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ダブル・キラーズ 〜彼女も殺し屋でした〜  作者: 西東惟助
第一部 暗殺横奪事件

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02 第一話 朝の電話

どうもこんにちは。

第1話です。

どうぞよろしくお願いします。

 夢見は良くなかった気がした。体がこわばっている。どんな夢を見ていたかは覚えていないが、覚えていなくていい類の夢だっただろう。


 セットしていたスマートフォンのアラームが鳴るよりも早く、将気(まさき)は目覚めた。


  六月。時刻は五時二十分。

  将気は少しの眠気を感じながらベッドを降りると、立ち上がり軽く全身を伸ばす。さっさと部屋を出るとすぐにリビングへ。1LDKのこの部屋は一人で暮らすには広く感じることもあったが、今ではちょうどいい。

 洗面、朝食、歯磨き、着替えなど、いつもの朝の時間。いつもと違うところはない。


 違うとすれば、起きた時の姿勢や気分だとか、その日の天気だとか、自分の意思ではどうしようもないことだけだろう。


 制服に着替える。グレーのブレザー。


 一連の身支度を終えると、いつも家を出る時間まで三十分くらいの余裕ができる。その間はテレビを点けて、ニュースを眺める。この局は全国ニュースとローカルニュースをごちゃまぜで放映する番組を流している。

 

「野生の猪が市街地に三頭出没し、混乱が……」

「この校舎では夜の間に建物の一部が破壊される現象はすでに数回起こっており……」

「連続絞殺魔と関連があるとみられる遺体が……」

「昨日の落雷によりおよそ 八百世帯が停電し……」

「スマートフォンの地図アプリのナビ機能が逆方向を……」

「海外のニュースです。椅子に頭を挟まれた男性が……」


 毎日、どこかでは何かが起きている。それは、テレビやインターネットを見れば一目瞭然だ。でも、表に出ない何かも必ずあることを将気は知っている。


 その中に、一つだけ気になるものがあった。

 ーー連続絞殺。今日で三件目だったか。電話をしておこうか。

 思い立ち、将気はスマートフォンを取り出し電話をかける。


木打(もくうち)さん」


 数度のコールに出た相手へ将気は呼びかけた。


「……連続絞殺魔の件か?」


 静かだが、力のこもった声で応えたのは、木打という名の男だ。


「気づいていたか。実は昨日も取り逃がしたらしい。横取りでもないらしくてな」

「他に考えられるとすれば……」

「ただのシリアルキラーとは思えない。こちら側、とはいえ我々ではなさそうだ。やり口はあの坊主とは違うからその線はないだろうが」


 たった一人を除外した木打の結論はあまり役に立たないものだった。

 確かに一人法師はそんな性質(たち)じゃない。

 会ったことこそないが、その伝説ともいえる所業を聞いた限りでは、一人法師(ひとりほうし)がそんな細かいことをするはずはないと将気には思えた。


「しらを切っている可能性は?」

「ない。この事件の被害者はたいしたワルじゃない。結婚詐欺師に受け子二人。一人で十分対処できる雑魚。金はもちろん、名を上げるにもおいしくない。つまり、我々の間で横取りするメリットがない」

「リミットが近づいている人間は?」


 そんな情報はないものの確認を含めて将気は訊いた。

 

「いない。新参もな。……要はまだわからんということだ。そこまで気にするな。今言ったようにリミットが近い奴はいない」

「……わかりました。今後の仕事に現れるかもしれませんね」

「それは用事を済ましてからにしてもらいたいな。……せっかく電話をくれたんだ。情報をやろう」


 通話が終わる気配を感じたところに木打は言った。多少の期待が生まれる。


「なにかわかってることが?」

「ああ、少ししか教えてくれなかったが、捜査情報だ。凶器は見つかっていない。そして特定もされていない」

「ヒントなしですね」

「ヒントがない、それがヒント、などと下らんことを言うつもりはないが。もう一つ。遺体は必ず横たえられていたが、首吊りと同じらしい」

「わざわざ吊り上げてから降ろして凶器を回収した……」

「そう。厳密にこれは絞殺とは言わないな。名前をつけるなら縊殺(いさつ)といったところか」

「そんなこと可能ですか? 人間を引っ張り上げて縊死(いし)させるなんて、それに発見は屋外、吊り下げるところなんてどこにも――」


 言いかけて思い当たる。そんな連中はそこかしこにいるのだ。

 

「俺たちみたいな化物には簡単だろ。……こんなところだ。少しの情報はあるが、できることはない。大人しくしてるんだな」


 今度こそ終わりだろう。電話はどちらからともなく切られた。


 情報があったからとはいえ、できることは何もない。朝の支度は済み、やることもない。少し早い気もしたが、学校へ向かうことにした。


 途端に、涙が床に零れた。将気は自身の頬にそっと触れた。濡れている。落涙していた。 

 今朝見た夢を、思い出した。


 浴室。

 赤い壁。


 両親が亡くなったその日の追想はいつも心を(さいな)んだ。忘れて前に進もうとすればするほど、焼き付いて離れなかった。


 復讐(ふくしゅう)はとうに終わったはずなのに。決別できたかに思えた過去は、時折こうして容赦なく針を深く突き立てる。


 濡れた頬を(ぬぐ)う。床の涙は足で拭いた。伸ばされた水滴が、フローリングから徐々に消えていく。


 鏡を見る。大丈夫、目元は腫れていない。目の赤みは少しずつ引く。そう言い聞かせて、扉を開けた。

今回もお読みいただきありがとうございます。

感想をいただけると励みになりますのでよろしくお願いします。

次回、昼休み、将気は想い人を見かける。

「03 第二話 天見美夜」

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