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第36話 降りてくれば斬れる

「今日は倒しに来た」


 虎ヶ崎ダンジョンへ入ってすぐ、みつみが言った。


 目の前には、もう何度も見た森が広がっている。


 最初に来たときは、洞窟ではないだけで少し新鮮だった。今では入口近くの景色にも見覚えがある。


「分かってる」


 千尋が笑った。


「そのために来たんでしょ」


「ストームオウル討伐作戦ね」


 志帆が小型メイスを持ち直す。


「森を巡る主との決戦――」


「お菓子持ってきた?」


 佳奈子が聞いた。


 志帆が止まる。


「……持ってきたわ」


「私も」


「チョコ」


「グミ」


 千尋まで答えてから、四人で少し笑った。


「決戦感なくなったじゃん」


「いいのよ。戦う前に食べるわけではないもの」


「終わったら湖で食べよ」


 みつみが言う。


「倒したあと?」


「うん」


「じゃあ先に倒さないとね」


 佳奈子が弓を肩へ掛け直した。


 バッグには、いつもの飲み物とお菓子。


 それに今日は《マナポーション》と《スタミナポーション》も入っている。


 目的は、はっきりしていた。


 ストームオウルを倒す。


 四人は森へ入った。


     ◇


 湖までは、もう迷わなかった。


 最初に見つけた獣道ではなく、普通の道を歩く。


「あっち行ったらもっと時間かかるんだよね」


 みつみが獣道の入口を見た。


「今日は行かないよ」


「分かってる」


「その顔、ちょっと行きたそうだけど」


「今日は鳥」


 みつみはちゃんと本道を進んだ。


 湖が見えてくる。


 水面は静かで、前に四人で寝てしまったときとほとんど変わらない。


「着いた」


「早い」


「最初の遠回り、何だったんだろうね」


「楽しかったからいいじゃん」


 千尋はそう言って、セーフゾーンへ入った。


 四人で荷物を下ろす。


「一回確認しよ」


 佳奈子がスマホを出した。


「矢も大丈夫。今日は《スナイプ》使うから」


「使いたかったもんね」


「前回欲しかったやつだからね」


「今日はある」


 佳奈子は少し笑って弓を見た。


「どのくらい遠くまでいけるか、やってみたい」


 みつみも自分のステータスを見る。


「MPは大丈夫」


「私も」


 志帆が確認する。


「千尋は?」


「SP大丈夫」


 千尋はスマホをしまい、湖の向こうを見る。


「前回は、飛んでる間は私ほとんど何もできなかったんだよね」


「降りてきたら?」


「斬れる」


「そこは変わらないんだ」


「だって降りてくるんだから」


 千尋が腰のショートソードに触れる。


「飛んでるときは二人に任せる。近くまで来たら私もやる」


「風が来たら私が《マジックシールド》」


 みつみが続けた。


「前回ので一回分かったし」


「私は《プロテクション》を重ねるわ。完全には防げないけれど、風圧も含めて軽減できるなら試す価値はある」


「私は遠かったら《スナイプ》」


 佳奈子が言う。


「近かったら普通に撃つ」


「じゃ、行こっか」


 千尋が立ち上がった。


「もう?」


「鳥探しに来たんでしょ?」


「行く」


 みつみもすぐに立つ。


 志帆と佳奈子が続いた。


 湖畔には、まだお菓子を出していない。


 帰りに食べるつもりだった。


     ◇


 湖より奥へ入る。


 前回は、大きな羽根を見つけてから、あちこち歩き回った。


 折れた枝を見たり、木の傷を調べたり、途中でキノコに寄ったりした。


 今日は、前回ストームオウルを見つけた辺りへ向かう。


「この辺だったよね」


 佳奈子が頭上を見た。


「もうちょい先」


 千尋が答える。


「前回、あっちから飛んできた」


「いる?」


「《気配察知》じゃ遠いのは分かんないよ」


