第111話 『入部』したと思ったら部じゃなかった。何を言ってるか分からねーと思うが
休み明けの放課後、ダン活部の部室では、紗希がスマートフォンを持ったまま笑っていた。
「え、これ骨橋の水辺? 私が行ったとき、こんな写真撮らなかったんだけど」
「紗希、あの日はモンスターの方ばっかり見てたからね」
絵美里が隣から画面を覗き込む。映っているのは、蘭々が送ってくれた写真だった。岩肌を伝う水と、その前に並んだ五人。タイマーで撮ったせいか、みつみだけが少し前屈みになっている。
「これさ、みつみ先輩だけ今から走り出しそうじゃないっすか?」
「そんなことないよ。ちゃんと止まってたもん!」
「止まってたのは確かですけど、カメラの方へ来るのがちょっと遅かったんですよね」
絵美里の説明に、千尋が顔を上げた。
「それでその姿勢なんだ。写真見て、何してるのかと思った」
「タイマーが思ったより早かったんだって!」
みつみは自分のスマートフォンで同じ写真を開き、指で拡大した。すると、蘭々が「あ、それ」と声を上げる。
「私、これが一番好きです。水がちゃんと写ってるし、みんな笑ってるので」
「私も。このときは写真撮るのに夢中だったけど、あとで見たら、こんなに広かったんだなって思いました」
瑞穂は画面を覗いてから、鞄の中を探った。取り出したのは骨橋の初回クリアでもらった記念メダルで、紗希がそれを見つけてすぐ自分の鞄へ手を伸ばす。
「お、持ってきたんだ。ちょっと待って、私のも……あった!」
机の上へ並べられた二枚のメダルを見て、佳奈子が椅子を寄せた。
「並べると、なんかいいね。二人とも初めて行ったところが同じだし」
「私のはだいぶ前のですけどね。……って、そうでもないか。まだそんなに経ってないわ」
紗希はメダルを指先で転がした。自分も初めて骨橋に行ったときは、帰ってから何度も眺めていた。今では普段使う鞄のポケットに入れっぱなしだが、取り出してみると妙に懐かしい。
「骨橋、クリアしたんだよね。どうだった?」
千尋が聞くと、蘭々はメダルより先に瑞穂の顔を見た。
「どうだったって言われると、何から話したらいいんだろ。いっぱいあったよね」
「うん。私は、あの盾の音がまだ耳に残ってる。スライムが当たったときもびっくりしたけど、ゴブリンの方は本当にすごかった」
「エミリンの盾?」
「はい。音だけ聞くと、何か壊れたのかと思うくらいで。絵美里先輩は平気そうにしてたんですけど、あれを目の前で見たら……すごいなって」
瑞穂は机の縁を軽く叩き、あのときの音を思い出そうとした。しかし指先で鳴る小さな音は、洞窟で響いた一撃とはまるで違う。
「それに、絵美里先輩が前に出たら、私たちは後ろにいられるんですよね。当たり前みたいに見てましたけど、あとから考えたら、あれがなかったら落ち着いて見られなかったなって」
「自分も最初は後ろで見てました。スライムならちょっとやってみてもよかったかなって、帰ってから思いましたけど」
蘭々はそこで一度口を閉じた。
「でも、あのゴブリンは無理かな。さっきの話聞いてたら、また盾の音思い出しちゃった」
「最初からゴブリン相手に無理することないって。私だって、最初はスライム相手に必死だったし」
紗希が言うと、絵美里が横から笑った。
「必死だったわりに、倒したあとすごい喜んでたよね」
「そりゃ嬉しいでしょ。初めて自分で倒せたんだから。……あのときのメイス、最初は重いなって思ってたのに、帰るころにはもう一回振りたいって思ってたし」
千尋はメダルを片方持ち上げて眺め、そっと机へ戻した。
「骨橋って、慣れちゃうと普通に歩いて終わることもあるけど、初めてだと見るところいっぱいあるんだよね。私も最初のころ、分かれ道で何回も迷ってたし」
