第17話 地元ダンジョン攻略 前編
地元ダンジョンへ入って二十分ほど。
みつみは通路の端にしゃがみ込んでいた。
「このへん?」
「もうちょい右。真ん中すぎると私たちも邪魔じゃない?」
千尋に言われ、みつみは岩壁側へ少しだけ位置をずらした。
「じゃあ、ここ」
床へ手を向けながら頭に浮かべたのは、昨日まで何度もアプリで眺めていた名前だった。
《マジックマイン》
指先の先で淡い光が一瞬だけ広がり、岩の床に小さな光が残る。
「……できた」
みつみが立ち上がると、四人は揃って床の光を覗き込んだ。
佳奈子が少し腰を屈める。
「これがマイン?」
「そう。たぶん」
「地味じゃない?」
「今からすごいから」
「敵いないけど」
「来たらすごいから」
志帆も少し離れた位置から光を眺めている。
「魔力の罠、か。獲物がどう踊るのか、見ものね」
「そうなんだよね。アプリ見てもそこまでは書いてないし」
みつみは光の周囲へ視線を巡らせた。
置けることは分かった。問題は、この先だ。
「敵、来ないかな」
「敵待ちするの?」
千尋が笑う。
「ちょっとだけ」
「今日クリアするんでしょ?」
佳奈子が弓を肩へ掛け直した。
「あ」
そうだった。
今日は新しい魔法を試しに来たわけではない。地元ダンジョンをクリアするために来たのだ。
「じゃあ行こ」
「マインは?」
「……置いてく」
歩き出して数歩、みつみは名残惜しそうに振り返った。床にはまだ淡い光が残っている。
「なんか、もったいない」
「分かるけど」
千尋に笑われ、みつみも諦めて前を向いた。
今日の四人は、前回よりずっと荷物が軽い。
テントも寝袋もなく、夜を越すための食料や細かな野営道具もない。背負っているのは、日帰り探索に必要なものだけだ。
「軽い」
みつみがリュックを揺らす。
「全然違う」
「昨日あれ背負ってたから余計じゃない?」
佳奈子も肩を回した。
「もうこのくらいでいい。ずっとこれがいい」
「野営もうしないの?」
「するけど、今はいい」
「昨日も言ってたね」
「一日で気持ちは変わらないから」
前を歩いていた千尋が足を止め、後ろの三人もそれに合わせて止まった。
「いる」
声が少し低くなる。それまで続いていた雑談が、そこで途切れた。
「前?」
「うん。近い」
千尋が腰のショートソードへ手を掛けると、四人は自然に少しだけ間隔を広げた。
やがて曲がり角の向こうから、小さな影が姿を現す。
ゴブリンだった。
二足で歩いてはいるが、人間とはまるで違う。前傾した獣のような身体に、突き出した口吻。その隙間から牙が覗いている。
一体。
ゴブリンがこちらに気づき、地面を蹴った。
「私やる!」
みつみが杖を向ける。
《マジックボール》
飛び出した魔力弾が、走ってきたゴブリンの胸へ当たった。身体が後ろへ弾かれ、倒れたところへ千尋が踏み込む。振るわれたショートソードを受け、ゴブリンが消えた。
「よし」
「マイン使わなかったね」
佳奈子に言われ、みつみが固まる。
「あ」
「忘れてたでしょ」
「次!」
杖を握り直す。
「次は絶対使う」
「敵来てから慌てて置くより、先に考えたほうがよさそうだけどね」
千尋が先へ視線を戻した。
「とりあえず歩こ。使えそうな場所あったら試そう」
「了解」
探索を再開する。
今日は、これまでに通った場所を抜けるのが早かった。見覚えのある分岐も、休憩した場所も、戦った場所も、以前なら一つ一つ足を止めていたのに、今日は次々と後ろへ流れていく。
「なんか早くない?」
「荷物軽いしね」
「それだけ?」
みつみは歩きながら周囲を見た。
同じダンジョンなのに、以前より少し狭く感じる。