「じゃあ今日も歩いて探すか」


 みつみは周囲を見回しながら進む。


 前回より探す範囲は狭い。


 どんな音がするかも、どんな影が動くかも知っている。


 それでも、すぐには見つからなかった。


「いないね」


「移動してるんでしょうね」


 志帆が枝の間から空を見る。


「森を巡る主は、一つの場所で挑戦者を待つような存在では――」


「いた」


 千尋が言った。


「えっ」


「今、上」


 四人が一斉に見上げる。


 枝葉の隙間を、大きな影が横切った。


「いた!」


「見えた!」


 佳奈子が弓へ手を掛ける。


「千尋!」


「やる!」


 千尋が影を追う。


「《マーキング》!」


 ストームオウルはすぐに木々の向こうへ消えた。


 それでも千尋は迷わない。


「あっち。そんなに遠くない」


「追う?」


「追う」


 千尋が走り出す。


「《サイレントステップ》!」


「待って!」


 みつみたちも続く。


 前回と違い、姿を見失ったからといって立ち止まる必要はなかった。


「右!」


 千尋が進路を変える。


 木の根をまたぎ、岩の横を抜ける。


 みつみも以前ほど足元ばかり見なくなっていた。


 斜面を上がったところで、千尋が止まる。


「近い」


 羽音がした。


 四人が構える。


 前方の枝が大きく揺れた。


 巨大なフクロウが、木々の間から姿を現す。


「来た」


 みつみは杖を握った。


 ストームオウルが翼を広げる。


 前回見たときと同じ。


 大きい。


 でも、今日はそれだけでは終わらなかった。


「《スナイプ》!」


 最初に動いたのは佳奈子だった。


 まだ遠い。


 普通なら狙うのをためらう距離から、矢が飛ぶ。


 ストームオウルが翼を振った。


 風で枝葉が大きく揺れる。


 それでも矢はその間を抜け、ストームオウルの胴へ刺さった。


「当たった!」


 佳奈子自身が一番嬉しそうに声を上げた。


「これいい!」


「前回欲しかったね!」


「ほんとに!」


 ストームオウルが翼を広げた。


「来る!」


 千尋の声で、四人が散る。


 巨大な身体が低空を通り抜けた。


 風圧にみつみの髪が大きく乱れる。


「速っ」


「前回も見たでしょ!」


「見ても速いものは速い!」


 ストームオウルが上昇する。


 みつみは杖を向けた。


「《マジックブースト》!」


 続けて狙う。


「《マジックボール》!」


 魔力弾が飛ぶ。


 だが、ストームオウルが大きく羽ばたいた。


 風に煽られ、魔力弾が翼の横を抜ける。


「外れた!」


「風!」


 佳奈子の矢も流された。


 ストームオウルが旋回する。


「左から来る!」


 千尋が叫ぶ。


「低い!」


 木々の間を縫うように、巨大な身体が近づいてくる。


 みつみが前へ出た。


「《マジックシールド》!」


 魔力の壁が広がる。


「《プロテクション》!」


 志帆の光がみつみを包んだ。


 直後、ストームオウルの翼と風圧が魔力の壁へぶつかる。


「っ!」


 みつみの足が地面を滑った。


 それでも、前回ほど大きく崩れない。


「今!」


 誰が言ったのか分からなかった。


 佳奈子の矢が飛ぶ。


 ストームオウルは上へ逃げようとする。


 その下へ千尋が走った。


「《サイレントステップ》!」


 一気に距離を詰める。


 頭上を巨大な翼が通る。


 千尋がショートソードを振った。


 黒い刃が、ストームオウルの脚を捉える。


「当たった!」


「黒月が!」


「今それ言う!?」


 志帆の声に千尋が返しながら、そのまま木の横へ抜ける。


 ストームオウルが上昇した。


「いけるじゃん!」


 みつみが叫ぶ。


「まだ!」


 佳奈子が次の矢をつがえる。


     ◇


 ストームオウルは、地上へ降りてこない。