「千尋も?」
みつみが聞き返す。
「そりゃ迷うよ。最初から全部知ってるわけじゃないし。あの水辺なんか、一人でお茶飲んで帰ったこともある」
「えっ、一人で?」
今度は蘭々が身を乗り出した。千尋は驚かれた理由が分からないように首を傾げる。
「うん。あそこで休んで、帰りにラーメン食べて帰った。……あれ、そういえば、それをみつみに話したのが最初だったかも」
「あー! 覚えてる! 千尋がダンジョン行ってるって聞いて、めっちゃびっくりしたんだよ!」
「昨日まで一緒に教室で喋ってた子が、急に剣持って洞窟歩いてるって言い出したからね」
佳奈子が笑いながら言うと、みつみは頷きかけ、途中で顔を上げた。
「待って。佳奈子、そのときまだ一緒に行ってなかったじゃん!」
「あとで何回も聞いたもん。みつみが何回も話すから、そこにいた気になってた」
「そんな何回も話したっけ?」
「話してたよ。宝箱あるんだよ、って」
千尋まで真似を始めたので、みつみは少しむくれたが、すぐに笑ってしまった。
瑞穂はそのやり取りを聞きながら、机に置いたメダルを指で寄せた。この前までは、ダンジョンに行ったことがある人たちの話を聞いているだけだった。今は、その中の一つなら自分も知っている。しかも同じ場所で、違うものを見てきたらしい。
◇
「私はさ、写真だと普通の水だったのが一番びっくりしたかも」
蘭々がそう言い出したのは、佳奈子が机の端で菓子の袋を開けたころだった。
「水?」
「はい。あの水辺です。洞窟の中に本当に水が流れてて、音もするし、近づくと冷たそうで。そんなの当たり前なんですけど、なんか不思議だったんですよね。あそこでお菓子食べてるときも、外で遊んでるのとあんまり変わらない感じがして」
「分かる! 私もダンジョンの中でお菓子食べるの、好きなんだよね」
佳奈子が顔を上げると、みつみは隣から「今日は何持ってきたの?」と袋を覗き込んだ。
「学校で食べるやつ。普通のグミだよ」
「ちょうだい」
「はい。……蘭々ちゃんもいる?」
「いただきます。あ、これ好きです」
蘭々が受け取ると、佳奈子は袋を机の真ん中へ置いた。話を聞く人も食べる人もいて、机の上にはメダルとスマートフォンと、紗希がさっきから見ている防具の画像まで並んでいる。
「水のところ、私もよかったな。あの場所だけ、ずっと座ってられそうでした。……でも、分かれ道はちょっと怖かったです」
瑞穂が思い出したように続ける。
「歩いてると、さっき通った道が見えなくなるんですよね。右に曲がったのに、後ろを見るともうどっちから来たのか分からなくて。先輩たちは慣れてるから平気なんだと思いますけど、私は一人だったら絶対迷ってたと思う」
「骨橋なら慣れてるけど、知らないダンジョンだと私も迷うよ。そういうときは道を確認しながら進むし、迷いそうなら無理に奥まで行かない」
千尋の返事を聞いて、瑞穂は頷いた。
「やっぱり、よく見ておかないと駄目なんですね。私はずっと足元ばっかり気にしてたから、顔を上げたときには今どこなのか分からなくなってて。次はもう少し、周りも見ながら歩いてみたいです」
「そのうち慣れると思うよ。私も最初、上ばっかり見て志帆に注意されてたし」
「今回も注意しましたけどね」
志帆が何気なく言うと、部室の何人かが同時に笑った。
「だって、天井高いところあったじゃん! 瑞穂ちゃんも見てたでしょ?」
「見ました。……私も、足元見てって言われました」
「ほら!」
「みつみ、それは同じ失敗をしただけじゃない?」
千尋に言われ、みつみは「そうかな」と首を傾げた。
絵美里はその間に紗希の画面を覗き込み、肩の部分を指した。紗希が探している防具は、前に見ていたものとは別の候補らしい。
