第28話 我が呼び声に応えよ――其は《黒月》
「佳奈子、上がってる!」
みつみの声に、佳奈子がスマホを持ったまま顔を上げた。
「うん。五になってる」
「スキルは?」
「ちょっと待って。今見てるから」
さっき倒したダンジョンバットが消えたあと、四人は通路の脇へ寄っていた。
何となくステータスを確認した佳奈子のレベルが五になっていたのだ。
千尋とみつみも横から画面を覗き込もうとする。
「近い近い」
「何だった?」
「《ダブルショット》」
佳奈子が説明を読む。
「素早く二本の矢を連続射撃する、だって」
「二本!」
みつみがすぐに反応した。
「一回で?」
「連続って書いてあるから、同時に二本ってことじゃないんじゃない?」
「撃ってみれば分かるよ」
千尋が笑う。
志帆も佳奈子のスマホを見ながら頷いた。
「これで全員、三つ目ね」
「あ」
みつみは四人の顔を順番に見た。
千尋の《マーキング》。自分の《マジックシールド》。志帆の《ヒールショット》。そして佳奈子の《ダブルショット》。
「ほんとだ!」
「順番に来たね」
佳奈子がスマホをしまう。
「さっき、次は私かなって言ってたけど、本当に来るとは思わなかった」
「じゃあ使おう」
「相手がいないって」
「また出るよ」
「みつみ、毎回それ言うよね」
四人は笑いながら探索へ戻った。
それほど待たずに、先頭の千尋が片手を上げる。
「いる。ダンジョンラット」
「佳奈子!」
「分かってるって」
弓を構えた佳奈子が、少しだけ楽しそうに笑った。
岩陰からダンジョンラットが飛び出す。
「《ダブルショット》!」
一射目が飛び、ほとんど間を置かずに二射目が続いた。
二本の矢がダンジョンラットへ向かい、一射目が胴を捉える。二射目はわずかに外れ、岩壁へ当たった。
「あっ」
仕留めきれなかったダンジョンラットが走る。
千尋が前へ出て、ショートソードでその動きを止めた。
やがて消えていくモンスターを見ながら、佳奈子は弓を下ろす。
「二本目、外した」
「でも速かった!」
みつみが駆け寄った。
「ほんとにすぐ二本目いったね」
「自分でもびっくりした。いつもより次の矢を撃つのが全然早かった」
「使いこなせば、二連の矢が敵を穿つ――」
志帆がそこまで言って、佳奈子を見る。
「何?」
「……いえ。今のは少し格好よかったわ」
「自分で言ったんじゃん」
佳奈子は笑って矢筒を確かめた。
「次は二本とも当てたいな」
「じゃ、次行こ」
◇
その蝶を最初に見つけたのは、みつみだった。
「ねえ、あれ何?」
通路の先、ライトの光が届くぎりぎりのところで、小さな何かが光っている。
最初は水滴が反射しているのかと思った。けれど光はふわりと上がり、また下がる。
「動いてる」
千尋が目を細めた。
四人が少し近づくと、それが蝶の形をしているのが分かった。
淡く光る蝶が、洞窟の中をひらひらと飛んでいる。
「蝶?」
「ダンジョンの中に?」
佳奈子が弓を下ろしたまま見上げる。
「モンスターかな」
「分かんない」
千尋にも判断はつかないらしい。
蝶は四人から離れるように、通路の奥へ進んでいった。
「あ、行っちゃう」
みつみが一歩出る。
「追う?」
「待って」
千尋が蝶を見つめた。
「《マーキング》」
少しして、蝶が曲がり角の向こうへ消える。
みつみはすぐ千尋を見た。
「分かる?」
「うん。まだ近い。あっち」
「追おう!」
「まあ、そうなるよね」
佳奈子が笑った。
「正体不明の光に導かれ、我らは未知なる道へ――」
志帆が言いながら歩き出す。
「志帆も行く気満々じゃん」
「当然でしょう。あれを見て帰る選択肢がある?」
「ない」
みつみは即答した。
千尋の《マーキング》を頼りに、四人は光る蝶を追った。
曲がり角を二つ抜け、細い通路へ入る。途中から蝶そのものはまったく見えなくなったが、千尋は何度か立ち止まって方向を確かめ、そのたびに先を指した。