最初に来たときは、曲がり角の先に何があるのか分からないだけで緊張した。今だって先に何があるのかは分からない。ただ、その分からなさそのものには、少しずつ慣れてきている。
「私たち慣れた?」
「多少は」
千尋が答える。
「まだ初心者だけど、最初よりは全然」
「だよね」
何か数字を示されたわけではない。それでも、同じ道を歩いているだけで以前との違いが分かることが、みつみには少し嬉しかった。
その先で、ダンジョンラットが二体現れた。
「来た!」
みつみは足元と前方を素早く見比べる。
通路は狭い。二体ともこちらへ来るなら、ほぼ同じ場所を通るはずだ。
「ここなら!」
《マジックマイン》
床に淡い光が残る。
「私、横!」
千尋が少し右へ位置を変えた。
低い姿勢で走ってくる二体。その一体目が光のある場所へ入った次の瞬間、床近くで魔力が弾けた。
「うわっ!」
仕掛けたみつみ自身が驚くほど、低い爆発のような衝撃が広がった。一体目のラットが横へ吹き飛び、すぐ後ろにいた二体目まで巻き込まれる。
「二匹いった!」
「みつみ!」
「あ、はい!」
見ている場合ではない。
一体がもう起き上がろうとしている。そこへ佳奈子の矢が刺さり、もう一体へ千尋が走った。
ショートソードが振られ、消滅。
矢を受けた一体へ、みつみがマジックボールを撃ち込む。そちらも消えた。
「……すご」
みつみは何もいなくなった床を見つめた。
「二体に当たった」
「小範囲って、ちゃんと複数巻き込めるんだ」
佳奈子が矢を一本取り出しながら近づいてくる。
「普通に強くない?」
「強い!」
千尋は、さっきラットが走ってきた通路を振り返った。
「でも、広い場所だと今みたいにはいかないかもね。ここ狭かったから二匹とも同じところ来たけど」
みつみも通路を見る。
敵がどこを通るのか先に考え、そこへ置く。
「……面白い」
「その顔やめて」
「何?」
「絶対また置きたくなってる」
「置きたい」
「クリアするんだって」
「分かってるって」
分かってはいる。
それでも、新しい魔法は思っていたよりずっと面白かった。
◇
それから一時間ほど進み、途中で休憩を挟んだ。
水を飲み、菓子を一つずつ食べる。佳奈子が持ってきたグミを、みつみが二個取って怒られた。
「二個くらいいいじゃん」
「一個って言ったじゃん」
「一個小さかった」
「全部同じ大きさだから」
志帆が袋を覗く。
「兵糧を巡る仲間割れとは。滅びた冒険者たちも、案外こういうところから始まったのかもしれないわね」
「グミ一個で滅ぼさないで」
佳奈子が袋を閉じた。
「量の問題じゃないの」
「佳奈子細かい」
「勝手に取った人が言う?」
そんなことを話しながら休み、また歩き出した。
やがて、四人は見覚えのない場所へ出た。
「ここ、前来てないよね?」
「来てない」
千尋が周囲を見回す。
それまで続いていた通路が急に広くなっていた。左側には岩壁が続いているが、右側には腰ほどの高さの岩がいくつも突き出し、その間に細い隙間ができている。
足元も、それまでの比較的平らな道とは違った。小さな石が転がり、地面は緩く下っている。前方には広い空間が続いていた。
「なんか急に歩きにくい」
佳奈子が足元を見ながら言う。
「転ばないようにね」
「さっきグミ取った人に言われたくない」
「それ関係なくない?」
千尋が数歩進んだところで、不意に止まった。
「待って」
さっきまでとは声が違う。
みつみも足を止める。
「いる?」
「いる。……複数」
「何匹?」
「そこまでは分かんない」
千尋は前を見たまま、わずかに身体の向きを変えた。
「近いのが前。あと……右にもいる」
