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現代JKダン活部!〜放課後はダンジョンしか勝たん〜  作者: 飯山知 春。


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第2話 ダンジョンって何着てけばいいの?

「で、何着てけばいいの?」


昼休み。


みつみは弁当箱を開けるより先に、向かいに座った千尋へ聞いた。


「ダンジョン?」


「ダンジョン」


「昨日言ったじゃん。動きやすいやつ」


「それが分かんないんだって」


「ジャージでいいよ」


「嫌だ」


「なんで」


「初ダンジョンが学校のジャージって嫌じゃない?」


「別に誰も見てないよ」


「私が見る」


「自分で?」


「そう」


千尋は卵焼きを一口食べた。


「じゃあ好きなの着れば?」


「それで変なの着てったら千尋笑うでしょ」


「笑わないよ」


「ほんと?」


「たぶん」


「今たぶんって言った」


みつみは箸を持ったまま、自分の服を思い浮かべた。


普段着。


スニーカー。


パーカー。


そのあたりなら動けそうな気はする。


でも、ダンジョン。


そう考えた瞬間、全部が頼りなく思えてくる。


「長ズボン?」


「その方がいい」


「スカートは?」


「やめとけば」


「ショーパン」


「やめとけば」


「じゃあ長ズボンじゃん」


「だから最初からそう言ってる」


「言ってないよ」


「今言った」


「私が聞いたからじゃん」


「めんどくさ」


「初めてなんだからしょうがないでしょ」


千尋が笑った。


昨日、ダンジョンへ行くと決めてから、みつみの頭の中はずっとこんな調子だった。


家に帰ってからも動画を見た。


初心者向けダンジョン。


初探索。


持っていくもの。


服装。


おすすめ装備。


検索すればするほど、よく分からなくなった。


本格的な装備で全身を固めた人もいれば、近所を散歩するみたいな格好で歩いている人もいる。


「昨日調べたんだけどさ」


「うん」


「みんな言ってること違くない?」


「何が?」


「装備。絶対これ買えって人もいるし、最初は家にあるものでいいって人もいるし」


「ああ」


「どっちが正しいの?」


「どっちもじゃない?」


「一番困る答えきた」


「行く場所によるし」


「またそれ」


昨日から何度か聞いた。


場所による。


ダンジョンによる。


人による。


ゲームなら攻略サイトを見れば正解が載っていそうなのに、現実のダンジョンはそう簡単ではないらしい。


「じゃあ私が行くところでは?」


「そんな本格的なのいらないよ。初めてだし、浅いところだけにするから」


「じゃあ家にあるのでいい?」


「靴は見たい」


「靴?」


「今履いてるやつは?」


みつみは机の下を覗いた。


学校指定のローファー。


「これ」


「それで行く気だったの?」


「違うよ!」


「じゃあ普段履いてるやつ」


「白いスニーカー」


「汚れてもいい?」


「やだ」


「じゃあ買お」


即決だった。


「あとライト」


「それも買う?」


「持ってないでしょ」


「スマホじゃダメなんだよね」


「ダメっていうか、わざわざスマホ使う理由ないし」


「ヘッドライト?」


「それでもいいよ」


みつみは眉間にしわを寄せた。


「……頭につけるやつだよね」


「そう」


「ダサくない?」


「まだ言ってんの?」


「だって大事じゃん」


「暗いところで転ぶよりはいいでしょ」


「正論で殴るのやめて」


「じゃあ手に持つやつでもいいよ」


「そっちにする」


「片手ふさがるよ」


「……頭につける」


「早」


みつみはスマホを取り出した。


メモを開く。


『靴』


『ライト』


二つ入力する。


「あと?」


「手袋」


「軍手?」


「でもいいけど」


「ダサい」


「もう好きなの買って」


「ちゃんとしたやつ買う」


『手袋』


「あと?」


「飲み物」


「買う」


「タオル」


「ある」


「着替えはあってもいいかも」


「そんな汚れる?」


「汚れるときは」