「まだこっち。ちょっと離れた」
「待ってー!」
「蝶に言っても聞こえないでしょ」
佳奈子の声が後ろから飛んでくる。
通路は次第に歩きにくくなっていった。
岩がせり出した場所では身体を横にして抜け、足元が崩れているところではライトで一歩先を確かめる。
「こんなとこ、普通に歩いてたら来ないよね」
みつみが岩を跨いだ。
「来ないと思う」
千尋が前方を照らす。
「でも、まだ向こうにいる」
その先で通路が急に開けた。
千尋が足を止める。
「うわ、待って」
すぐ後ろのみつみも止まった。
「何?」
「崖」
ライトを向けると、足元から岩が途切れていた。
下へ向けた光は途中で暗闇に飲まれ、向こう側へ向けても床面までは見えない。
みつみは一歩下がった。
「これ落ちたら嫌だ」
「それはみんな嫌」
佳奈子も崖際から距離を取る。
千尋は足元を確認しながら、左右へライトを動かした。
「切れ目自体はそんなに広くないと思う。大股で五歩ないくらい」
志帆が千尋を見る。
「《サイレントステップ》?」
「たぶん届く」
「え、行くの?」
みつみが聞くと、千尋は少し笑った。
「行ってみる。三人はそこにいて」
下がれるところまで下がり、千尋が崖へ向かう。
「《サイレントステップ》!」
一気に加速した千尋が暗がりへ飛び込んだ。
「千尋!」
みつみがライトを向ける。
少しして、暗闇の向こうから光が返ってきた。
「着いた!」
「おおー!」
声が崖の間に響く。
「ほんとに渡った!」
「こっちは足場あるよ。ちょっと待って」
千尋のライトが周囲を動く。
佳奈子が背負っていた荷物を下ろした。
「じゃあ、次はこれかな」
取り出したロープを見て、みつみが弓と見比べる。
「矢で飛ばすやつ?」
「たぶんそれが早いよね」
佳奈子はロープを矢に結び、向こう側へ声をかけた。
「千尋、撃つよー!」
「いいよ!」
三人が射線から離れる。
佳奈子が弓を引き、暗がりの向こうへ矢を放った。
「来た!」
向こうから千尋の声がする。
千尋が矢とロープを拾い、近くの岩へ固定した。
「大丈夫!」
こちら側でもロープを固定する。
崖の壁をライトで照らすと、ところどころに足を置けそうな出っ張りがあった。
「ロープだけで渡るんじゃないからね」
佳奈子が下を見て言った。
「足場使って、ロープは掴んどく感じで」
「分かってる」
みつみは返事をしたものの、崖をもう一度覗いてすぐ顔を上げる。
「下、見ないほうがいいかも」
「それは賛成」
志帆も素直に頷いた。
佳奈子、志帆、みつみの順で、一人ずつ向こう側へ渡っていく。
靴底で岩の出っ張りを探し、片手でロープを握る。数歩の距離なのに、みつみにはずいぶん長く感じられた。
「あとちょっと」
先に渡った千尋がライトで足元を照らしてくれる。
「そこ。右足置ける」
「ここ?」
「もうちょい右」
「あった!」
最後の一歩を越え、みつみは千尋の横へ上がった。
「着いたー!」
「お疲れ」
「もう帰りもこれやるの?」
「帰るならね」
「今は考えない」
佳奈子が笑った。
「それがいいと思う」
◇
崖の向こうは、さっきまでより人が通った気配が薄かった。
岩の凹凸が増え、細い道が暗がりの奥へ続いている。
「蝶は?」
みつみが聞く。
千尋は少し黙ってから奥を指した。
「まだ向こう。近い」
四人は慎重に進んだ。
やがて、先の暗がりに淡い光が見える。
「あ」
光る蝶だ。
蝶は少し先を飛び、広くなった空間へ入っていく。
みつみたちもあとを追って足を踏み入れた。
そこで、低い唸り声がした。
四人が止まる。
蝶はそのまま奥へ飛び、暗がりへ消えた。
代わりに、ライトの中へ大きな影が現れる。
「……でか」
佳奈子の声が小さくなった。
これまで見てきたゴブリンより、明らかに大きい。太い腕には、重そうな棍棒が握られている。
