第15話 彼氏たちの会話だけ、別の世界線だった
春香ちゃんが、少し遠慮がちに声をかけてきた。
「……あの、由衣ちゃんって呼んでいい?」
「いいよ」
「もしかして……そのくまって、あのお菓子の?」
「そうだよ。かわいくて、つい集めちゃってるんだ」
「私もなんだ。一緒だね」
嬉しそうに、ぱっと笑う。
「私も集めてるよ。最後のピンクがなくて」
沙耶ちゃんが言う。
「私は黄色がない」
春香ちゃんが静かに続けた。
「実は私も集めてる。私は緑だよ」
奈央ちゃんが、少し得意そうに言った。
自然と視線が集まる。
そして――私。
「私も、赤がないの」
「みんな、一つ足りないんだね」
「あとちょっとだね」
「かぶり、持ってくればよかったな」
「そうしたら、交換できたのに」
「だね」
小さく笑いが重なる。
「また今度、持ってこようか」
「いいね」
「男は置いて、四人で集まってもいいかも」
春香ちゃんが、少しいたずらっぽく笑った。
「くま交換会」
「それ、絶対楽しい」
「ありすぎる」
「一応、連れてきてもいいけど……」
奈央ちゃんが、少しだけ言いにくそうに続ける。
「なんとなく、みんなに申し訳ない感じがして」
「え?」
「ほら……うちのって、ちょっとズレてない?」
小さく苦笑する。
「もし迷惑かけそうだったら、私がちゃんと止めるから」
「大丈夫だよ」
沙耶ちゃんの一言で、空気がふっとやわらいだ。
自然と笑いが重なる。
「でもさ……陸君って格好いいね」
「……だいぶズレてるけどね」
「そうなの?」
「いや、誠の方がやばいと思う」
「謎言語、発動するし」
「それ、通常運転だよ」
「あの顔で?」
「うん」
「圭介君が少しズレてるのかなって思ってたけど……ここ、全員通常運転なんだね」
「そうみたい」
「あまり大輝は謎ではないけど……チャラいからな」
三人の視線が、自然と同じ方向を向く。
そして――察した。
「ほら……男たち、すごいよ」
春香ちゃんが、小さく呟いた。
***
「アルゴリズム崩壊って感じでさ。いや、マジでカオスだった」
「それ、わかるぞ。入力値が頭おかしい感じだろ?」
「あの制御パラメータ、どこで決めるかだよな?」
「そこ組めたら、俺もう崩壊するわ」
「いや、その前に運動方程式見直せよ」
「それもそうだけど、目標値も確認しろよ」
「そこからヤバかったりするし」
***
――話が止まらない。
***
「意味わかんないね」
「うん。完全に飛ばしてる」
「あれが普通なの?」
私は、静かに頷いた。
それにつられるように、二人も頷く。
「誠が言うには、陸君が一番極めてるって」
「……え?」
「あの顔で?」
「マジで?」
「あの顔で謎言語極めてるの?」
一瞬、言葉が途切れる。
そして――三人の視線が、同時に陸君へ向いた。
「誠がさ、“陸は俺たちのエース”って言ってたから……たぶん確定」
「確かに、“エースは陸”って言ってたわ」
少しだけ間が空く。
「それに――陸が彼女連れて来るって、すごく楽しみにしてたよ」
「……陸君、何してるの?」
「中高の男子校メンバーでしょ?」
「そうそう」
「誠が言うには、中高で一番人気あったの、陸君だったみたい」
私は、ふと思う。
……なんかわかるかも。
青空塾でも、男の子からの人気はあった。
「でも、わかる気がする」
「陸君って格好いいし、頭も良さそうだよね」
「オーラが違うっていうか」
「私、あんまり聞いてないんだよね」
「普通におとなしくなったって言ってたけど」
「それはないと思う」
沙耶ちゃんが、はっきりと言い切った。
「圭介が言うには、陸って明るいし、よくしゃべるって」
「誠は……また別方向で張ってるらしいけど」
「確かに……その構図、なんかわかるかも」
「誠が言ってたけど、圭介は陸よりちょっと普通寄りなんだって」
「ああ……納得かも」
……やっぱり、あのときのままなんだ。
「圭介が言うには、大輝はいいやつなんだって」
「でも――ちょっとズレてるらしい」
「うん。陸君も、大輝はいいやつだって言ってた」
「誠も、“まともなやつ”だって言ってたわ」
「でもさ……」
奈央ちゃんが、少しだけ首を傾げる。
「この中だと、大輝ってちょっとおかしくない?」
一瞬、間が空く。
そして――四人は、静かに頷いた。
「でもさ……大輝君、普通に会話できてるのが逆に謎だよね」
「意外と、誠より詳しい気もする」
「私も思った」
「あいつ、ああ見えてオタクだよ」
「「「え?」」」
一斉に、大輝君へ視線が向いた。
「男側、何言ってるかわからない」
――でも、本人たちはめちゃくちゃ楽しそう。
そんな“男子校テンション”と、
静かに見守る彼女側の温度差を書いてみました。
気づけば、彼女たちの会話の方が普通で、
男たちの方が別世界になっていた気がします。
そして、大輝君。
一番普通そうで、普通じゃない説が浮上しました。




