↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/123

第32話 MP管理?それ美味しいの?

「今日は寝ないからね」


 虎ヶ崎ダンジョンへ入ってすぐ、佳奈子が念を押した。


「分かってるって」


「前も五分って言ってた人が言ってもなあ」


「今日は湖で横にならない」


「そこまで禁止しなくてもいいんじゃない?」


 千尋が笑いながら、踏み固められた道を先へ進む。


 前回とは違って、今日は湖でのんびりするだけではない。湖を越えて、その先まで行ってみるつもりだった。


「眠りの誘惑を退け、我らはついに森の深部へ――」


「志帆も寝てたじゃん」


「……今日は起きているわ」


 志帆が小さなメイスを持ち直した。


 森へ入ると、足元の草を踏む音に、葉の擦れる音が重なる。何度か歩いた道なので、最初に来たときほど周囲をきょろきょろ見ることもなくなった。


 それでも千尋は、ときどき足を止める。


「《気配察知》」


 少し待ってから首を振り、また歩き出す。


「いない?」


「近くにはね」


「それ、歩きながら結構使ってない?」


 佳奈子に言われ、千尋が振り返った。


「ずっとじゃないよ。気になったときだけ」


「結構、気になってるけど」


「森だと見えないじゃん」


「便利だものね」


 志帆が頷く。


 みつみも特に気に留めなかった。使えるなら使う。それだけのことだった。


     ◇


 湖までは、もう迷わない。


 木々の向こうに水面が見え始めたところで、前方から硬いものがぶつかる音がした。


「戦ってる?」


 四人は自然に足を緩めた。


 音は本道から少し外れた、木々の隙間から聞こえてくる。


「見に行く?」


「邪魔にならないところからね」


 千尋を先頭に、音のするほうへ近づいた。


 いたのは四人組だった。


 自分たちより少し年上に見える男女が二人ずつ。相手をしているのは、フォレストウルフが二匹とコボルトが一匹。


 大きな剣を持った男の人が一番前に立っていた。


 ウルフが飛び込んでくる。男の人は剣で受けるのではなく、一歩横へずれてかわし、そのまま胴へ斬りつけた。


「左、来るよ!」


 後ろにいる女の人が声を飛ばす。手には杖がある。


 もう一匹のウルフが回り込もうとしたところへ、メイスを持った女の人が前へ出た。


「ヒーラー?」


 志帆が小さく呟く。


 その女の人は、ウルフの突進を身体ごと受け止めるように踏ん張った。腕を引っかかれながらもメイスを振り、ウルフを押し返す。


「《ヒール》」


 自分の傷を治すと、また前へ出た。


「前にいる……」


 みつみは思わず志帆を見た。


 志帆も戦いから目を離さない。


 その間に、もう一人の男の人が木の陰からコボルトの横へ回っていた。武器を振るより先に、わざと近くの枝を蹴る。


 音に反応したコボルトがそちらを向いた。


「今!」


 杖を持った女の人の魔法が飛んだ。


 コボルトが倒れる。


 大剣の男の人がウルフへ踏み込み、そこで初めて声を上げた。


「《パワーストライク》!」


 強い一撃がウルフを捉えた。


 残った一匹も、前に出ていた女の人と男の人が位置をずらしながら追い込み、最後は杖から飛んだ魔法で倒れた。


 戦闘が終わる。


「スキル、あんまり使わなかったね」


 佳奈子が声を落とした。


「うん」


 みつみも同じことを思っていた。


 使えないようには見えなかった。必要なところでは使っていたのに、それ以外は武器と動きだけで戦っていた。


「ヒーラーが前にいた」


 志帆の関心は、そちらにも向いているらしい。


「しかも普通に殴ってたね」


「……あれもありなのね」


「志帆もやる?」


「私はやらない」


 返事は早かった。


 四人で小さく笑ったところで、戦っていた人たちがこちらに気づいた。


「あ、見てた?」


 杖を持った女の人が笑う。


「すみません。ちょっとだけ」


「全然いいよ。高校生?」


 そのまま少し話し、四人とも大学生だと分かった。


「私たちも最近こっちに来るようになったんだ」


 メイスを持った女の人が言う。


「初心者向けを二つ終わらせて、次どこ行こうってなって」


「あ、私たちもです」


 みつみが答えると、相手の四人も少し嬉しそうに顔を見合わせた。


「じゃあ同じくらいだ」


「たぶん」


「この先行くなら、また会うかもね」