『着替え』


「あと?」


「お昼」


みつみの指が止まった。


「中で食べるの?」


「食べてもいいよ」


「え、いいじゃん」


「何が?」


「ダンジョンでお昼」


「そこ?」


「だって楽しそうじゃん」


「遠足じゃん」


「半分くらい遠足じゃないの?」


「違うけど」


「じゃあ何割?」


「知らないよ」


みつみはメモに『お昼』と入力した。


その横に、なんとなくおにぎりの絵文字をつける。


「あと?」


「承諾書」


「なにそれ」


「未成年は保護者の承諾書いるよ」


「あ、そうなんだ」


「初めてなら忘れないでね。入れないから」


「それ一番大事なやつじゃん。先に言ってよ」


「今言ったじゃん」


「靴より先でしょ!」


みつみは慌ててスマホへ入力した。


『保護者の承諾書』


忘れないように、その頭へ星印を三つ付ける。


「これで全部?」


「とりあえず」


「ほんと?」


「たぶん」


「不安なんだけど」


千尋がみつみのスマホを覗き込む。


「靴、ライト、手袋、着替え、お昼、承諾書」


「うん」


「お昼だけ絵文字ついてる」


「大事だから」


「承諾書の方が大事でしょ」


「星三つつけたじゃん」


「忘れたら入れないからね」


「分かってるって」


チャイムが鳴るまで、みつみはそのメモを何度も眺めた。


たった六つ。


それなのに昨日より、ダンジョンが少し近くなった気がした。





放課後。


二人は駅前のアウトドアショップにいた。


みつみは入口を入ってすぐ、足を止めた。


「広っ」


「そう?」


「何買う店なの、ここ」


「いろいろ」


天井近くまで並ぶリュック。


壁一面の靴。


色も形も違うライト。


水筒、帽子、手袋、折り畳み椅子。


用途の分からない金属製の道具まで並んでいる。


「千尋、こういう店来る?」


「来るよ」


「一人で?」


「一人でも来る」


「へえ」


学校帰りに一緒に寄る店といえば、コンビニやドラッグストア、駅ビルの服屋くらいだと思っていた。


千尋が迷わず奥へ歩いていく。


その後ろをついていくと、昨日と同じ感覚がした。


自分の知らない千尋を見ている。


「まず靴ね」


「はーい」


売り場には似たような靴がずらりと並んでいた。


「どれ?」


「履いて決める」


「おすすめは?」


「足に合うやつ」


「千尋さあ」


「なに」


「今日ずっと答えがふわっとしてる」


「足の形なんて人によるじゃん」


「そうなんだけどさ」


値札を見る。


みつみの動きが止まった。


もう一つ見る。


その隣も見る。


「……高くない?」


「ピンキリ」


「私、まだ一回もダンジョン行ってないんだけど」


「うん」


「これ買って、行ってみたら全然楽しくなかったら?」


「普段履けば?」


「このゴツいやつを?」


「雨の日とか」


「元取れる?」


「知らないよ」


千尋が笑う。


結局、店員にも相談して、いくつか試し履きすることになった。


一足目。


「なんか硬い」


「じゃあ次」


二足目。


「でかく見えない?」


「見た目じゃなくて履き心地」


「見た目も大事」


三足目。


みつみは売り場を少し歩いた。


「あ、これいいかも」


「痛いとこない?」


「ない」


「指当たってない?」


「大丈夫」


「じゃあ候補」


みつみは鏡の前で足元を見る。


普段なら選ばないような靴だった。


でも、不思議と悪くない。


「なんかさ」


「うん」


「これ履いてると、ちょっと強そうじゃない?」


「靴で?」


「二割くらい」


「残り八割は?」


「これから」


「何を目指してんの」


靴を決めると、次はライトだった。


千尋が迷わずヘッドライトを手に取る。


「これ系」


「やっぱこれかあ」


「嫌なら普通のライトでもいいよ」


みつみは試着用を頭につけ、近くの鏡を見る。


「……ダサ」


「誰も見てないって」


「今めっちゃ見てるじゃん」


「自分でつけたからでしょ」


「千尋もつけて」


「なんで」


「私だけダサいの納得いかない」


「持ってるからいらない」


「今つけるだけ」


「やだ」