志帆がその姿を見上げた。
「オーク……」
「知ってるの?」
「見たことはない。でも、たぶん」
オークがこちらを向いた。
「来る!」
千尋の声で四人が動いた。
千尋が前へ出て、みつみは少し後ろ。佳奈子と志帆はさらに距離を取る。
オークの棍棒が振り下ろされ、千尋が横へかわした。
重い音が岩の空間に響く。
「うわっ、強そう!」
「見たら分かる!」
千尋がオークの横へ回る。
「《マーキング》!」
そのまま岩の陰へ走り込んだ。
オークが千尋を追って身体の向きを変える。
「今!」
後方の佳奈子が弓を引いた。
「《ダブルショット》!」
一射、続けてもう一射。
二本の矢が続けざまに飛び、今度はどちらもオークの身体を捉えた。
「二本当たった!」
「喜ぶのあと!」
志帆の声に、佳奈子がすぐ位置を変える。
オークが千尋を追って岩陰へ回った。
姿が見えなくなる。
「千尋!」
「分かってる!」
声が別の岩陰から返った。
《マーキング》をつけたオークが見えなくなっても、千尋には大まかな方向と距離が分かる。
オークが岩の陰から出てくるより先に、千尋が反対側へ回り込んだ。
ショートソードが脚を捉える。
低い唸り声が響いた。
オークが振り返り、棍棒を大きく振る。
千尋が後ろへ跳んだ。
「みつみ、そっち!」
「え?」
向きを変えたオークが、今度はみつみへ迫る。
逃げるより早い。
「《マジックシールド》!」
みつみの前方に魔力の障壁が展開した。
振り下ろされた棍棒が障壁に阻まれる。
「うわっ……!」
「みつみ、離れて!」
志帆の声に、みつみはすぐ横へ逃げた。
障壁が消え、オークが追おうとする。
「こっち!」
千尋が横からショートソードを振り、注意を引き戻す。
佳奈子も射線を探して弓を引いた。
オークが棍棒を横へ大きく振り回す。
「佳奈子、下がって!」
「わっ!」
佳奈子が後ろへ避けた拍子に岩壁へ腕を擦り、顔をしかめた。
「いたっ」
「佳奈子!」
「平気、擦っただけ!」
腕には浅い傷ができている。
それでも佳奈子は弓を離さなかった。
少し後ろにいた志帆がすぐに反応する。
「そのままでいい。《ヒールショット》!」
離れた位置から《ヒール》が届き、佳奈子の傷が治る。
「ありがと!」
「前見て!」
「うん!」
オークが千尋を追って向きを変える。
「佳奈子!」
「見えてる!」
弓が引かれる。
「《ダブルショット》!」
二本の矢が続けて飛び、オークの身体に刺さった。
大きな身体が揺れる。
「みつみ!」
「《マジックボール》!」
魔力弾が胸へ当たる。
それでもオークは倒れなかった。
「まだなの!?」
「もう一回!」
千尋が横から斬りつける。
オークが棍棒を持ち上げるが、さっきより動きが鈍い。
佳奈子の矢がさらに一本当たり、オークが膝をついた。
「今!」
みつみが杖を向ける。
「《マジックボール》!」
青白い魔力弾が当たり、オークの巨体が倒れた。
重い音が空間に響く。
四人はすぐには近づかず、その場で様子を見る。
やがて、オークの身体が消えていった。
「……倒した?」
「倒した」
千尋が息を吐く。
「強かったー!」
みつみは近くの岩へ手をついた。
「ゴブリンと全然違うじゃん」
「棍棒、怖すぎ」
佳奈子も息を整えながら、さっき傷ついた腕を確かめる。
志帆は三人を見回した。
「他に怪我は?」
「私は平気」
「私も」
みつみが答える。
千尋も頷いた。
「大丈夫」
「ならよし」
少しして、みつみが顔を上げる。
「ねえ」
「何?」
「あれ」
オークがいた場所の奥。岩壁のそばに、箱が置かれている。
四人が同時にそちらを見た。
「宝箱?」
佳奈子が呟く。
疲れていたはずのみつみは、もう立ち上がっていた。
「宝箱!」
「待って待って。急に元気にならないで」
千尋が笑う。
四人で近づき、箱を開けた。