「この形なら動けそうだけど、やっぱり試着した方がいいと思う。紗希、腕を大きく振るんだから」
「うん。これ試着できる店、今探してる。……でもさ、ここがもうちょい厚ければよくない?」
「厚ければいいってもんじゃないよ。重さもあるし。実際に動いてから決めなよ」
「分かってるって。だから試しに行くんじゃん」
二人が同じ画面を見ているところへ、瑞穂がそっと近づく。
「これ、紗希先輩が買うんですか?」
「買うつもり。でも、まだ候補。私さ、戦うときにもう一歩踏み込みたくて、防具の方を先にちゃんとしたいんだよね。そうすると、今の装備じゃちょっと心配で」
「武器じゃなくて、防具なんですね」
「そう。武器も欲しいけど、それは次。どっちも買うお金はないからさ」
紗希は画面を閉じず、もう一度袖の形を拡大した。瑞穂はその横に立って眺めたあと、絵美里の方を見る。
「そういえば、絵美里先輩は盾を持ってるから、防具はあんまり気にしないんですか?」
「そんなことないよ。盾だけで全部防げるわけじゃないし、動きやすさも大事。私もいろいろ見てるよ」
「いろいろ、ね」
紗希が笑った。
「こいつ、盾の写真だけでもめっちゃ見てるから。さっき私に言ってたこと、そのまま自分にも言えるよね」
「私のは買い替えたいってわけじゃなくて、見比べてるだけ。……まあ、気になるものはあるけど」
「あるじゃん」
瑞穂は二人のやり取りを聞きながら笑った。装備の写真を見ているだけなのに、土曜日の洞窟で聞いた盾の音がまた少しだけ耳に戻ってくる。
◇
「そうだ。学校の活動団体の一覧、見た?」
少し離れた席で、佳奈子がスマートフォンを眺めながら言った。
「新入生向けに出てるやつ? 私、ちゃんとは見てないかも」
みつみが隣へ寄る。佳奈子は画面を指で送って、ダン活部の名前があるところを見せた。
「これ。ダン活のところも載ってるんだね」
蘭々も興味を持って覗き込み、表示された文字を読んで、二度見した。
「……ダン活部、区分は同好会? えっ、ダン活部って、部じゃなくて同好会だったんですか!?」
驚いた声に、机の反対側にいた千尋が顔を上げた。
「そうだよ。普段はダン活部って呼んでるけどね」
「ええっ。私、完全に部活だと思ってました。部室もあるし、ちゃんと活動してるし」
「同好会だって、ちゃんと活動するよ。部室も使わせてもらってるし」
絵美里が口を挟むと、蘭々は少し考えてから尋ねた。
「じゃあ、誰が同好会にしたんですか?」
「私。最初は先輩たちが四人でダンジョンに行ってただけだったから、学校でも活動できるように申請したんだよ。あの頃は、部室があると予定を合わせるのも便利かなって思って」
「便利どころか、ここでずっと喋ってるもんね」
千尋が笑い、絵美里も「そうですね」と頷いた。
「ねえ、だったら名前はダン活同好会にしないの?」
瑞穂が聞くと、みつみは少し首を傾げる。
「なんか、ダン活部の方が言いやすいじゃん。ずっとそう呼んでたし」
「同好会より短いしね」
佳奈子が言うと、蘭々は改めて画面を見た。
「そっか。区分は同好会なんだ。……部じゃないのに部室って呼ぶんですね」
「そこは部室でいいんじゃない? 同好会室って言われても、ちょっと長いし」
千尋の返事に、蘭々は「確かに」と笑った。
画面にはほかの団体名もずらりと並んでいる。瑞穂はその中を少し眺めてから、スマートフォンを佳奈子へ返した。名前は確かにダン活部なのに、区分は同好会。いま自分たちが座っている場所のことなのだと思うと、少しおかしかった。
隣では、みつみがまだ「同好会室はなんか違う」と呟いている。志帆はその言葉を聞いて笑いながら、机の端に置いていた大学の案内冊子を鞄へ戻した。
「志帆、それ、また違うところの?」
