来るよ!」


「じゃあやろう!」


 千尋が先に走った。


 真正面ではなく、右へ。


「《マーキング》!」


 印をつけ直す。


 続けて《ウィークポイント》。


「右側! 前から二本目と三本目!」


「二本目、狙う!」


 佳奈子が中洲から矢を放った。


「《スナイプ》!」


 一本目。


 脚の付け根へ刺さる。


 ジャイアントシェルクラブが佳奈子へ向こうとする。


「こっち!」


 みつみが杖を振った。


「《マジックボール》!」


 右側へ光弾が当たる。


 巨体がまた向きを変える。


「忙しいカニ!」


「みつみ、もう少し下!」


 千尋の声に、みつみが狙いを変えた。


 二発目。


 脚の付け根。


 ジャイアントシェルクラブが大きく揺れる。


「佳奈子!」


「分かってる!」


「《ダブルショット》!」


 二本の矢が続けて飛ぶ。


 一本は甲羅に弾かれた。


 もう一本が三本目の脚の付け根へ入る。


「入った!」


「みつみ、マイン!」


「もう置いてる!」


 ジャイアントシェルクラブが一歩進む。


 その脚の下で魔法が弾けた。


 右側が沈む。


「傾いた!」


「まだ!」


 千尋は突っ込まない。


 みつみも杖を両手で握った。


「《マジックブースト》!」


 光が集まる。


「《マジックボール》!」


 強化された光弾が、傾いた甲羅の右側へ叩き込まれた。


 巨体がさらに傾く。


「倒れる!」


 ジャイアントシェルクラブが脚をばたつかせた。


 大きな鋏が水面を叩き、水しぶきが上がる。


 それでも身体は戻らない。


「千尋!」


「行く!」


 千尋が浅瀬を駆けた。


「《サイレントステップ》!」


 倒れかけた巨体へ一気に近づく。


 志帆の右手が上がった。


「千尋!」


 厨二の詠唱はない。


「《プロテクション》!」


 淡い光が千尋を包む。


 その瞬間、ジャイアントシェルクラブの身体がひっくり返った。


 水が大きく跳ねる。


 硬い甲羅が下。


 柔らかそうな腹側が上。


「うわ、ほんとに裏返った!」


 みつみが声を上げる。


「千尋、今!」


「分かってる!」


 黒いショートソードを握り、千尋が踏み込む。


「《ウィークポイント》!」


 弱点が見える。


 千尋はそこへ刃を振り下ろした。


 一度。


 まだ消えない。


「硬っ!」


「千尋、離れて!」


 志帆が叫ぶ。


 ひっくり返ったまま、巨大な鋏が千尋へ振られる。


 プロテクションが光った。


 千尋は鋏を受ける前に後ろへ跳ぶ。


「まだ倒れない!」


「じゃあみんなでやればいいじゃん!」


 みつみが杖を向ける。


 佳奈子も弓を引いた。


「それなら私も!」


「二人とも千尋が離れてから!」


 志帆に言われ、千尋が水を蹴って横へ逃げる。


「離れた!」


「《マジックブースト》――《マジックボール》!」


「《パワーショット》!」


 光弾と矢が、ほとんど同時に腹へ入った。


 ジャイアントシェルクラブの身体が大きく震える。


 それでもまだ光にはならない。


「まだ!?」


 佳奈子が次の矢へ手を伸ばす。


 千尋も再び走り出した。


「じゃあもう一回!」


「千尋、待って!」


 志帆が呼び止める。


 千尋が振り返る。


「何?」


「これ使ってから!」


 志帆が千尋へ右手を向けた。


 さっきのプロテクションではない。


「《ヒールショット》!」


 光が飛び、千尋へ当たる。


 鋏を避け続けて浅瀬を走った身体から、重さが少し抜けた。


「ありがと!」


「今度こそ行って!」


「うん!」


 千尋が走る。


 黒いショートソードを両手で握った。