 上空へ逃げ、旋回し、また襲ってくる。


 みつみと佳奈子が狙う。


 風圧で狙いがずれる。


 ストームオウルが離れれば、佳奈子が《スナイプ》を使う。


 近づけば通常の矢も届く。


 千尋は《マーキング》を切らさないようにしながら、木々の向こうへ消えた方向を追った。


「後ろ!」


 四人が振り向く。


 ストームオウルが急降下してくる。


「みつみ!」


「分かってる!」


 杖を向ける。


「《マジックシールド》!」


 魔力の壁。


 ぶつかる直前、志帆がみつみへ手を向ける。


「《プロテクション》!」


 衝撃。


 今度は、みつみも踏ん張った。


「佳奈子!」


「はい!」


 横へ避けていた佳奈子が弓を引く。


「《ダブルショット》!」


 二本の矢が続けて飛ぶ。


 一射目が翼へ刺さる。


 二射目は風に流れた。


 ストームオウルが上へ逃げる。


 その瞬間、千尋が動いた。


「《ウィークポイント》!」


 翼を打ち下ろし、身体が持ち上がる直前。


 黒いショートソードが、前回みつみの魔法が当たった辺りとは反対側の翼の付け根を斬った。


 ストームオウルの身体が傾く。


「千尋!」


「離れる!」


 千尋は追わなかった。


 木の根を蹴り、《サイレントステップ》で距離を取る。


 直後、巨大な翼が地面近くを薙いだ。


「危なっ」


「今のすごかった!」


「見てる場合じゃないって!」


 ストームオウルが低空のまま飛ぶ。


 木の幹を避けるため、大きく進路を変えた。


「そっち行くなら!」


 みつみが杖を向ける。


「《マジックボール》!」


 進路の先へ魔力弾を飛ばす。


 ストームオウルがさらに身体を傾けた。


「避けた!」


 その先に佳奈子がいる。


「《パワーショット》!」


 今度は矢が胴へ刺さった。


「ナイス!」


「狙ってた?」


「半分!」


「半分なんだ!」


 ストームオウルが羽ばたく。


 強い風が地面の葉を巻き上げた。


 佳奈子が腕で顔を庇う。


 みつみも目を細めた。


「見えない!」


「右へ動いてる!」


 千尋には分かる。


 だが、姿までは見えない。


 みつみは少し位置を変えた。


 枝の隙間から、ストームオウルの翼が見える。


「いた!」


 一歩横へずれ、枝の間から杖を向ける。


「《マジックボール》!」


 今度は当たった。


 ストームオウルの身体が揺れる。


「効いてる!」


「まだ飛んでる!」


 佳奈子が叫んだ。


 その通りだった。


 何度攻撃を当てても、ストームオウルは落ちない。


     ◇


「ちょっと待って」


 ストームオウルが距離を取った隙に、佳奈子が言った。


「私、結構使った」


「私も」


 みつみが自分の残量を見る。


「まだいけるけど、最初より減ってる」


 千尋も確認する。


「SPも減ってる」


「飲む?」


 志帆が聞いた。


 みつみはバッグを開けた。


「飲む。持ってきたし」


 《マナポーション》を取り出す。


「どんな味?」


「そこ?」


「気になるじゃん」


 蓋を開けて飲む。


 みつみが少しだけ黙った。


「……普通」


「何味?」


「説明しづらい」


「一番困るやつ」


 千尋も《スタミナポーション》を取り出した。


「私も使っとく」


「千尋は?」


 一口飲む。


「私も説明しづらい」


「役に立たない」


「佳奈子も飲めば?」


「私はまだいい」


 佳奈子は断って、弓を持ち直した。


「必要になったら使う」


「私もまだ大丈夫」


 志帆も自分の残量を確認してスマホをしまう。


 遠くで羽音がした。


 千尋が顔を上げる。


「戻ってくる」


「休憩終わり?」


「たぶん」


 みつみは空になった容器をバッグへ入れ、杖を握った。


「じゃ、続き」


