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第114話 買い物とダンジョン

 休日の美部谷は、ダンジョンへ向かう人と買い物を楽しむ人で賑わっていた。


「志帆先輩、ちょっと見たいものがあるので、付き合ってもらえませんか?」


 そう絵美里に誘われたのは、数日前のことだった。家の用事があるので今週の探索には参加できない、と話したあとでの誘いだったから、志帆は少し意外に思ったのを覚えている。


 今日、二人で見て回ったのはダンジョン用品店と、その近くにある雑貨店だ。絵美里が探していたのは、探索中に小物をまとめておける小さなポーチ。いくつか試してみたものの、まだ決めかねているらしい。


「さっきの、色はよかったんですけどね。留め具のところが、ちょっと頼りなくて」


「気に入ったなら、もう少し探してみてもいいんじゃない? 急いで買うものでもないでしょう」


「そうですね。……先輩、付き合わせちゃってすみません」


「何を言ってるの。私も見たいものがあったし、楽しかったわよ」


 志帆は自分の買い物袋を軽く持ち上げた。中身は装備の手入れに使う小物だけだったが、選び始めるとつい時間がかかってしまった。むしろ待たせたのは自分の方だと思う。


 歩き疲れて入ったカフェは、窓際の席から通りの人波が見えた。冷房が効いた店内で一息つき、二人はそれぞれメニューを開く。


「志帆先輩、バナナ・オレありますよ」


「え?」


「好きですよね。ここ、果物のドリンクが多いみたいです」


 絵美里が指したのは、メニューの端にある黄色い飲み物の写真だった。


「……よく覚えていたわね。今日はそれにしようかしら」


「このくらい覚えてますよ。私はアイスティーにします」


 さらりと返したあと、絵美里はメニューへ視線を戻した。志帆が小さく笑ったことには、どうやら気づいていない。


 飲み物が運ばれてきたところで、志帆はふと思い出した。


「絵美里ちゃん、そういえば紗希ちゃんの防具は結局どうしたの?」


「革で揃えましたね。肩、胸、背中、腕、足。ほぼ全身です。武器はまだレンタルのメイスですけど」


「あの子らしいわね。武器より先に防具を欲しがっていたもの。動きの制約は大丈夫だったのかしら」


「私も一緒に選びましたし、大丈夫だと思います。今日の狩造ダンジョンで慣らしてから、必要なら調整し直すでしょうし。……でも、完全に動きやすいかどうかは、やっぱり使ってみないと分からないですね」


