03 第二話 天見美夜
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第2話です。
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午前の授業は何とはなしに終わった。
入学して四半期。高校生活にはもう慣れてしまっている。
将気は廊下を一人歩き、昼食のため学食へ向かっていた。
「まーさーき、俺を置いていくなんてひどいんじゃないの」
言いながら駆けてきた男子生徒は黒石学。将気のクラスメイトで友人だ。
髪を軽く撫でつけながら、少し怪しげな笑みを浮かべている。いかにも運動系らしい軽さと、人懐っこさのある男だった。
「いいのか? お前は俺と飯なんか食べに行って」
「いいの、いいの。将気ちゃん、顔と性格、どっちも悪くないんだからもうちょっとクラスのみんなと絡めばいいのに」
気づけばこうして飯を食う仲になっていた。
「うるせぇって。まあ、行くかぁ」
軽い調子で話すので学のいうことは真に受けない、というのが将気のスタンスだ。真に受けていては永遠に話が続く。
「クラス一の美少女尾花沢さんいるだろ? お前のことかっこいいとか言ってたぜ。ありゃあ気があるな!」
「へー。つーかそれ、お前が独自に作ったランキングだろ」
長い髪の楚々とした少女だった。大きい目の可愛らしい顔だったことは記憶にある。
「いやいや、ちゃんと方々の意見を参考に――」
「へいへい」
聞く気もない。将気は適当に相槌を打つ。
「反応薄っ。いいよなぁお前は。天見先輩っていう決まった相手がいるから」
「うるせえな、もう」
「でも入学してから一回も話してないんだろ? 大丈夫かよ」
痛いところを将気は突かれた。昔から知っているということはずっと関りがあったことと同義ではない。入学してからどころか、彼女が高校に進学する少し前から言葉を交わしていない。
今ではそれを後悔していた。思春期特有の気恥ずかしさから、将気は美夜を避けていた。彼女といる事がなんとなく気恥ずかしかった時期だった。
「……あいつはそんなんじゃねえよ」
「あははは。長い付き合いだからって、先輩を、あいつ呼ばわりとか笑える。ほんと天見先輩の話になるとあからさまに反応変わるよな」
にやけた顔の学に将気がからかわれるのはいつものことだ。
「それより行こうぜ。お前と話してたんじゃ食べる前に昼休みが終わっちまう」
「へいへい、わかりましたよっと」
そう言いつつも、学は昼休みが終わるまで話をし続けるのはいつもの光景だった。
◇
「見て見て。会長と副会長よ」
「いつ見ても麗しいなぁ」
そんな声が聞こえてきたのは、将気と学が食事を終え、教室へ戻る途中だった。
その先を歩いていた二人が、自然と視線を集めている。
生徒会長の多賀城信は、背筋の伸びた歩き方だけで格が違うとわかる。
隣の天見美夜は、白い肌、背中の半ばくらいまで伸びた髪。派手さはないが、目を引く少女だった。少し威圧的な多賀城の雰囲気を相殺し、不思議な均衡を持っている。
周囲に視線を送る多賀城とは対照的に、美夜の緑がかった茶色の瞳は誰とも目を合わせない。
無関心、ではない。あえて周囲を観察していないように振る舞っているようでもあった。
二人は職員室から生徒会室へ向かう途中なのだろう。短い廊下の中で視線を集めたまま、すぐに人波の向こうへ消えていった。
「おっ、想い人通過か?」
「学、俺もそろそろキレるぞ……」
気づけば、美夜の姿を目で追っていた。事実の指摘に冷静さが消える。
「お前ほんとわかりやすいな。俺は心配してるんだよ、将気」
急に声を落とし、真面目な顔をする学。
「面白がってるの間違いじゃなくてか?」
「それも半分あるけどな」
「あるんかい」
「それはそれとして」
漫才のようなやり取りの後、学の表情は一転、真剣なものになる。いつもこの顔でいれば、今とは段違いにモテるのになと思うが将気は黙っておくことにした。
「あの生徒会長……イケメンすぎないか。欠点という欠点もないし、あんなのが天見先輩の近くにいてお前は焦らねえの?」
「俺は副会長をあいつって呼んだけど、お前は先輩どころか生徒会長をあんなの呼ばわりしてるぞ」
昼食前の会話の意趣返しで切り返したが、将気は内心焦ってもいた。すべてにおいて完璧にみえる生徒会長と自分を比べるとその差は一目瞭然だ。アドバンテージといえば昔からの知り合いということくらいか。認めたくはないがそれしかない。少し気分が沈むのを感じた。
ズボンの右ポケットのスマホが震える。今朝のことを思い出し、嫌な予感がよぎる。すぐに確認しなければならない。そんな気がした。
「学。ちょっと俺トイレ。先に戻ってて」
「おう、俺の分も頼む」
「お前さっき行ったろ」
学が離れたことを確認し、スマホを取り出すとメッセージが入っていた。
<まさき>
体が一瞬硬直する。送信者は、先ほど廊下で見かけた副会長――美夜。
消さずに残しておいた連絡先が、今も生きていたのだ。
<なに?>
<とっと生徒会室にきて>
とっとと、なのか、ちょっと、なのか微妙にわかりにくい間違いを送ってきた。彼女は意外とこういうのが苦手だったと思い出し、微笑ましく思った。
<わかった>
それだけ返事を返した。
昼休みは残り二十分、おそらく授業には間に合うだろう。
「学、わりい。生徒会室に呼ばれたから先に戻ってくれ」
「あいあいー」
またなにかからかわれるかと身構えたが、学の返事は存外あっさりしたものだった。
拍子抜けしている自分がおかしいと将気は思った。これではからかわれるのを期待しているようではないか。
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次回、将気は美夜に呼び出され、一年ぶりに言葉を交わす。
「04 第三話 勇み足」