佳奈子が弓を手にし、志帆も一歩下がった。
「囲まれるのは御免ね」
「まだ。姿見てから決めよ」
前方の岩陰が動いた。
一体。
二体。
ゴブリン。
「二匹」
みつみが杖を構えた、その直後だった。
右側の岩と岩の隙間から、低い影が飛び出してくる。
「右!」
ダンジョンラット。
一体ではない。二体、三体と続く。
「多っ!」
佳奈子の声と同時に、千尋が右へ走った。
一番近いラットが跳ぶ。千尋は身体を捻ってかわし、ショートソードを振り下ろした。背中へ刃が当たるが、消えない。
二体目がその横を抜けた。
「佳奈子!」
「見えてる!」
弓が鳴る。
矢がラットの身体へ刺さり、進路がずれた。その先には志帆がいる。
志帆が岩壁側へ動いた。
「こっち来た!」
「下がって!」
みつみが杖を向け、マジックボールを放つ。
魔力弾に弾かれたラットが倒れたが、正面からはもう二体のゴブリンが迫っている。千尋は右側のラットを相手にしている。
佳奈子が弓を引いた。
「どっち!?」
「前お願い!」
千尋の声。
矢がゴブリンへ飛び、一体の肩に刺さる。それでもゴブリンは止まらない。
みつみは床を見る。
さっきの狭い通路とは違って、ここは広い。
どこに置けばいい。
一瞬、迷った。
「マイン……!」
それでも前方へ設置する。
《マジックマイン》
淡い光が床へ広がった直後、ゴブリン二体が左右へばらけた。
「そっち行く!?」
「みつみ、左!」
佳奈子の声に顔を上げる。
マインから外れた一体が、こちらへ走ってくる。
みつみはマジックボールを撃った。
命中。
それでも来る。
「うそ、まだ来る!」
「みつみ下がって!」
志帆の声。
後ろへ下がったみつみの靴の踵が、小石に乗った。
「わっ」
足が滑り、体勢が崩れる。
ゴブリンが迫った。
そこへ横から矢が飛び、頭部に当たる。ゴブリンの身体が傾いた。
「今!」
佳奈子。
みつみは片足をついたまま杖を向ける。
《マジックボール》
至近距離から魔力弾が当たり、ゴブリンが消える。
「ありがと!」
「まだ!」
佳奈子はもう次の矢をつがえている。
もう一体のゴブリンが、床の光のある範囲へ踏み込んだ。
魔力が弾け、ゴブリンが横へ吹き飛ばされる。
だが、そこで終わらない。
右側では、千尋がラット一体を倒したところへ、残る一体が低く飛び込んでいた。
千尋が避ける。
その避けた先。
「千尋、後ろ!」
志帆が叫ぶ。
岩陰から、さらに一体が飛び出してきた。
ホーンラビット。
「増えた!」
角を前へ向け、一直線に加速する。
千尋が振り返る。
近い。
志帆が先に動いた。
「千尋!」
千尋の肩へぶつかるようにして横へ押す。二人が岩壁側へよろめき、そのすぐ横をホーンラビットが走り抜けた。
「志帆!」
「平気!」
転んだ志帆がすぐに身体を起こす。
ホーンラビットは前方で減速すると、こちらへ向き直った。
また来る。
「佳奈子、ウサギ!」
「今ゴブリン!」
佳奈子は、マインで吹き飛んだゴブリンへ二射目を放った。
矢が刺さり、消える。
みつみはホーンラビットを見た。
速い。
あの速度へマジックボールを撃っても、当てられる気がしない。
千尋が立ち上がった。
「みつみ、マイン置ける!?」
「どこ!?」
千尋が右手を伸ばす。
「そこの岩の間!」
右側に並ぶ岩。その間には、二人が並べない程度の隙間がある。
みつみは杖を向けた。
《マジックマイン》
隙間の床へ光が広がる。
「置いた!」
「佳奈子、ラットお願い!」
「分かった!」
千尋が走った。
向かったのはホーンラビットではなく、右側の岩だった。光のある隙間の横を抜ける。
ホーンラビットが千尋へ向きを変えた。
