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理系で制御オタの俺に彼女ができると思っているのか――GWに連れてくると約束したら、なぜか本物みたいになってきた  作者: 桐原悠真


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第3話 期間限定なのに、もう少し話したい

 そして――

 今日は、初めての通話。


 由衣ちゃんと、通話だ。


 スマホを持つ手が、少しだけ落ち着かない。

 深呼吸を一つ。


 通話ボタンを押す。


「由衣ちゃん、こんばんは」


「……陸です」


 少しだけ間があって。


「こんばんは、由衣です」


 ちゃんとした名乗り方に、少しだけ力が抜ける。


「電話だと……なんか照れるね」


「うん。ちょっとだけ」


 小さく笑う気配がした。


「声が――男の人って感じ」


「え?」


「格好いい声なんだね」


 ……不意打ちだった。


「あ、あの……」


 話題を変えるように。


「GWの前に、一度デートしない?」


 自分でも少し早い気がしたけど、言っていた。


「いいよ」


 即答だった。


「やった」


 思わず声に出る。


 ……いや、当然だろ。

 彼女役、頼んでるんだし。


 なのに。


 なぜか、普通に嬉しかった。


 電話越しに、由衣が少し笑った気がした。


「なんか……この関係、変な感じだよね」


「まあ、そうだな」


「でも」


「デート、楽しみ」


「俺も」


 自然とそう返していた。


「どこ行く?」


「……そういえばさ」


「デートって、どういうところ行くんだ?」


「え?」


 由衣の声が一瞬止まる。


「いや……俺、だいたいやらかすから」


「やらかす?」


「気づいたら、すぐ終わる」


「……それ、どういう状態?」


「わからん」


「そんなにやばいの?」


「わからん」


「……不安なんだけど」


 小さく笑う声が、少しだけ近く感じた。


「でも……俺が考える」


「大丈夫?」


「う……うん」


 正直、自信はない。


「じゃあさ」


 由衣が、少し考えるように言う。


「デート おすすめ、って検索すればいいと思うよ」


「……その手があったか」


「理系なんでしょ?」


「ああ」


「じゃあ、そういうの得意じゃないの?」


「調べるのはな」


 問題は、その後だ。


「今まで、どういうところ行ってたの?」


「普通に映画」


「うん」


「その後、なぜか語り出して振られた」


「は?」


「作品の構造がどうとか、演出がどうとか」


「……ああ」


「気づいたら、一人で話してた」


「それは……うん」


「あと、本屋行って」


「うん」


「ついでだからと思って、コンデンサ買いに行ったら振られた」


「え?」


「なんか違ったか?」


 少し考える。


「……ズレてるね」


 即答だった。


「やっぱりか」


「うん。だいぶ」


 電話越しに、くすっと笑う声がした。


 ……でも。


 その笑い方は、嫌そうじゃなかった。


「まあ、面白そうだから。考えてきて」


「ああ。わかった。頑張ってみる」


 くすっと、笑う声が聞こえた。


 ……その一瞬で。


 空気が、少しだけ柔らかくなる。


 なんだこれ。


 まるで――


 本当に、好きな子と話してるみたいじゃないか。


 ……いや。

 それ以上かもしれない。


「……」


 電話を、切りたくない。


 そんなことを思っている自分に気づいて。


 少しだけ、息を吐く。


 ……駄目だろ。


 わかってる。


 これは、期間限定だ。


 GWが終われば、終わり。

 契約が終われば、それで終わりだ。


 ただの“役”。

 それ以上でも、それ以下でもない。


 ――なのに。


「……もうちょっと、話す?」


 気づいたら、そんな言葉が出ていた。


「うん」


「もうちょっと話したい」


 その一言で。


 さっきまでの迷いが、少しだけほどけた。


 それから――


 俺たちは、気づけば長い時間話していた。


 何を話したのか、はっきりとは覚えていない。


 ただ。


 どうでもいいことを、どうでもよくないみたいに話して。


 笑って。


 少し黙って。


 また、話して。


 そんな時間が、続いていた。


 気づけば、時計の針がだいぶ進んでいる。


「……そろそろ寝る?」


 名残惜しさを隠すみたいに、そう言った。


「うん」


 少しだけ、間があって。


「おやすみ、陸君」


「おやすみ」


 通話が切れる。


 しばらく、スマホを見たまま動けなかった。


 ……やばいな。


 これ。


 完全に――


 楽しい。


 ……やめたほうがいいやつだ。


 ***


 デート当日。


 俺は――


 困っていた。


 服、どうすればいいんだ。


 完全に、盲点だった。


 デートの場所は考えた。

 プランも、一応それっぽく組んだ。


 でも。


 服。


 ……考えてなかった。


「いや、無理だろ」


 ぼそっと呟く。


 蓮みたいに、最初からイケてるわけじゃない。


 俺は――


 普通だ。


 ……いや、普通か?

 よくわからん。


 とりあえず、クローゼットを開ける。


「……最適解、どれだ」


 一応、考える。


 でも――


 服に最適解って、あるのか?


「……」


 わからん。


 どれを着ても、同じに見える。


 仕方ない。


「これでいいか」


 適当に選ぶ。


 髪。


「……セット?」


 やり方、知らん。


 とりあえず、整えるだけ整える。


「……よし」


 鏡を見る。


 ……悪くは、ない。

 多分。


「オッケーだ」


 小さく頷く。


「……完璧」


 そう言ってみる。


 ……知らんけど。


 ***


 その頃――由衣は。


 鏡の前に立っていた。


「……大丈夫、だよね」


 小さく呟く。


 ちゃんと化粧はした。

 “モテメイク”って検索して、いくつか試して。


 一番、それっぽいのを選んだ。


「派手すぎない方がいいよね……」


 ナチュラル寄り。

 多分、間違ってない。


 服も。


 “デート 服装 女性”で調べて。


 その中から、近いものを選んだ。


「……これで、いいのかな」


 もう一度、鏡を見る。


 ……嫌われないといいな。


 そう思った時点で、

 少しだけ、変だと思った。


 彼女役のはずなのに。


 ……自信は、あまりない。


 でも。


 できるだけ、ちゃんとした。


「……よし」


 小さく頷いて、家を出る。

今回も読んでいただきありがとうございます。


初めての通話回でした。

ただの“役”のはずなのに、少しずつ距離が近くなっていく感じを楽しんでもらえていたら嬉しいです。


この二人、会話は軽いのに、どこかでちゃんと引っかかっているのがポイントだったりします。

本人たちはあまり気づいていませんが……もう少しで色々崩れ始めそうです。


次回はいよいよデート当日。

「やらかす側」と「それを見守る側」がどうなるのか、ぜひ見ていただけたらと思います。


引き続き、応援よろしくお願いします。

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