     ◇


 戦いが続くうちに、ストームオウルの動きが少しずつ分かってきた。


 大きく上昇したあとに距離を取れば、遠くから回り込んでくる。


 急降下の前には一度高く上がる。


 低空で突っ込んでくるときは、木々を完全に無視できるわけではない。


「来るよ!」


 佳奈子が先に気づいた。


 正面。


 低い。


「みつみ!」


「はい!」


「《プロテクション》!」


「《マジックシールド》!」


 魔力の壁へストームオウルが突っ込む。


 風圧。


 壁が揺れる。


 みつみも押される。


 けれど、もう驚かない。


「千尋!」


「行く!」


 横から千尋が飛び出す。


「《サイレントステップ》!」


 ストームオウルが翼を振る。


 千尋は一度止まった。


 振り抜かれた翼が目の前を通る。


「今」


 踏み込む。


「《ウィークポイント》!」


 黒い刃が翼の付け根へ入った。


 ストームオウルが大きく身体を傾ける。


「落ちる!」


 地面へ完全には落ちない。


 羽ばたいて立て直そうとする。


 だが、高く上がれなかった。


「《マジックブースト》!」


 みつみが杖を向ける。


「《マジックボール》!」


 魔力弾が胴へ直撃する。


 ストームオウルが低空を逃げる。


 佳奈子が弓を引いた。


「まだ見える」


 木々の隙間。


 遠ざかっていく背中。


「《スナイプ》!」


 矢が飛んだ。


 枝の間を抜け、傷ついた翼へ刺さる。


 ストームオウルの高度がさらに落ちた。


「戻ってくる!」


 千尋が叫ぶ。


 巨大なフクロウが反転する。


 逃げるのではなく、四人へ向かってくる。


「まだ来るの!?」


「来る!」


 みつみが杖を構え直す。


 佳奈子も次の矢をつがえる。


 志帆は三人とストームオウルを見た。


「みつみ、まだいける?」


「いける!」


「千尋!」


「いける!」


「佳奈子は?」


「撃てる!」


「なら、やりましょう」


 ストームオウルが羽ばたいた。


 風が来る。


 みつみは足を開いて踏ん張る。


 佳奈子は木の幹の横へ身体を寄せた。


 千尋は低い姿勢になる。


 志帆も目を逸らさない。


 風圧が通り過ぎる。


 ストームオウルが低空へ入った。


「来た!」


 みつみが叫ぶ。


「《マジックシールド》!」


 魔力の壁が開く。


 ストームオウルが突っ込む。


 ぶつかる。


 速度が落ちた。


「《ダブルショット》!」


 佳奈子の二射。


 一射が胴へ。


 もう一射が翼へ。


 ストームオウルが横へ逃げようとする。


 その先に木がある。


 大きく進路を変える。


「千尋、今!」


 みつみの声より先に、千尋は走っていた。


「《サイレントステップ》!」


 黒い刃を握る。


 低い。


 届く。


 フォレストホークと初めて戦ったときから、それは変わらない。


 空にいるなら届かない。


 でも、向こうから降りてくるなら斬れる。


「《ウィークポイント》!」


 踏み込んだ。


 ショートソードが、ストームオウルの胴を深く斬る。


 巨大な身体が地面へ落ちた。


「千尋、離れて!」


 志帆の声。


 千尋がすぐに飛び退く。


 ストームオウルが最後に大きく翼を振った。


「《プロテクション》!」


 光が千尋を包む。


 風圧に押され、千尋が地面へ片膝をつく。


「千尋!」


「平気!」


 ストームオウルがもう一度立ち上がろうとする。


 みつみが杖を向けた。


「まだ!」


 佳奈子も弓を引く。


 志帆がメイスを握ったまま前を見る。


「みつみ!」


「《マジックボール》!」


「《パワーショット》!」


 魔力弾と矢が、ほぼ同時にストームオウルへ当たった。


 巨大な翼が止まる。


 一瞬、森が静かになった。