「え」
一気に加速する。
「千尋!」
「大丈夫!」
千尋は岩の隙間を抜け、ホーンラビットもその後を追う。
左右の岩によって進路が狭まる。
その中央、光のある場所へ入った瞬間、魔力が弾けた。
小さな身体が横へ跳ねる。
「いった!」
「まだ!」
千尋が反転する。
落ちたホーンラビットへ一気に詰め、ショートソードを振る。
一撃。
消えた。
残るのはラットだけだった。
佳奈子の矢を受けながら、それでも止まらず佳奈子へ向かって低く走っている。
「近い近い!」
もう弓を引いている余裕はない。
佳奈子が後ろへ下がり、ラットが跳ぶ。
その間へ千尋が入り、ショートソードで横から叩いた。ラットが地面を転がる。
「みつみ!」
「はい!」
今度は迷わない。
《マジックボール》
魔力弾が当たり、ラットが消えた。
ようやく静かになった。
「……終わった?」
誰もすぐには答えない。
千尋が息を少し弾ませながら、周囲を見回している。
「待って」
四人とも動かなかった。
さっきまで響いていた足音も鳴き声も消え、聞こえるのは四人の荒い呼吸だけだった。
十秒ほどして、千尋がようやく息を吐く。
「たぶん、終わり」
「たぶん怖いんだけど」
佳奈子が弓を下ろし、みつみも杖を下げた。
力を抜いた途端、腕が重く感じる。
「何匹いた?」
「ゴブリン二、ラット三……」
佳奈子が指を折る。
「途中でウサギ一」
「六?」
「たぶん」
「多かった……」
これまで、一度にこんな数を相手にしたことはなかった。
強い敵がいたわけではない。ゴブリンもラットもホーンラビットも、全部知っている相手だ。
それなのに、戦ってみると全然違った。
前から来る敵がいる。横からも来る。足元には石があり、岩が邪魔をして佳奈子から全部が見えるわけでもない。千尋一人ですべてを止められるわけでもない。
みつみ自身も、どこへ魔法を撃てばいいのか一瞬分からなくなった。
「志帆、大丈夫?」
千尋が振り返る。
「平気。転んだだけ」
志帆が袖をまくった。肘が少し擦れて赤くなっている。
「痛い?」
「この程度の傷に癒やしの奇跡を乞うほど、私は軟弱ではないわ」
「ほんとに大丈夫?」
「……ちょっとヒリヒリするだけ」
「するんじゃん」
佳奈子が笑った。
「それより休みましょう。さすがに少し消耗したわ」
「賛成」
近くの岩を佳奈子が指す。
誰も反対しなかった。
◇
四人で壁際に座り、水を飲んだ。
みつみは一気に半分近く飲んでしまい、途中で慌てて止める。
「飲みすぎた」
「いいんじゃない?」
「あとで足りなくなる」
「私のまだあるよ」
佳奈子が自分のボトルを軽く持ち上げる。
「なくなったら少しくらいあげる」
「さっきグミ二個取ったのに?」
「水とグミは別だから」
「どういう基準?」
しばらく座っているうちに、少しずつ息が落ち着いてきた。
みつみは、さっき戦っていた場所を見る。
モンスターはもういない。石と岩だけが残った空間は、さっきまでの騒ぎが嘘のように静かだった。
「マイン、よかったね」
千尋が言った。
「うん」
「最後のウサギ、あれなかったらちょっと面倒だった」
みつみの口元が思わず緩む。
「でしょ?」
「でも最初のゴブリン、一匹普通に外れたけど」
佳奈子が水を飲みながら挟む。
「それはゴブリンが悪い」
「なんで」
「ちゃんとこっち来てよ」
「敵に注文つけないで」
みつみは笑ってから、右側に並ぶ岩へ目を向けた。
最初は、ただ置いた。
ゴブリンには避けられた。
最後は岩の間に置き、そこへ千尋がホーンラビットを連れていった。
「置く場所、大事なんだね」
「たぶんね」
千尋が頷く。