「絵美里ちゃんが一緒に選んだのなら、問題ないでしょうね」


 志帆がストローを持ち直すと、絵美里は不思議そうに顔を上げた。


「どうしてですか?」


「あなたのことを、信頼しているからよ」


 特別に強調したつもりはなかった。志帆にとっては、聞かれたことにそのまま答えただけだ。


 けれど絵美里は、持ち上げかけたグラスを途中で止めた。


「……えっ」


「どうかした?」


「い、いえ。そういうふうに言われると思ってなかったので」


 絵美里はグラスを一度テーブルへ戻した。冷えたガラスについた水滴を指先でなぞってから、ようやくアイスティーをひと口飲む。耳が少し赤くなっている。


 志帆はその顔を見て、ほんの少し首を傾げた。


「でも本当よ。いつも、周りをよく見てくれているでしょう。紗希ちゃんのことだって、本人がどう戦いたいか考えたうえで一緒に選んだんだもの」


「……ありがとうございます」


 絵美里は視線を下げたまま答え、もう一度グラスに口をつけた。どういうわけか、飲む前に氷をストローで二度ほどつついていた。


「それに、今日の一年生二人も安心でしょうね。みつみも千尋も佳奈子も一緒なんだから」


「そ、そうですね。三人とも一緒ですし、紗希もいるから……安心ですね」


 少し急いだ返事になったのを自覚したのか、絵美里は咳払いをした。


「ただ、みつみ先輩の寄り道に、二人がどこまでついていけるかは分かりませんけど」


「それは私も心配してるの。面白そうな水路を見つけたら、ゴールと反対でも平気で行きそうでしょう?」


「あはは。全くです。千尋先輩が一緒なので、大丈夫だとは思いますけどね」


「佳奈子もいるものね。あの子なら、疲れたら遠慮なく休もうって言うでしょうし」


 二人で笑い合ううちに、絵美里の頬もいつもの色に戻っていた。


 志帆はストローを回し、窓の外に目をやった。休日の通りを、ダンジョン用のバッグを背負った二人組が歩いていく。


「たまたまなのでしょうけど、一、二年生で組むパーティーって、バランスが取れてるわね」


「そうですね……」


 絵美里の返事が少し遅れた。


「どうしたの?」


「どうもしないです。バランスはいいんですけど、遠距離の火力がゼロなのは気になりますね。私も紗希も近接ですし、瑞穂とララは支援と回復でしょう。飛んでる相手が遠くにいたら、待つしかない場面もありそうです」


「それなら、ララにショートボウとか勧めてみたら?」


「そうですね。……でも、瑞穂じゃなくてララに?」


「ヒーラー専任って、いざというとき以外、手持ち無沙汰になるのよ。もちろんララの好き嫌いもあるけれど、弓に興味があるなら悪くないと思うわ」


「なるほどですね。帰ってきたら本人にも聞いてみようかな」


 絵美里はスマートフォンを出し、メモへ短く書き込んだ。画面を伏せると、志帆の前のグラスを見て笑う。


「どうですか、バナナ・オレ」


「おいしいわ。絵美里ちゃんのおかげで、頼みそびれずに済んだわね」


「大げさですよ。メニューにちゃんと載ってたじゃないですか」


「でも、教えてくれなかったら見落としていたかもしれないでしょう?」


 また、何でもない調子だった。


 絵美里は返事の代わりに、アイスティーのストローを持ち直す。視線が合うと、志帆の方はいつもどおり柔らかく笑った。


「また付き合ってもらってもいいですか。今度こそ、さっきのポーチを決めたいので」


「ええ、もちろん。今日の続きね」


 志帆が答えると、絵美里はようやく笑った。窓の外では誰かが笑いながら駆けていき、カフェの扉が開いて、また閉まる。二人は飲み物を飲み終えるまで、帰りにもう一軒寄るかどうかを話していた。


     ◇


「うわ、ほんとに水ばっかり!」


 同じ頃、狩造ダンジョンに入った六人の前には、浅瀬と葦原がどこまでも続いていた。


 地面だと思って足を置いた場所が浅い水路だったり、細い流れの向こうに乾いた中洲が見えたりする。遠くには、半分ほど水に沈んだ石造物があった。開けた景色のわりに、行きたい方向へ一直線に進める場所ではない。


 蘭々は少し背伸びをして、遠くの石造物へ目を凝らした。


「洞窟と全然違う! 空があるのにダンジョンって、なんか変な感じですね。あ、あっち写真撮りたい!」


「いいよ。でも先に、足元だけ見ようか。そこ、思ったより深いから」


 千尋が靴先で水際を示すと、蘭々は慌てて半歩下がった。瑞穂はその様子を笑いながらも、二人の足元へ目を向けている。


「私も、写真撮りたい。でも先にあの中洲まで行ってみたいな。あそこなら、周りもよく見えそうです」


「お、いいね。あっちからなら、別の道も探せそう」


 千尋が頷く。すぐ答えを示す代わりに、瑞穂が指した中洲へ目を向けた。


「じゃあ、そこまでどうやって行く? 選べそうな道、二つはあるよね」


 瑞穂が考えている間、紗希は少し先へ出て、倒木に足を載せた。新品の革製防具は肩から脚までほとんど全身を覆っている。レンタルのメイスは今までどおりだが、全体の印象は以前よりずっと重装備に見えた。


