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理系で制御オタの俺に彼女ができると思っているのか――GWに連れてくると約束したら、なぜか本物みたいになってきた  作者: 桐原悠真


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第6話 眼鏡を外したら、前提条件が崩れた

 俺は、眼鏡を外した。


 久しぶりだ。

 外で外すのは。


 うるさいって言われ続けて、ここに至る。


 それで――

 大人しい、格好良さげなクールイケメンを目指した。


 ……けど。


 どうやら、違うらしい。


 なんで由衣ちゃんに言われて外してるのかは、正直よくわからない。

 でも。


 由衣ちゃんなら、引かない気がした。


「……」


 一瞬、空気が止まる。


「陸君」

「ん?」


「正直さ」


 少しだけ、間を置いて。


「眼鏡外したら、イケメンじゃない?」


「え?」


 思考が止まった。


 ……いや。

 今、なんて言った?


「え、ちょっと待って」

「そういうこと言う?」


 思わず聞き返す。


 心拍数が、一気に上がる。


 いや、待て。

 今までの前提、全部崩れてないか?


「いや……」


 何か言おうとして、言葉が出てこない。


「……」


 頭の中が、妙に静かだ。


 その代わりに――

 別の何かが、じわっと浮かんでくる。


「いやさ……由衣ちゃん、制御理論吹っ飛ぶぞ」

「そんなに?」


「前提条件が崩れてる」


「でもさ」

 由衣が、あっさり言う。


「青空塾で、女の子にモテてたじゃん?」


「は?」


 また、思考が止まる。


「……知らんぞ」

「結構、格好いいって言われてたよ?」


「まさか……」


 言葉が出てこない。


「中高でモテてないし」

「男子校だったんでしょ?」


 一拍。


「……盲点」


 思わず呟く。


「じゃあさ」

 由衣が、少しだけ首を傾げる。


「男にはあまりモテないんじゃない?」


「ああ……そうかもな」


 自然に頷いてしまう。


「……いや待て」


 一瞬遅れて、気づく。


「それ、何の分析だ?」

「事実だと思うけど?」


「マジか」


 頭の中で、何かが組み替わる。


 今までの前提が――

 全部、怪しくなってきた。


「時間遅れで届くって、どういうことだよ」


 思わず眉をひそめる。


「まさか俺……」


 言葉を探す。


「全然違う目標値、入れてたとかないよな?」


「どうだろうね」

 由衣は、あっさり返す。


「よくわからないけど……」


 少しだけ考えて。


「そうなんじゃない?」


「マジか」


 即答だった。


 一拍。


「……いや、待て」


 頭の中で、何かが引っかかる。


「それだとさ」

「今までの俺、全部ズレてたことになるんだが」


「うん」

 由衣は、軽く頷く。


「でも」


「今は合ってる感じするよ?」


「……」


 その一言で、思考が止まった。


「それ、どういう意味だ」

「そのままの意味だけど」


 くすっと笑う。


「今の陸君の方が、ちゃんと見えてるってこと」


「……マジか」


 小さく呟く。


 頭の中で――

 何かが、ゆっくり組み替わっていく。


「まさか……俺のPID制御、間違ってたってことか?」


「そういうことになるね」


「何か……どこかで失敗してたのでは?」

「かもね」


 あっさり肯定された。


 一拍。


「……モデル、再構築しろってことかよ」


「意味はわからないけど」

 由衣が、少しだけ笑う。


「多分、そういうことだと思う」


「マジか」


 小さく呟く。


「じゃあ俺、今まで何を制御してたんだ」


「うーん……」


 少し考えて。


「ズレてる自分?」


「最悪じゃないか」


 思わず天井を仰ぐ。


「でもさ」


「うん?」


「今の方が、いいと思うよ」


「……え?」


「そのままの方が、わかりやすいし」

「面白いし」


「……マジか」


 頭の中で、何かが崩れて。

 同時に、組み替わっていく。


「もしかして……その理解不能な言葉で、常にしゃべっちゃうの?」


「まあ……そうなるな」


 あっさり答える。


「俺にとっては普通の言葉だし」


 一拍。


「最適解だろ?」


「……そうなんだ」


 由衣が、少しだけ笑う。


「それに――」


 言葉が、自然と続く。


「俺の中では、フーリエ変換でもしたみたいな気分なんだよ」


「フーリエ……?」


「要するに、今までごちゃごちゃしてたものが」

「ちゃんと分解されて、見えるようになった感じ」


「……そうなのね」


 完全にはわかっていない顔で、頷く。


 でも。


「でも、おもしろいからいいわ」


 さらっと言う。


「……いいのか、それで」


「いいよ」


 即答だった。


「わかりやすいし」

「何考えてるか、すぐ出てるし」


「……マジか」


 思わず呟く。


 今まで隠していたものが、そのまま出ているのに。


 それでいいと言われるのは――

 少しだけ、変な感じだ。


 でも。


 悪くない。


「俺、変にしゃべっちゃうんだよ」


 少しだけ視線を逸らす。


「普通に話してるつもりなんだけどさ」

「難しいこと言ってるつもりは、ない」


 一拍。


「なんか……勝手に変換されるんだよ」


「普通の言葉が、別の形になって出てくるっていうか」


「制御オタとか言われるけど、実際はそこまでじゃなくて」


 言葉を探す。


「感覚的には……ラプラスなんだよな」


「ラプラス?」


「うん。ぐちゃぐちゃしてるものを、まとめて扱える感じ」


 少しだけ笑う。


「受験のときに、どっかバグったんだと思う」


「流れ込んだものが、そのまま出てくる」


「……」


「ある意味、おかしいってのはわかってる」


 少しだけ、間を置く。


「でもさ」


「それで“これだ”って思ったんだよ」


 ――その瞬間。


 今までの自分が、少しだけ遠くなった気がした。


 そして。


 今の自分の方が――

 ほんの少しだけ、しっくりきた。

こまで読んでいただきありがとうございます。


今回は「前提が崩れる回」でした。


自分では当たり前だと思っていたことが、

実はズレていた――みたいなことって、意外とありますよね。


陸の場合は少し極端ですが、

「こうあるべき」で固めていた自分が崩れて、

少しだけ楽になる、そんな瞬間を書いてみました。


そして、それをあっさり受け入れる由衣。

この距離感がどう変わっていくのかも、今後の見どころです。


次は、少しだけ“距離が動く”回になります。


引き続き、楽しんでいただけたら嬉しいです。

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