「さっきみたいに道が狭いところなら使いやすそう」
「広いところなら?」
「考える」
「考えるんだ」
「考えるのが面白いんじゃん」
佳奈子が笑った。
「もう完全にハマってるじゃん」
「だって分かったじゃん。さっきより」
「一回の戦闘で全部分かった顔しないでよ」
「全部とは言ってない」
志帆は二人の会話を聞きながら、自分の肘をもう一度確かめていた。
千尋がそちらを見る。
「さっき、ごめん。押してくれて助かった」
「あれは千尋が避けるの遅かったから」
「うん」
「責めてはいないわ」
少し間を置き、志帆が顎を上げる。
「仲間を危地から退ける――それもまた、癒やし手に課せられた使命よ。傷を癒やすだけが聖なる務めではないの」
佳奈子が横を見る。
「戻ったね」
「何が?」
「なんでもない」
みつみも笑った。
戦っている最中、志帆の口調からは、いつもの格好よさが完全に消えていた。それが今はもう、いつもの調子に戻っている。
「で、どうする?」
千尋が聞いた。
「進む? 戻る?」
四人が少し黙る。
みつみは自分の身体を確かめた。
疲れてはいる。でも動ける。魔法も、まだ使えると思う。
「私は行ける」
「私も」
佳奈子が脚を伸ばした。
「さっきみたいなのが何回も来るなら嫌だけど、まだ帰るほどじゃない」
志帆が立ち上がり、服についた砂を払う。
「私もまだ、聖杖を置くには早いわね」
「じゃあ、もう少し進もっか」
千尋も立ち上がった。
「ただ、次また同じくらいの戦闘になったら、そのあと一回考えよう」
「了解」
みつみも立ち、リュックを背負い直す。
さっきまでより、少しだけ重く感じた。
それでも、嫌ではない。
今日の目的はクリアだ。
まだゴールは見えていない。
四人は再び歩き出した。
広い場所を抜け、その先の細い通路へ入る。ここからは歩いたことのない道だ。壁の形も、床の傾きも知らない。
少し進んだところで、みつみが振り返った。
「ねえ」
「何?」
「今日、ちゃんと攻略してる感じする」
佳奈子が笑う。
「今さら?」
「だって今までとちょっと違くない?」
「まあ、それは分かる」
前を歩く千尋も振り返った。
「まだ先あるけどね」
「ゴール近いかな」
「知らない」
「どのくらいあると思う?」
「だから知らないって。私もここから先は来たことないんだから」
「あ、そっか」
「忘れてたの?」
「なんとなく千尋なら知ってる気がした」
「何その信頼」
みつみは前を向いた。
通路はその先で曲がっていて、まだ向こうまでは見えない。
でも今日は、そこを曲がった先へ進むために来た。
昨日までアプリの画面で眺めていた新しい魔法も、もう名前だけのものではない。
実際に使ってみた。
当たった。
外れた。
置く場所を変えた。
千尋と合わせれば、速いホーンラビットにも使えた。
みつみは杖を握り直す。
「次来たら、もっと上手く置く」
「来ないほうが楽なんだけど」
佳奈子が言う。
「それはそれ」
「どっちなの」
「戦いたいけど、クリアもしたい」
「欲張り」
「夏休みだからいいじゃん」
「関係ある?」
「ある」
「ないでしょ」
二人の声が通路へ響く。
前を歩いていた千尋が振り返った。
「ちょっと静かに。何かいるかもしれないから」
「はーい」
「はい」
志帆が小さく息を吐く。
「未知なる深層を前に、ずいぶん賑やかな一行ね」
「志帆も喋ってるじゃん」
「私は警句を授けただけよ」
「それがうるさいって言われてるんじゃない?」
「佳奈子」
「はいはい、静かにします」
今度こそ声を落とす。
四人はそのまま、まだ歩いたことのない地元ダンジョンの奥へ進んでいった。