「こっちの倒木、渡れそう。ちょっと先に見てくるから、二人はここで待ってて」


「はーい。……あ、瑞穂、紗希先輩めっちゃ冒険者っぽい」


「本人に聞こえてるからね」


 紗希は振り向かずに答え、倒木を軽く踏んで確かめる。それから向こう側へ渡り、振り返って手を振った。


「ここなら平気! ただ、右端は滑る。真ん中踏んで来な」


「ありがとうございます!」


 瑞穂が先に渡ると、紗希は向こう岸から一歩近づいて、必要なら手を貸せる位置に立った。瑞穂は自分の足で渡りきり、短く息を吐く。


「よし、次、私!」


 蘭々は勢いよく踏み出したが、すぐ紗希に「走るなよ!」と声をかけられて歩幅を小さくした。


「分かってますって。ちょっと気合いが先に行っただけです!」


「気合いだけ先に渡ってどうすんの」


 佳奈子が笑うと、蘭々も笑い返した。みつみは二人が渡り終えるのを待ちながら、横の浅瀬を指さす。


「ここ、歩いて行くこともできるんだよね。前に来たとき、同じ場所に行くのにみんな違う道を通ったの」


「えっ、わざわざ濡れたんですか?」


「そう! やってみたくて。……でも今日は、二人があっちを選んだから私も倒木にする」


「珍しいね。みつみが目の前の水を見送るなんて」


 千尋に言われ、みつみは「いつでも入れるし!」と返した。そのまま蘭々の後ろへ続き、六人は中洲へ集まった。


 瑞穂が振り返ると、さっきまでいた岸が思ったより遠い。自分で選んだ道で来られたのが嬉しくて、足元を一度確かめてから、もう少し先の地形を眺めた。


「こういうところって、先輩たち、いつも誰が道を決めるんですか?」


「いつも同じじゃないかな。行ってみたい人が言って、ほかの人もいいと思ったら行く感じ」


 佳奈子は水路を覗き込みながら答えた。


「もちろん、危なそうならやめるし、私が疲れてたら休むって言うし。でも今日みたいに、瑞穂ちゃんが行きたい場所を言ってくれるの、いいと思うよ。私たちだけだと、いつもと同じところ見て終わることもあるから」


「そう言われると、また探したくなりますね」


「うん、探して。面白いとこ見つけたら教えてよ」


 佳奈子は気軽にそう言った。自分が初めてダンジョンに来た頃、知らない場所では誰かの後ろを歩くだけでも精一杯だった。瑞穂たちはまだ慣れていないが、だからこそ、自分たちでは選ばない道を見つけるかもしれない。