 ストームオウルの身体が光へ変わっていく。


「……倒した?」


 佳奈子が弓を下ろす。


「倒した!」


 みつみが叫んだ。


「やった!」


 千尋が立ち上がる。


「倒した!」


「聞こえてる!」


 佳奈子も笑っている。


 志帆は消えていくストームオウルを見ながら、メイスを下ろした。


「森を巡る主、討伐完了ね」


「やったー!」


 みつみが両手を上げる。


 佳奈子もその場にしゃがみ込んだ。


「疲れたー」


「でも倒したじゃん」


「うん。めっちゃ楽しかった」


 千尋も笑った。


「前回やめといてよかったかも。今日のほうがちゃんと戦えた」


「《スナイプ》もあったしね」


 佳奈子が言う。


「これ好き。遠くても撃てるの気持ちいい」


「私は《プロテクション》が思ったより使えたわ」


「神の加護?」


「そう。神の加護」


「普通に言うようになったね」


「正式名称ではないわよ」


 そのとき、みつみが地面を指した。


「落ちてる」


 ストームオウルが消えた場所。


 そこに、大きな羽根が残っていた。


 千尋が拾う。


「表示出る」


 三人が寄る。


「《ストームオウルの大羽》」


「でか」


「前回のより綺麗じゃない?」


「ドロップだもの」


 志帆が羽根を眺める。


「売れるかな」


 佳奈子が言った。


「売るの?」


「値段は気になる」


「持っときたい」


 みつみがすぐ言う。


「私も」


 千尋が羽根を持ち上げた。


「初めての脱初心者クリアのやつだし」


「まだクリアって確認してないよ」


 佳奈子に言われ、四人が一度止まる。


「そうじゃん」


 みつみがスマホを見る。


「あ」


 表示が変わっている。


「クリアになってる!」


「ほんと?」


 千尋たちも確認する。


 虎ヶ崎ダンジョン。


 クリア済み。


「やった!」


 みつみがもう一度声を上げた。


「初脱初心者!」


「初心者卒業ってこと?」


「もう骨橋に行っちゃダメなの?」


「そういう意味ではないでしょう」


 志帆が笑う。


 その少し先で、光が集まり始めた。


 見覚えのある、入口へ戻るための帰還ゲート。


「出た」


「帰れる」


 佳奈子が立ち上がった。


「じゃあ帰る?」


「待って」


 みつみが言う。


「何?」


「湖」


 三人がみつみを見る。


「お菓子」


「あ」


「忘れてた」


「倒したら食べるって言ったじゃん」


 みつみは帰還ゲートと、来た道を見比べた。


「戻る?」


「ここから?」


 佳奈子も森の奥を見る。


 少し考えてから、笑った。


「今日はもういいかな。結構満足した」


「じゃあお菓子は?」


「外で食べればいいじゃん」


「湖で食べたかった」


「また来れば?」


 千尋が言った。


 みつみが振り向く。


「クリアしたのに?」


「クリアしたら入れなくなるわけじゃないでしょ」


「そっか」


「今度は鳥探さなくていいし」


 佳奈子がバッグを背負う。


「普通に湖行って、お菓子食べればいいじゃん」


「昼寝も?」


「私は寝るつもりで来るのは違うと思う」


「結果的に寝るのは?」


「それは知らない」


 志帆が少し考える。


「獣道も、まだ全部見たわけではないわね」


「行く?」


 みつみがすぐに食いつく。


「今日ではなくて」


「分かってるって」


「二回目」


 千尋が笑った。


「じゃ、帰ろ。今日はもう倒したし」


 四人は帰還ゲートへ向かった。


 ストームオウルの大羽は、千尋が大事そうに持っていた。


     ◇


 ゲートを抜けると、虎ヶ崎ダンジョンの入口へ戻った。


「終わったー」


 佳奈子が大きく伸びをする。


「疲れた」


「楽しかった」


「それはそう」


 みつみも伸びをしてから、千尋を見る。