中に入っていたのは、一本のショートソードだった。
「剣だ」
千尋が手に取る。
刃が黒い。
ライトを受けても銀色には光らず、暗い色の刃が細く伸びている。
「うわ」
志帆が一歩近づいた。
「何その反応」
千尋が笑う。
「黒い刃……」
「志帆、めっちゃ見てる」
佳奈子まで笑い始めた。
志帆は真剣な顔で剣を見つめる。
「これは、名を与えるべきね」
「いらない」
「まだ何も言ってないでしょう」
「絶対変なのつけるじゃん」
「変ではないわ。漆黒の刃に相応しき名――《黒月》」
「却下」
「早い!」
みつみは黒い刃を覗き込んだ。
「黒月、いいじゃん」
「みつみまでやめて」
「黒月かっこいいよ」
佳奈子も乗ってくる。
「佳奈子?」
「黒いし」
「理由それだけ?」
志帆が満足そうに頷いた。
「決まりね」
「決まってない!」
千尋の声が洞窟に響いた。
◇
崖を戻ったあと、四人は元の通路へ戻って探索を続けた。
「黒月、使わないの?」
「使わない。まだどんな剣かも分かんないし」
千尋が新しく手に入れたショートソードを持ち直す。
「あと黒月って呼ばないで」
「じゃあ黒い剣」
「それでいい」
「黒月のほうが短いよ?」
「一文字しか変わらないでしょ」
みつみが笑っていると、先頭の千尋が急に止まった。
「静かに」
三人も口を閉じる。
通路の先が広くなっていた。
そこに、一体のモンスターがいる。
ゴブリンに似ているが、いつも見ているものより少し大きく、身体もがっしりしていた。
「ホブゴブリン?」
志帆が小声で言う。
蔵安ダンジョンのボスだ。
「さっきのオークよりは小さいね」
佳奈子が弓を構える。
「だからって油断しないでよ」
「分かってる」
千尋がいつものショートソードを抜いた。
「行くよ」
ホブゴブリンが四人へ向かってくる。
千尋が前へ出た。
いつものゴブリンより速く、千尋の一撃を受けても止まらない。そのまま腕を振るう。
「みつみ!」
「《マジックシールド》!」
前方に出た障壁が攻撃を防ぐ。
その間に千尋が横へ離れた。
「今!」
佳奈子の矢が飛ぶ。
一本目が当たり、ホブゴブリンが向きを変えた。
「《ダブルショット》!」
二射が続けて飛ぶ。
一射は外れたが、もう一射が胴を捉える。
千尋が横へ回り込み、ショートソードを振った。
「《マジックボール》!」
みつみの魔力弾も続く。
ホブゴブリンがよろめいた。
それでも倒れず、千尋へ向かって腕を振り上げる。
「右!」
志帆の声が飛ぶ。
千尋がかわした。
空いたところへ佳奈子の矢が当たり、さらにみつみが杖を向ける。
「もう一発!」
魔力弾が命中した。
ホブゴブリンが倒れる。
しばらくして、その身体が消えていった。
その直後、ホブゴブリンがいた場所の少し先に変化が起きた。
「あっ」
みつみが指を差す。
何もなかった空間に、帰還ゲートが現れている。
「出た!」
「ってことは」
佳奈子が弓を下ろした。
「クリア?」
みつみはすぐにスマホを取り出した。
ステータスを開く。
「あった!」
実績に、蔵安ダンジョンをクリアした記録が追加されている。
「ほんとにクリアしてる!」
その声を聞いて、千尋も志帆も佳奈子も自分のステータスを確認した。
四人とも同じだった。
初回クリアの経験値ボーナスも獲得している。ただし、どれだけ入ったのかは分からない。
「やった!」
みつみがスマホを握ったまま両手を上げた。
「クリアしたー!」
「やったー!」
佳奈子も声を上げる。
千尋はショートソードを収めながら笑った。
「二つ目だね」
「二つ目!」
みつみが繰り返す。
骨橋ダンジョンに続いて、これで二つ目。
しかも今日は、ただボスを倒しただけではない。
「なんか今日、すごくなかった?」
「すごかった」
佳奈子が即答した。
「全員、新しいスキル使ったし」
「光る蝶も追った」
千尋が続ける。