 長く立ち話をするでもなく、大学生たちは先へ歩いていった。


 みつみたちも湖へ向かう。


「戦い方、全然違ったね」


 みつみが言う。


「スキル使わないで戦ってる時間が長かった」


「使わないっていうより、使うところを選んでた感じじゃない?」


 佳奈子が弓を肩へ掛け直す。


「千尋も普通に斬ってるし、私も普通に射るから、できなくはないよね」


「そういう戦い方もあるんだね」


 みつみはもう一度、大学生たちが消えた方向を見た。


「私はヒーラーのほうが気になるわ」


「前に出るやつ?」


「私は出ないけれど」


「そこは変わらないんだ」


「ええ」


 話しているうちに湖へ着いた。


 前回昼寝した場所を見て、四人とも一瞬だけ足を止める。


「座る?」


 千尋が聞く。


「座るだけなら」


「寝ないよ」


「誰も寝るって言ってないから」


 水を飲んで少し休み、今度はちゃんと立ち上がった。


     ◇


 湖を離れてしばらく進むと、木々は少しずつ密になった。


 日差しが減り、足元に落ちる影も濃くなる。


 千尋が先を歩きながら、ふいに手を上げた。


「《気配察知》。いる。右の奥」


 四人が止まる。


 茂みが揺れ、コボルトが飛び出した。


「《マジックボール》!」


 みつみの魔力弾が先に飛ぶ。


 コボルトが横へ跳んでかわした。


「外した!」


「こっち来る!」


 千尋が前へ出る。


 コボルトが木の幹を回り込むように走った。


「《マーキング》」


 千尋の目が相手を追う。


「そっち!」


 木の裏へ消えたコボルトの進む先へ千尋が回り込む。


「《サイレントステップ》!」


 一気に距離を詰め、黒い刃を振るった。


 コボルトがよろめく。


「《ダブルショット》!」


 佳奈子の矢が続けて二本飛び、戦闘が終わった。


「早っ」


 みつみが杖を下ろす。


「志帆、出番なかったね」


「無傷で終わるなら、それが一番よ」


 志帆はそう言ってから、少しだけ間を置いた。


「我が癒やしの奇跡を披露できないのは残念だけれど」


「そっちは残念なんだ」


 消えたコボルトの跡に、《コボルトの爪》が残る。


 千尋が拾ってバッグへ入れた。


「……今の、すごい使ったね」


 佳奈子が言った。


「何が?」


「スキル。千尋だけで三つ使ってる」


「あ」


 千尋が瞬いた。


「みつみも最初からマジックボールだったし、私もダブルショット使った」


「だって使えるし」


「うん。私もそう思って使った」


 四人で顔を見合わせる。


 さっき見た大学生たちの戦い方と比べると、確かに違う。


「私たち、使いすぎ?」


「別に困ってないけど」


 千尋が自分のステータスを確認する。


「まだ全然動けるし」


「私も」


 みつみも開いてみる。


 MPは減っている。けれど、それを見てからスキルを使うか決めたことは、ほとんどなかった。


「今まで、残りどれくらいとか気にしてた?」


「してない」


 佳奈子が即答した。


「私もあまり」


 志帆が自分の表示を見ながら言う。


「なくなりそうになったことも、今のところないもの」


「じゃあいいんじゃない?」


 みつみがスマホをしまう。


「いいのかな」


「使えるのに使わないほうがもったいなくない?」


「みつみは絶対そう言うと思った」


     ◇


 もう少し奥まで歩いたところで、さっきの大学生四人とまた会った。


 今度は木陰で休憩している。


「あ、さっきの子たち」


「また会った」


 声をかけられ、少し立ち話をすることになった。


 さっき倒したコボルトの話になる。


「マーキングして、サイレントステップで追ったの?」


「はい」


「結構スキル使うんだね」


 スカウトの男の人が少し驚いた顔をした。


「そうですか?」


「俺だったら、見失わないうちは普通に追うかな。届かなそうならスキル使うけど」


「え」


 千尋が目を丸くする。


 杖を持った女の人も、みつみを見る。


「最初から魔法も使うんだね。MPとか大丈夫?」


「今のところは」


「ボスとか考えると、私たちはちょっと残すかな。途中でなくなるの嫌だし」


「ああ……」


 言われて、みつみは虎ヶ崎のクリア条件を思い出した。


 この森には、まだストームオウルがいる。


「ボスまで取っておくんだ」


「全部じゃないけどね。普通に倒せそうなら武器で済ませるし、早く倒したいとか危ないときは使う。そんな感じ」