千尋が気づいて尋ねる。
「ええ。気になっていた学部の資料。前に見たところと比べてみようと思って、持ってきたの」
「すごいね。私、そういうのまだ全然調べてない」
瑞穂が言うと、志帆は首を横へ振った。
「三年生になったから、さすがにね。調べれば調べるほど分からないことも増えるのだけれど……あ、これ、資料だけで鞄が重くなるのが困るわ」
「分かる。私も体育大の案内いろいろ見てたら、どれが何だか分かんなくなってきた。あとで整理しなきゃ」
千尋はスマートフォンに保存している資料を見せようとして、途中で通知を消した。みつみはその横から画面を覗き、急に思い出したように鞄を開く。
「私も調理師の専門学校の資料、家に置きっぱなし。あれ、提出するやつじゃないからいいけど、もうちょっとちゃんと見なきゃなあ」
「この前も似たこと言ってなかった?」
佳奈子は菓子の袋を畳みながら笑った。
「言った。今度は見る!」
「その前に、どこに置いたか覚えてる?」
「たぶん机の上!」
「たぶんね」
みつみが笑って鞄を閉じると、佳奈子は自分のスマートフォンへ目を戻した。
「私も文系の大学、通学時間とか見てるんだけどさ。乗り換えが多いと、それだけでちょっと面倒になるよね。学校の中身だけ見て決めればいいって話でもないし」
「毎日行く場所だものね」
志帆はそう答えたが、すぐに蘭々が開いている写真へ視線を移した。そこにはまだ骨橋の水辺が映っていた。
「そういえば、あのとき撮った写真、もう全員に送った?」
「はい。あ、千尋先輩にはまだかもしれません。今送りますね」
話はそこで自然に切り替わった。千尋のスマートフォンが鳴り、みつみもまた写真を覗き込む。進路の資料もダンジョンの写真も、同じ机の上で開いたり閉じたりされていた。
◇
部室に来てから一時間ほど経ったころ、蘭々が写真を見返しながら口を開いた。
「次は、もうちょっと自分でも何かしてみたいです。見るだけでもすごく楽しかったんですけど、何かあったら先輩たちに全部お任せになっちゃうのかなって、ちょっと思って」
「私も。メイスは借りたけど、結局持って歩いただけでした。でも、だからって前に出て戦えるかって言われると、まだ自信ないし……ほかにできることってあるのかな」
瑞穂はそう言って、テーブルの端に置いたメダルへ目を向けた。
「私は、今度はもっと周りを見たいです。分かれ道とか、どこからモンスターが来るかとか。先輩たちが戦ってたときも、盾と魔法を見てるだけで精いっぱいだったから。何が起きてるか、もう少し分かるようになりたいなって」
「それ、ジョブを選ぶときの参考になるかもね」
千尋が答えると、蘭々は顔を上げた。
「そうだ。ジョブ、まだ何も決めてなかった」
「決めてなかったっていうか、最初は入ってから考えたいって言ってたじゃん。やっぱり行ってみると、気になること変わるでしょ?」
「はい。私、魔法が気になります。みつみ先輩の魔法もすごかったし、志帆先輩の防護魔法も。攻撃するのだけが魔法じゃないんだなって、実際に見たら分かって……自分なら何をやってみたいんだろうって思いました」
志帆は少し嬉しそうに頷いたが、すぐに説明を始めたりはしなかった。
「気になるなら、いろいろ見てみるといいわ。実際に使えるジョブは候補の中から選ぶことになるけれど、何が好きか考えるのは自由だもの」
「そうですね。まだどんなジョブが自分に出るかも分からないし、もうちょっと調べてみます」
蘭々がスマートフォンを開くと、瑞穂も隣から覗き込んだ。並んでいるジョブ名の一覧を見て、二人は小さく声を上げる。聞いたことのある名前もあるが、どんな活動をするジョブなのか、説明を読まないと分からないものの方が多い。