「崖も渡った」
「オークも倒した!」
みつみが指を折って数えていく。
「宝箱もあった!」
「そして、我らは漆黒の魔剣《黒月》を手に入れた――」
「手に入れたの私だからね?」
千尋がすぐに割り込んだ。
「あと黒月じゃない」
「まだ認めないの?」
「最初から一回も認めてない」
「でも、もう三人が黒月って呼んでるよ」
佳奈子が言う。
「多数決じゃないから!」
さっきまでの戦闘の緊張が抜けて、四人の笑い声が広い空間に響いた。
みつみはもう一度、スマホの実績を見る。
蔵安ダンジョン、クリア。
来たときにはまだ持っていなかったスキルを、今は四人とも一つずつ増やしている。
行ったことのない場所へ行って、見たことのないモンスターを倒して、宝箱まで見つけた。
その最後に、ちゃんとこのダンジョンもクリアした。
「ねえ、帰ろっか」
みつみが言った。
「うん」
「帰ろう」
四人で帰還ゲートへ向かう。
みつみは入る直前でもう一度だけ、洞窟の奥を振り返った。
「楽しかった」
「今日は濃かったね」
佳奈子が隣で笑う。
「また蝶いたら追う?」
千尋が聞いた。
「追う!」
「即答だ」
「次は何があるか分かんないじゃん」
「そういうこと言ってると、また崖あるよ」
「……それはちょっと考える」
四人で笑って、帰還ゲートをくぐった。
◇
入口へ戻ると、みつみは思わず大きく息を吐いた。
「帰ってきたー」
「お疲れ」
千尋も肩の力を抜く。
「明るい」
佳奈子が周囲を見回した。
「ずっと洞窟だったから、余計にそう感じるね」
志帆も頷いた。
さっきまでオークやホブゴブリンと戦っていたのに、戻ってしまえばいつものダンジョン施設がある。
その差が、みつみには少し不思議だった。
「受付行こ」
千尋に言われ、四人は施設の受付へ向かった。
そこでクリア記録を確認してもらう。
蔵安ダンジョン、初回クリア。
確認が終わると、四人それぞれにクリア記念メダルが渡された。
「おおー」
みつみは受け取ったメダルを手のひらに乗せる。
「二個目だ」
「骨橋のと合わせて?」
「うん」
みつみは嬉しそうに頷いた。
「二個になった」
佳奈子も自分のメダルを眺める。
「こういうの、増えてくのいいね」
「分かる」
千尋も頷いた。
志帆はメダルを見てから、千尋が持っている黒いショートソードへ視線を移した。
「本日の戦果。蔵安攻略の証、そして漆黒の魔剣――」
「だから魔剣じゃない」
「《黒月》」
「名前もついてない!」
「我が呼び声に応えよ――其の名は《黒月》」
志帆が黒いショートソードへ片手を伸ばした。
「呼ばないで!」
千尋が剣を志帆から遠ざける。
みつみが吹き出した。
「黒月、返事した?」
「してない!」
「そのうちするかも」
佳奈子まで言い出す。
「しないから!」
三人が笑う。
千尋も困った顔をしていたが、最後には笑っていた。
みつみはもう一度、手のひらのメダルを見る。
骨橋をクリアしたときにも一つもらった。
そして今日、二つ目が増えた。
「ねえ」
「何?」
みつみはメダルを握って三人を見る。
「初心者ダンジョン、二つクリアしたんだよね」
「そうだね」
千尋が答える。
「じゃあさ」
何を言いたいのか分かったらしく、佳奈子が先に笑った。
「次?」
「うん。次!」
「初心者の次ってこと?」
「そう!」
四人の視線が集まった。
志帆の口元がゆっくり上がる。
「ついに、その時が来たということね」
「嬉しそう」
「みつみもでしょう?」
「うん!」
みつみは即答した。
手の中には、二つ目のクリア記念メダル。
千尋の手元には、今日見つけた黒い刃。
四人とも三つ目のスキルを覚えて、それを実際に使って戦った。
初心者ダンジョンを二つクリアした。
次は、その先へ。
みつみは三人と一緒に、次のダンジョンの話をしながら施設をあとにした。