「レベル見た?」


「まだ」


「見よ」


「みつみが?」


「千尋が」


「じゃあ言い方おかしいでしょ」


 千尋がスマホを開く。


「あ」


「上がった?」


「八」


「おお!」


 みつみが寄る。


「スキルは?」


「増えてない」


「ないの?」


「ない」


「レベル上がったら毎回増えるわけではないもの」


 志帆が横から画面を見る。


「七で《ウィークポイント》を覚えたばかりでしょう」


「じゃあレベル八だけか」


「だけって」


 千尋が笑った。


「上がったんだからいいじゃん」


「そうだね」


 みつみも笑う。


「八だ」


「八です」


「強そう」


「数字だけで?」


 四人は施設へ戻り、クリア記録を確認してもらった。


 虎ヶ崎ダンジョン、初回クリア。


 記念のメダルを受け取る。


 みつみはすぐに表と裏をひっくり返した。


「ちゃんと虎ヶ崎って入ってる」


「記念品なんだから入ってるでしょ」


「写真撮ろ」


 佳奈子が自分のメダルを出した。


「四つ並べる?」


「大羽も入れたい」


「でかすぎない?」


「やってみよう」


 四人分のメダルを並べ、その後ろに《ストームオウルの大羽》を置く。


 佳奈子がスマホを構えた。


「羽根、もうちょい右」


「こう?」


「行きすぎ」


「細かい」


「写真なんだからちゃんとしたいじゃん」


 千尋が羽根を少し戻す。


「ここ?」


「そこ」


「撮るよ」


 一枚。


 佳奈子が画面を確認する。


「いいじゃん」


「見せて」


 三人が寄る。


 四つのメダルと、大きな羽根。


「なんかちゃんとクリアした感じする」


 みつみが言った。


「ちゃんとクリアしたのよ」


「虎ヶ崎、結構来たよね」


 千尋が写真を見ながら言う。


「何回来たっけ」


「分かんない」


「最初、森入っただけで楽しかった」


「獣道でめちゃくちゃ遠回りしたし」


 佳奈子が笑う。


「湖着いたら普通の人たち先にいたやつね」


「でもあっちの道、また行きたい」


 千尋が言った。


「今度は違うとこ通ってみたい」


「私、採取もしたい」


 志帆が続く。


「前に見つけたものも、まだ全部調べ切れていないもの」


「湖も」


 みつみが言う。


「湖でお菓子」


「今日食べてないしね」


 佳奈子はバッグを軽く叩いた。


「せっかく持ってきたのに」


「今食べる?」


「外で?」


「ダメ?」


「別にいいけど」


「じゃあ食べよ」


 千尋が言った。


「帰る前にちょっとだけ」


 四人は施設の外へ出た。


 今日やるつもりだったことは、もう終わっている。


 ストームオウルを探して、戦って、倒した。


 虎ヶ崎ダンジョンもクリアした。


 それでも、虎ヶ崎でやりたいことがなくなったわけではなかった。


「次来たら湖直行?」


 みつみがお菓子の袋を開けながら聞く。


「私はそれでいい」


 佳奈子が一つ取る。


「鳥はもう探さなくていいし」


「獣道から行く?」


 千尋が言う。


「それ直行じゃないじゃん」


「でもそっちのほうが楽しいよ」


「また遠回りするの?」


「時間あれば」


「私は新しい採取場所も見たいわ」


 志帆がお菓子へ手を伸ばした。


「じゃあ全部やろ」


「一日で?」


「できるとこまで」


 みつみが答える。


 佳奈子は少し笑って、もう一つお菓子を取った。


「まあ、それでいいんじゃない?」


 ストームオウルを倒した日の話は、いつの間にか次に虎ヶ崎へ来たときの話へ変わっていた。


第3部、最後まで読んでいただきありがとうございます。


ここまで楽しんでいただけましたら、★評価をいただけると嬉しいです。

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