 葦原に沿ってしばらく進むと、足元の泥に丸い跡がいくつも見つかった。水際には細かな波が立っている。千尋が先へ目を向けたとき、瑞穂は自分から《ホークアイ》を使った。


 視界そのものが広がるわけではない。見えている葦の揺れや足場、仲間の位置が、さっきより整理しやすくなる。左側の水際で、大きな緑色の背中が葦の隙間から現れた。


「左! カエルみたいなのがいます。紗希先輩、そっちに跳びそう!」


 言い終わるより少し早く、リードフロッグが浅瀬を蹴った。紗希は瑞穂の声に反応して身体を開き、メイスを構える。水しぶきを上げて飛び込んできた相手へ、一歩踏み込んだ。


「《ブレイク》!」


 横から受けた打撃でカエルの体勢が大きく崩れる。紗希がそのまま追い打ちしようとしたところへ、もう一匹が水面から頭を出した。


「二匹目、少し後ろ!」


 千尋が声を上げると、みつみは後衛との間隔を見て杖を向けた。


「《マジックボール》!」


 光の塊が二匹目の胴へ当たり、水しぶきが跳ねる。相手が向きを変えたところで、千尋が横へ回り込んだ。短い剣の一撃に続いて佳奈子の矢が入り、二匹目の姿が消える。


 一匹目も紗希のメイスを受けて崩れ落ちた。静かになった水辺で、蘭々がぱちぱちと手を叩く。


「すごっ! いまの瑞穂、ちゃんと先に見つけたじゃん!」


「見えてから言っただけだよ。危うく間に合わないかと思った」


「でも声が出たのがよかった。ちゃんと聞こえたよ」


 紗希はメイスを下ろして瑞穂へ笑いかけると、足元の水を軽く蹴ってこちらへ戻ってきた。


「先輩たちが先に気づくこともあるだろうけど、見えたなら遠慮なく言って。今日みたいなの、めっちゃ助かるから」


「はい!」


 瑞穂は嬉しそうに頷いた。佳奈子は使い終えた弓を下ろし、さっき二匹目が出てきた水辺を指さす。


「ああいうの、見つけたら私にも教えてね。私、撃つ場所が分かってたら楽だから」


「分かりました。頑張って見ます」


「頑張りすぎて足元見なくなるのはなしだよ。私たちも見てるから」


 千尋が笑って付け足す。瑞穂は自分の靴を見下ろしてから「それもそうですね」と笑った。


     ◇


 昼過ぎ、六人は少し高くなった乾いた場所で休憩することにした。


 水の向こうには、古い石造物の上半分が見えている。風が吹くと葦の穂が一斉に傾き、周囲を満たす水面が細かく光った。紗希が荷物を下ろして腰を伸ばすと、佳奈子が隣へ座る。


「紗希ちゃん、新しい防具はどう?」


「いい感じですよ。……ただ、骨橋や蔵安と違って、ここは飛んだり跳ねたりするんで。やっぱ少し邪魔に感じますね。帰ったら調整してもらわないと」


「さすがに買ったままで全部ぴったりとはいかないか」


「そうですね。でも攻撃するときの安心感は、前よりあります。ちょっと当たるのが怖くなくなりましたし」


「怖くないのと、当たりに行くのは別だからね」


 佳奈子が言うと、紗希は声を出して笑った。


「それ、絵美里にも言われました。分かってますって」


 みつみは菓子の袋を開きながら、紗希の防具を眺めた。


「でも格好いいよね。あの写真で見たときより、着てる方がずっといい。ロボットの腕っぽいとこも!」


「先輩、その話まだ覚えてたんですか」


「覚えてるよ! 紗希ちゃんも思ってたって言ってたじゃん」


「言いましたけど。……まあ、そこは気に入ってます」


 紗希は肩の革を軽く叩いた。その横で蘭々が水筒を取り出し、「お菓子持ってきました!」と宣言する。


「今日は六人分あるつもりで買ってきたんです。なのに、出発前に自分で二つ食べちゃって。なので一人一個ずつということで!」


「六人分なら、六個残ってないと駄目じゃない?」


「そうなんですよ。いま自分でもそう思いました!」


 あっけらかんとした返事に、千尋が吹き出す。蘭々は袋の中身を確かめてから、「じゃあ私はなしで!」と自分から言い、紗希が「ちゃんと食べなよ」と半分を差し出した。


「え、いいんですか。紗希先輩、優しい! 今日のMVPです!」


「さっき瑞穂がMVPじゃなかったの?」


「MVPはいっぱいいていいんです!」


 瑞穂も笑いながら包みを開ける。佳奈子はもう一つ持っていた菓子を出して蘭々へ渡し、「次は数えてから食べなね」と言った。


 休憩のあとは、石造物の方へ行くことになった。今度は瑞穂が見つけた浅瀬を通る。水に入るのを少しためらっていた蘭々も、紗希が先に歩き始めると、靴を濡らしながらついていった。