 みつみの杖が光る。


 佳奈子の弓が引かれる。


「せーのでいく?」


 みつみが言う。


「戦闘中にせーのって何!」


 佳奈子が笑う。


「いいから合わせて!」


 千尋がひっくり返った巨体の横へ入る。


「じゃあ――今!」


 三人の攻撃が重なった。


 黒い刃。


 青白い光。


 一本の矢。


 ジャイアントシェルクラブの身体が、一瞬だけ止まった。


 次の瞬間、巨大な身体全体が光へ変わった。


「やった!」


 みつみの声が水辺へ響く。


 光が細かくほどけ、空へ消えていく。


 あとに残ったのは、静かになった水面と、四人だった。


 千尋はその場で大きく息を吐いた。


「疲れた……」


「私も」


 佳奈子は弓を下ろすと、そのまま近くの石へ腰を下ろした。


「強すぎでしょ。普通のカニと違いすぎる」


「ジャイアントって付いてたものね」


 志帆も息を整えながら、濡れた髪を手で払う。


 みつみだけは、ジャイアントシェルクラブが消えた場所へ近づいていた。


「なんか落ちてる」


「ドロップ?」


 佳奈子が座ったまま顔を上げる。


「見てくる」


 みつみが浅瀬から拾い上げたものは、小さな密閉容器のような形をしていた。


 中には、濃い橙色の柔らかそうなものが入っている。


「……何これ」


 みつみが表示を確認した。


 少し黙る。


「何だった?」


 千尋も近づいてくる。


 みつみは容器と表示をもう一度見比べてから、三人へ向けた。


「《ジャイアントシェルクラブのカニミソ》」


「え?」


 佳奈子が立ち上がった。


 さっきまで疲れていたのに、足取りだけは早い。


「カニミソ?」


「って書いてある」


「ほんとに食べられるやつ落とした!」


 佳奈子はみつみの横から容器を覗き込んだ。


 志帆も少し遅れて近づく。


「……見た目は確かに、それっぽいわね」


「食べる?」


 みつみが聞くと、佳奈子はさっきまでの勢いのまま容器を見た。


 数秒。


「今?」


「今じゃなくてもいいけど」


「……持って帰ろう」


「食べたいって言ってたじゃん」


「言ったけど、あのでっかいのから落ちた直後に見ると話が違う」


 佳奈子は容器を受け取らず、一歩だけ離れた。


 千尋も覗き込む。


「私も今はいらないかな」


「私も」


 志帆まで続いた。


 みつみは三人を見回す。


「私が持つの?」


「最初に拾ったし」


 佳奈子が笑う。


「それ関係ある?」


 結局、カニミソはみつみのバッグへ入った。


     ◇


「で、ゴールは?」


 少し休んだあと、佳奈子が思い出したように水路の向こうを見る。


 千尋も立ち上がり、周囲を確認した。


「さっきより見やすくなった。あっち」


「カニ倒して終わりじゃないんだよね」


「クリア条件はゴール到着だからね」


 千尋が黒いショートソードを鞘へ収める。


「まだ時間あるし、行けるところまでじゃなくて、今日はちゃんと着こうよ。ここまで来たし」


「賛成」


 志帆も自分のバングルを確かめてから歩き出した。


「せっかくあれを倒したあとに、時間切れで帰るのはちょっと嫌だわ」


「私もゴール行きたい」


 みつみが続く。


 佳奈子は三人のあとを追いながら、ハーネスの位置を直した。


「じゃあ今度こそ寄り道なしね。宝箱あっても――」


「それは見る」


「みつみ」


「見るだけ」


「絶対行くじゃん」


 四人の笑い声が、水辺に広がった。


 そこから先は、午前中ほど寄り道をしなかった。


 途中でアクアスライムを一体倒し、深い水路を避けて中洲を二つ渡る。半分水に沈んだ石造物の横を抜けると、それまで遠くに見えていたゴールが、ようやく目の前まで近づいた。