 メイスを持ったヒーラーの人が笑う。


「私なんて前にいるから、回復分は特に残したいし」


「前に出るの、怖くないんですか?」


 志帆が聞いた。


「最初は怖かったよ。でも私、殴るのも好きだから。ヒールできるし、多少なら前にいてもいいかなって」


 志帆が、相手のメイスと自分の小さなメイスを見比べる。


「私は後ろがいいわ」


「それも全然ありでしょ」


 大学生の女の人はあっさり笑った。


「せっかくだし、湖まで戻って休まない?」


 向こうの一人が言い、二組で湖畔のセーフゾーンへ戻ることになった。


 近い場所へ腰を下ろし、飲み物を飲みながら話す。


 ダンジョンへ来る頻度を聞いてみると、大学生たちも毎日のように潜っているわけではなかった。授業やバイトの都合を合わせて来ているらしい。


「高校生だと、もっと時間合わせるの大変じゃない?」


「同じクラスなんで、そこは楽です」


「いいな、それ」


「でもテスト前は無理だよね」


 佳奈子が言う。


「それは大学生も同じ。単位落としたくないし」


「急に現実的」


 みつみが笑うと、向こうの四人も笑った。


 話題は自然にスキルへ移った。


「マーキングって、もう使えるんだよね?」


 スカウトの男の人に聞かれ、千尋が頷く。


「はい。この前増えました」


「いいなあ。俺、まだそこまで増えてないんだよね」


「そうなんですか?」


 千尋が少し意外そうな顔をする。


 隣では、杖を持った女の人がみつみに聞いた。


「魔法はいくつ使えるの?」


「三つです。《マジックボール》と、《マジックマイン》と、《マジックシールド》」


「もう三つあるんだ」


「はい」


「私、まだ二つ」


 みつみが瞬いた。


「ダンジョンって、どのくらい行ってるんですか?」


「週末が多いかな。授業とかバイトもあるし。みんなの予定が合えば平日もたまに」


「私たちもそんなに変わらないよね」


 佳奈子が三人を見る。


「うん。毎日行ってるわけじゃないし」


 初心者向けのダンジョンを二つ終えて、最近になって脱初心者へ進んだことも同じだった。


 千尋には《マーキング》まであり、みつみにも三つのスキルがある。一方、向こうのスカウトにはまだ《マーキング》がなく、メイジのスキルも二つだという。


「……私たち、成長するのちょっと早い?」


 みつみが言うと、大学生たちも顔を見合わせた。


「二人を見る限り、そうかも」


「でも、スキル増えるタイミングって人によって違うんでしょ?」


「じゃあ、たまたま?」


「それもあるかもね」


 活動する頻度は大きく違わない。それでも、少なくとも今話した二人と比べれば、みつみと千尋のほうが少し先を行っているらしい。


 結局、その場では理由までは分からなかった。


     ◇


 大学生たちと別れ、四人で入口へ戻る道を歩く。


 しばらくして、志帆が口を開いた。


「スキルを使うことでも、経験値は入るのよね」


「あ」


 みつみが足を止めかける。


 それは前から知っている。


「じゃあ、いっぱい使ってるから?」


「可能性はあるけれど、それだけとは限らないわ。戦った数も全部同じじゃないし、成長に個人差もあるでしょうし」


「でも、関係あるかもしれないってこと?」


 佳奈子が聞く。


「そうね」


 千尋が少し考える。


「私たち、今までMPとかSPを残すためにスキル使わないって考えたこと、あったっけ」


「ない」


「私もない」


 佳奈子が答え、みつみも首を振った。


「なくなったら困る、くらいは分かるけど」


「なくなりそうになってないからね」


 志帆が言う。


 森の中を歩きながら、千尋が前方へ視線を向ける。


「《気配察知》」


「ほら、また使った」


「これは必要なの」


「さっきの大学生なら使わないかもよ」


「知らない。私は使う」


 千尋はそのまま歩き出した。


 みつみも杖を肩へ乗せて、その後を追う。


 同じくらいダンジョンへ来ているのに、使えるスキルには少し差があった。


 大学生たちはMPやSPを残しながら戦う。


 自分たちは、そんなことをほとんど考えずに使ってきた。


 その違いが成長の速さに関係しているのかは、まだ分からない。


 ただ、今まで気にもしなかったことが、今日は少しだけ気になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。