「紗希先輩、私、今日のうちに水の中を歩くのにも慣れたいです。さっきまでちょっと避けてたので」


「いいじゃん。無理に深い方へ行く必要はないけど、やってみたいなら付き合うよ。……ほら、ここの石は滑るから気をつけて」


「はい! ……うわ、足の裏に変な感触!」


「だから言ったじゃん!」


 紗希が笑う。その少し後ろで、みつみは千尋と顔を見合わせた。


「ねえ、なんかさ。紗希ちゃん、すごい先輩っぽいね」


「もともと面倒見いいんだと思うよ。自分が先にやってみるタイプだし」


「千尋も最初、私にああやって教えてくれたよね」


「私はそんなに丁寧じゃなかったって。みつみ、勝手にあっちこっち見に行くから、後ろから呼んでた気がする」


「えー、でも楽しかったよ。……いま、ちょっと分かったかも。あのときの千尋が、なんであんなに何度も振り返ってくれたのか」


 みつみは前を歩く二人を見る。蘭々がもう一度足を滑らせかけると、紗希が反射的に手を出し、今度はちゃんと渡りきれた。


「ほら、行こう。二人だけ置いてくよ」


 千尋に促され、みつみも歩き始めた。自分が連れてきてもらった場所へ、今度は誰かを連れてくる。それが思っていたより面白いことに、みつみは気づき始めていた。


 やがて葦の向こうから、細い水音とは違う、ぱしゃりという鋭い音がした。後ろを歩いていた蘭々が振り返る。


 水面から、小さなリバーフィッシュが勢いよく跳び上がった。身体をくねらせ、そのまま蘭々の方へ飛んでくる。


「うわっ、こっち来た!」


 蘭々は驚いて一歩下がったが、背を向けて逃げはしなかった。手にしていたレンタルのメイスを両手で握り直し、跳ねる魚へ向けて振る。


「えいっ!」


 最初の一撃はかすめただけだった。魚が水際へ落ちた瞬間、蘭々はすぐ追いかけてもう一度メイスを振った。今度は正面から当たり、魚の身体が淡い光になって消えた。


「……やった! 私、今やったよね!」


 蘭々は自分でも驚いたらしく、しばらくメイスを構えたままだった。千尋が後ろの水路を確かめ、もう危険がないことを見てから笑う。


「うん、ちゃんと倒した。ただ、追いかけるとき足元には気をつけてね。あそこ、一歩横だと深いから」


「あっ……ほんとだ。危なっ。でも、次はもうちょっと落ち着いてやります!」


「いいね。ヒーラーでも、近づいてきた相手を自分で追い払えると助かるよ」


 佳奈子が言うと、蘭々は嬉しそうに顔を上げた。


「私、回復だけしてるのも好きですけど、何もしないで見てるのはちょっともったいないです。できるときは私もやりたい!」


「じゃあ、次は私が後ろにいるときも頼むね」


「任せてください! ……あ、怪我したらちゃんと《ヒール》もしますから!」


「それは怪我しない方がいいかなあ」


 みつみが笑い、六人の間にまた明るい声が広がった。


 しばらく進むうち、瑞穂が先の石造物の脇へ続く、乾いた道を見つけた。今度は誰に聞かれるより先に「こっち、通れそうです」と手を上げる。千尋が地形を確かめ、佳奈子が「じゃあ次はそっち」と応じた。


 紗希は蘭々の歩く速さに合わせて先へ出たり戻ったりしていたが、瑞穂が指した道を見ると「いいじゃん、そこ」と明るく声をかけた。


 みつみはその光景を眺めながら、少し笑った。


「なんか、今日って面白いね」


「水辺が?」


 千尋の問いに、みつみは首を横に振る。


「それもあるけど、六人で来たこと。私たちが知らないこと教えてもらう日もあれば、こういう日もあるんだなって」


「うん。私も来てよかった」


 佳奈子は瑞穂と蘭々の背中へ目を向けた。二人とも、まだ見つけたばかりの楽しみ方を試している最中だ。隣で見ているだけでも、自分まで新しい場所へ来たような気分になる。


「みつみ先輩! ここ、すっごく景色いいです!」


 石造物のそばから蘭々が手を振った。瑞穂はその横で、次の道へ続く浅瀬をじっと見ている。紗希も足を止めて、こちらへ振り返った。


「先輩たち、こっち来てくださいよ。まだまだ先、見られそうです!」


「はーい、今行く!」


 みつみが返事をして歩幅を速めると、千尋と佳奈子も笑いながら続いた。水の匂いを含んだ風が葦原を渡り、六人の足音に浅い水音が重なる。


 このあと六人は、たくさんの寄り道をしながらも、結局はゴールまで到達し、狩造ダンジョンを後にしたのであった。


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