「つけて」


「やだって」


しばらく揉めた末、千尋も試着用をつけた。


二人で鏡の前に並ぶ。


「ほら」


「なに」


「二人ならちょっとマシ」


「変わんないよ」


「写真撮ろ」


「やだ」


「一枚だけ」


「絶対誰かに見せるじゃん」


「見せないって」


「その言い方は見せるやつ」


結局、写真は撮らせてもらえなかった。


みつみは笑いながらライトを外す。


「でもこれにする」


「気に入ったんじゃん」


「機能はね。見た目は別」


その次は手袋。


こちらはすぐに決まった。


「これかわいい」


「それでいいんじゃない」


「ちゃんと使える?」


「試着してみれば?」


「千尋と色違いにする?」


「私もう持ってるけど」


「何色?」


「黒」


「じゃあ黒以外」


「色違いにする意味なくなってるじゃん」


必要なものを選んでいくうちに、みつみの腕に抱える商品が増えていった。


靴。


ライト。


手袋。


それから、予定になかった小さめのタオルまで一枚。


「これいる?」


「家にあるって言ってなかった?」


「かわいいから」


「じゃあダンジョン関係ないじゃん」


「こういうときじゃないと買わないし」


「好きにすれば」


レジへ向かう途中、みつみが突然立ち止まった。


壁にいくつものバックパックが掛かっている。


「リュックも欲しい」


「持ってない?」


「あるけど」


「じゃあそれでいいよ」


「でもこれ、めっちゃそれっぽい」


「それっぽいで買ってたらキリないよ」


「……確かに」


値札を見る。


「今日はやめる」


「賢い」


「一回行って、ハマったら買う」


「それがいいと思う」


「ハマるかな」


「さあ」


「千尋はハマった?」


「まあ」


「どのくらい?」


「中学から行ってるくらい」


「それ、結構じゃん」


千尋は少し笑って、先にレジへ歩いていった。


みつみもその後を追う。





店を出たときには、空が少し赤くなり始めていた。


みつみの手には大きな紙袋がある。


「重い」


「ほぼ靴じゃん」


「なんで買い物しただけで疲れるの」


「ずっと店の中歩き回ってたからでしょ」


「ダンジョン行く前に体力なくなる」


「今日は行かないから大丈夫」


駅へ向かいながら、みつみは紙袋の中を覗いた。


箱に入った靴。


ライト。


手袋。


タオル。


昼休みにスマホへ書いた文字が、本物になって入っている。


「これで全部?」


「だいたい」


「だいたい?」


「細かいのは家にあるものでいいし。足りなかったら次買えばいいよ」


「そんな感じなんだ」


「そんな感じ」


もっと大変な準備が必要なのだと思っていた。


特別な道具を揃えて、何か難しい手続きをして、ちゃんとした探索者になってから入る場所。


なんとなく、そんなふうに思っていた。


でも実際には、放課後に友達と店へ寄って、靴を履き比べて、ライトを頭につけて笑って。


その延長にダンジョンがある。


みつみはもう一度、紙袋を覗いた。


「……なんか、ほんとに行くんだね」


「今さら?」


「昨日はまだ、行きたいって言っただけだったし」


「嫌になった?」


「逆」


「じゃあいいじゃん」


「うん」


少し歩いてから、みつみが顔を上げる。


「ねえ、お昼どうする?」


「まだそこ気にしてたの?」


「大事だって」


「好きなの持ってくれば?」


「コンビニ?」


「でもいいし」


「せっかくだからなんか作ろっかな」


「作れるの?」


「おにぎりくらい作れるし」


「オムライスは?」


一瞬、みつみの頭に、昼休みに見た動画が浮かんだ。


皿を飛び越えて床へ消えていったオムライス。


「……おにぎりにする」


千尋が笑った。


「絶対その方がいい」


「床に落とさないし」


「そこ?」


「ダンジョンで『できました』ってやりたくないから」


二人で笑いながら駅へ向かう。


紙袋は少し重い。


けれど、その重ささえ今はちょっと嬉しかった。

次回、いよいよみつみの初ダンジョンです!


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