第13話 近いのに、始まっていない
――まさか、知ってるやつがいたりしないよな。
今さらながら、そんなことを思った。
一応、俺の友達を説明しておく。
中学からの付き合いだ。
一番仲がいい理系仲間が、田中誠。
話が通じる貴重な存在だ。
普通にいいやつで、よく一緒にいるのが前田圭介。
バランス役というか、場をまとめるタイプ。
問題は――最後の一人。
高橋大輝。
こいつが一番チャラい。
だから、すぐにわかる。
あと、結構面倒だ。
悪いやつじゃないんだけどな。
いじってくるとしたら、間違いなくこいつだ。
昔から、なぜか俺に対抗意識を持っている。
……知らんけど。
オタクの俺に、何の用ですか?って感じだ。
***
「あのさ……私、高橋君って知ってるかも」
「え?」
「同じ大学だった」
「あ……あそこだったんだ」
「うん。結構、声かけられたことあるから知ってる」
「……何か、ごめん。さらにいじられるかも」
「何で?」
一瞬だけ、間があく。
「私、振ったことあるんだ」
「え?」
***
「わかるかもしれないけど、私、苦手そうでしょ?」
「あ……納得」
「当時は、結構モテてたの」
「それも納得だな」
「確かに……あいつ、由衣ちゃんみたいなタイプ好きそう」
「そうみたいで」
少しだけ、視線が落ちる。
「元彼のこととか、言われるかもしれない」
「私、モテてはいたけど……女の子と趣味の活動してたから、そんなにって感じで」
「基本的には、付き合ってないの」
「ただ――一人だけ、長く付き合った人がいる」
「大人しいタイプで、穏やかな人だった」
「……陸君とは、全然違うかも」
「社会人になってからも続いてたんだけど、だんだん疎遠になって……そのまま別れちゃった」
少しだけ間があく。
「そのあとにもう一人、付き合った人がいたんだけど」
「その人は……何かが違うって思って、すぐに別れた」
「――それだけよ」
「元彼のことで何か言われるなら、多分そのくらい」
「念のため、話しておくね」
「ちょっと遊んでるとか、言われるかもしれないけど……嘘だから」
「俺は、今の由衣ちゃんしか見てないから。大丈夫」
少しだけ、間があく。
――それで、終わりのはずだったのに。
俺は、ほんの少しだけ――嫉妬していた。
長く付き合っていた、というその相手に。
そいつはきっと――
俺が目指していたような、静かな眼鏡のイケメンなんだろう。
落ち着いていて、無駄なことは言わなくて。
ちゃんとしていて。
……少しだけ、悔しかった。
比較する意味なんてないのに。
***
「タイプ違うんだなって言われても、陸君は陸君のいいところがあるから」
「……ちなみに、前にも話したと思うけどさ」
「俺、何人かとは付き合ってるけど――」
「すぐ別れてるから。残念なやつで」
「……うん。わかってる」
「それ、納得しすぎたわ」
***
二人で歩き出してから、さっきから視線を感じる。
ちらちらと、見られている。
「あのさ……由衣ちゃん」
「うん?」
「やっぱり、由衣ちゃんがかわいいから見られてるぞ」
「かわいいと、見られるんだな」
「俺……残念すぎて、“ヤバい”って思われてる?」
「いや……違うと思うけど」
「あの……私じゃなくて、見られてるのは陸君だけど」
「は? そんなわけないだろ。見られたことないぞ」
「オタクモードで話してたら、“おい……”って感じで見られたことはあるが」
「ああ……あの謎の言語で止まらないやつね」
「そうそう」
「……今は別の意味で見られてるけどね」
「やっぱり、由衣ちゃんがかわいいからだな」
陸が、納得したように頷く。
「でも、俺がいるから――変な男に声かけられても、“彼氏です”対応はするから」
「……弱いけどな」
「ありがとう。でも、見られてるの、陸君だよ」
「またまた、ご謙遜を」
そう言って、俺は笑った。
「この前のデートのときも、見られてたもんな」
「……あなたがね」
「私は、そこまでじゃないから」
「いや、絶対由衣ちゃんだって。それしか考えられないだろう」
***
そういえば――青空塾でも、陸君は一人、目立っていた。
少し騒がしくて。
でも、格好良くて。
頭も良くて。
どこか、一人だけ違う空気をまとっていた。
近づきにくくて――話しかけることなんて、できなかった。
私は、ただ静かに。
彼を見ている側だった。
気づかれることなんて、ないと思っていた。
***
好きとかじゃない。
ただ――懐かしいって思っただけ。
でも、ほんの少しだけ、憧れてた。
声をかけてみたかった。
……でも、あの中には入れない空気だった。
だから、気づかれることなんてなくて。
私は、通り過ぎていく存在のはずだった。
久しぶりに会ったときは――正直、少し驚いた。
え?って、思ってしまって。
でも、話してみると――やっぱり陸君は陸君で。
あのときのままだった。
そして――やっぱり、格好いい。
あのときより――ずっと近くにいる。
でも、本当は……始まってない。
私は――偽の彼女。
今日は、その最後の日だ。
やり遂げないと。
チラッと、陸君を見る。
やっぱり、格好いいな。
ほんの少しだけ――
同じ世界にいられた気がして、嬉しかった。
終わったら――私は、陸君の世界から遠くなる。
偽なんだもの。
そんなことくらい、わかってる。
……それでも。
これから会う子たちが、少しだけ羨ましかった。
――その“これから”が、少し怖かった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、外に出る前の一話……のはずが、
思った以上に“関係が進んだ回”になりました。
一人では完成しない。
でも、任せることで整っていく。
そんな関係性を書きたかった回です。
陸は理屈で理解しようとして、しっかり敗北していますが、
それでも受け入れているところが、今回のポイントです。
そして由衣ちゃん側は――
少しだけ、違う温度で動いています。
近いのに、まだ始まっていない。
偽の関係のまま、どこまで進めるのか。
このあと、いよいよ友人たちと合流です。
たぶん、静かには終わりません。
引き続き、よろしくお願いします。