 浅瀬の先に、低い石造りの門が立っている。


 その奥には青白い光。


「あれだ」


 みつみが少し早足になる。


「今度こそゴール」


 千尋もその横へ並んだ。


 佳奈子と志帆も続く。


 四人が一緒に門をくぐった。


 青白い光が一度だけ強くなり、目の前に表示が現れる。


《狩造ダンジョン CLEAR》


「やった!」


 みつみが両手を上げる。


「着いたー……」


 佳奈子は喜ぶより先に、その場でしゃがみ込んだ。


「朝七時からこれやってたんだよ、私たち」


「途中、移動時間もあったでしょう」


 志帆はそう言いながらも、近くの石へ腰を下ろした。


 千尋はクリア表示を見上げてから、スマートフォンを取り出す。


「写真撮ろ。せっかくだし」


「撮る!」


 みつみがすぐ千尋の横へ行く。


 佳奈子も立ち上がり、志帆がその隣へ。


 四人の後ろには、青白く光るゴール。


 前髪も服も朝よりずっと乱れている。


「佳奈子、もうちょっとこっち」


「待って、髪やばい」


「今さらじゃない?」


「みつみも泥ついてるよ」


「どこ?」


「ほっぺ」


「取って」


「そのままでもいいんじゃない? 今日っぽいし」


 千尋がスマートフォンを構えた。


「撮るよ」


 四人が画面へ収まる。


 シャッター音が鳴った。


     ◇


 帰りの電車では、朝ほど元気な者は一人もいなかった。


 四人掛けではない座席に並んで座り、佳奈子は早々に目を閉じている。


「寝た?」


 みつみが小声で聞く。


 佳奈子は目を閉じたまま答えた。


「まだ寝てない。休んでるだけ」


「朝も眠いって言ってたよね」


「朝とは違う眠さなの。今はいっぱい遊んだあとのやつ」


 それだけ言うと、佳奈子は本当に静かになった。


 千尋は今日撮った写真を見ていた。


 最初の飛び石。


 浅瀬。


 宝箱。


 水面から跳び上がったリバーフィッシュは、少しだけ写真にも写っている。


 最後のほうには、ゴールで撮った四人の写真。


「これ、佳奈子に送っとこ」


「今送っても寝てるよ」


 みつみが千尋の画面を覗く。


「起きたら見るでしょ」


 千尋は四人のチャットへ何枚かまとめて送った。


 通知音は鳴らない。


 佳奈子はスマートフォンを消音にしているらしい。


 反対側にいた志帆も、自分で撮った写真を見ていた。


「ジャイアントシェルクラブ、ちゃんと撮っておけばよかった」


「戦ってるときに?」


 みつみが聞くと、志帆は少し考えてから首を振った。


「無理ね。そんな余裕なかった」


「次会ったら撮る?」


「また戦う前提なの?」


「でも楽しかったよ」


「それは否定しないわ」


 志帆は画面を閉じる。


 しばらく電車の音だけが続いた。


 みつみは窓の外を見ていたが、やがて千尋のほうを向いた。


「次、どこ行く?」


「もう次の話?」


「だって今日クリアしたし」


 千尋はスマートフォンを膝へ置いた。


「狩造もう一回来てもいいけどね。今日通ってないところ、いっぱいあるし」


「虎ヶ崎も行きたい」


 志帆が会話へ入る。


「鳴田南も。あの大きな部屋、もう一度行ったら違う動かし方できそうだし」


「新しいところも行きたいな」


 みつみは指を折りながら数え始めた。


「水辺行ったし、森も遺跡も行ったし。次は――」


「今日は決めなくてよくない?」


 目を閉じていた佳奈子が、突然口を挟んだ。


「起きてたの?」


「だから寝てないって言ったじゃん」


 佳奈子はようやく目を開ける。


「今決めたら、また帰ってから調べ始めるでしょ。今日はもう疲れたから、私は家帰ったらお風呂入って寝る」


「じゃあ次は学校で?」


「そのくらいでいいんじゃない? 別に今決めなくても、またなんか行くでしょ」


 そう言って、佳奈子はもう一度目を閉じた。


 千尋が少し笑う。


「それもそうか」


「じゃあまだ決めない?」


 みつみが聞く。


「候補だけならいくらでもあるしね」


 志帆はスマートフォンをバッグへしまった。


「次の休みにダンジョンへ行くとも限らないでしょう。放課後に用品店へ寄ってもいいし、普通にどこか遊びに行ってもいいし」


「私はダンジョン行きたい」


「今すぐ?」


「今日は無理」


「でしょうね」


 みつみと志帆が笑う。


 その声を聞いて、佳奈子も目を閉じたまま少しだけ笑った。


 千尋はもう一度、今日撮った最後の写真を開いた。


 ゴールの前に並んだ四人。


 朝七時に集まって、遠い狩造まで来て、水に入って、モンスターと戦って、巨大なカニまで倒した。


 それでも次に何をするかは、まだ決まっていない。


「まあ、学校で決めよっか」


 千尋がスマートフォンをしまう。


「うん」


 みつみも座席へ背中を預けた。


 次はまだ決めてない。


 狩造へもう一度来るかもしれない。


 前に行ったダンジョンへ戻るかもしれない。


 まだ知らない場所を見つけるかもしれない。


 あるいは、ダンジョンとは全然関係のない放課後になるかもしれない。


 電車は四人を乗せて、いつもの町へ向かって走っていった。


第4部、最後まで読んでいただきありがとうございます。


ここまで楽しんでいただけましたら、★評価をいただけると嬉しいです。

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