「これ、考えるだけで結構時間かかりそうだね」
「うん。でも、昨日までだったら何を基準に選ぶかも分からなかったし。今はちょっと見たいところがある」
瑞穂は画面の文字を追いながら、骨橋の分かれ道を思い返していた。そこでは自分が右へ進みたいと言った。何か特別な能力があったわけではないが、興味があって、道を選んだ。それが思ったより楽しかった。
「ねえ、またダンジョン行くなら、どこがいい?」
みつみが椅子を寄せる。蘭々は画面を伏せて少し考えた。
「骨橋ももう一回行きたいですけど、違うところも行ってみたいです。洞窟でも、別の場所だったら違うんですよね?」
「違うよ。近くなら蔵安も初心者向けだし、あそこはボスを倒したらクリアになるんだ」
千尋が答えると、瑞穂は顔を上げた。
「ボスって、普通のモンスターより強いんですよね。私たちでも行って大丈夫ですか?」
「最初から二人だけで行くわけじゃないでしょ。もちろん、安全に進めそうか見ながらになるけど」
絵美里が言い、紗希も横から身を乗り出した。
「蔵安なら私も行きたいな。今度は練習のない日だったら行けるし、あそこなら私もちゃんと戦えそう。……あ、もちろん、無理にボスまで行かなくてもいいけどさ」
「紗希、ボスって聞いて急に元気になったね」
「そりゃ戦えるなら戦いたいじゃん。絵美里だって、盾持ったらいつも楽しそうにしてるくせに」
「楽しいよ。でも、今回は二人もいるし、ちゃんと様子見ながらね」
「分かってるって」
二人が笑い合う横で、志帆は自分の予定を確かめていた。
「私、次の休日なら空いているわ。蔵安なら日帰りで行けるし、二人が行ってみたいなら一緒に行きたい」
「私も空いてる!」
みつみが勢いよく答えてから、スマートフォンの予定を開き、顔をしかめた。
「あっ、違った。家の用事ある日だ。忘れてた……」
「じゃあ、みつみはまた今度ね。私もその日は予定入ってるし」
千尋が続けると、佳奈子も画面を確認して首を振った。
「私もだ。今度は三人にお願いしよっか。瑞穂ちゃんたちも、その組み合わせで大丈夫?」
「はい。お願いします!」
瑞穂が答える。蘭々もすぐ頷いたが、ふと何かを思い出したように絵美里を見た。
「あ、そういえば、二人ともまだジョブ取ってないんですけど。次のダンジョンに行く前に、考えておいた方がいいですよね?」
「うん。候補は施設で見ないと分からないけど、どんなことをしてみたいか考えておくと選びやすいと思うよ。分からないことがあったら、ここでも聞いて」
絵美里が答えると、瑞穂は「それなら、ちょっと調べてきます」とスマートフォンの画面を閉じた。蘭々も隣で頷き、自分の予定表へ蔵安の文字を入力する。
話が一段落すると、紗希はもう一度防具の画像を開き、絵美里を呼んだ。佳奈子は帰りに寄る店の話を千尋に始め、みつみは誰かが忘れたままのメダルを見つけて持ち上げる。
「これ、忘れてるよ!」
「あ、私のです!」
瑞穂が手を伸ばして受け取る。その隣で蘭々は、予定表に入力した次のダンジョンの名前を見直していた。
骨橋へ行く前は、当日何が起きるのか分からなくて、案内の写真ばかり見ていた。今は写真だけではなく、盾の音も、足元の石の感触も、寄り道して食べたお菓子の味も覚えている。
次に何を見るかは、まだ分からない。どんなジョブを選ぶかも決まっていない。
ただ、次の予定ができたことだけは、二人とも嬉しかった。
「じゃあ、次は蔵安だね」
蘭々が言うと、瑞穂はメダルを鞄へしまいながら笑った。
「うん。今度はもうちょっと、自分でいろいろ見てみたい」
机の向こうではみつみが「行けないの残念!」とまだ言っていて、その隣で千尋が笑っていた。八人になった部室には、帰るまでまだ少し時間があった。




