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理系で制御オタの俺に彼女ができると思っているのか――GWに連れてくると約束したら、なぜか本物みたいになってきた  作者: 桐原悠真


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第11話 嘘の設定と、本当の距離

帰りに、俺は由衣ちゃんの家の近くまで送った。


少しだけ、歩く速度を落とす。

――この時間が、終わってほしくなくて。


「由衣ちゃん、今度は……本番なんだよね」


「そうだね」


短い返事なのに、ちゃんと重さがある。


「でも、その前に一度会えたら、嬉しいかも」

「少しだけでも」


「うん」

「私も会いたいな」


その言葉で、少しだけ救われる。


「それと……終わってからも、お礼にご飯行きたい」

「これは俺の気持ちとして」


「ありがとう」


少しだけ間があって――


「あの……」


言葉を選ぶ。

選びすぎて、逆に不器用になる。


「終わったら終わりだって、わかってるんだけど」


一度、視線を落としてから。


「もしよかったら……これからも仲良くしてくれると、嬉しいかも」

「せっかくだし」

「考えておいてくれたら、嬉しい」


沈黙。


風の音だけが、少し通り過ぎる。


――本当は。

ずっと、このままがいい。


――この距離が、少しでも長く続けばいいのに。


***


ただ、その間も――俺は手を離さなかった。


どうしても……離したくなかった。


すると、由衣ちゃんが小さく口を開いた。


「ねえ、陸君」


「……何もない」


そう言いながらも、由衣ちゃんは少しだけ頬を染めていた。


そして――

俺の手を、ほんの少しだけ強く握る。


「陸君のお友達に会うのも楽しみ」


「でもね」


一拍置いて、少しだけ真剣な声になる。


「もし陸君がいじめられたら、私、全力でフォローするから」


「フォローになってなかったら、ごめんだけど」

「でも、頑張る」


思わず、少しだけ笑ってしまう。


「基本的に出会いは塾で――」


由衣ちゃんは、指で空中をなぞるみたいに設定を並べていく。


「もう一度、蓮君に紹介してもらって」

「懐かしくて話が合って……付き合った」


「これよね」


「ああ。それが妥当だ」


軽くうなずく。


「本当のことだしな」


「それで決めよう」


***


「デートは……今日みたいなのが、いつものパターンで」


少しだけ考えてから、続ける。


「まだ一回しか行ってないけど」


「でも、毎日やり取りしてるし……正直、もう付き合ってるみたいなものよね」


「ああ」


俺は短くうなずく。


「だから、このまま言えば何も問題ないし」

「ボロも出ないはず」


「なるほどな」


少しだけ間を置いてから。


「付き合った時期は……前にしておいた方がいいか?」


「うん、その方が自然」


「じゃあ、それでいこう」


「日付は――」


ほんの少しだけ首を傾げて。


「3月3日とかでいいかな?」


「いいんじゃないか」


「覚えやすいし」


「確かに」


設定は決まった。


――全部、作った話のはずなのに。


不思議と、どこも嘘っぽく聞こえなかった。


なのに。


繋いだ手だけは、どこまでも本当だった。


***


「あの……」


由衣ちゃんが、少しだけ視線を落とした。


「お友達と会った後に、ご飯を一緒に食べるとき――」


言葉を選ぶみたいに、間が空く。


「私も……色々、話したいことがあるの」


その言い方が、少しだけ真剣で。

でも、どこか柔らかい。


「だから……その時に、聞いてくれる?」


俺は一瞬だけ考えて――すぐにうなずいた。


「ああ、わかった」


短い返事。


それだけなのに、胸の奥が少しだけざわつく。


――きっと、何かが変わる。


そんな気がした。


***


「それと……友達なんだけど」


少しだけ言いにくそうに、言葉を選ぶ。


「一人だけ、ちょっと意地悪いやつがいる」


「多分、何か言ってくると思う」


正直に伝えておく。


「でも」


すぐに続ける。


「一人は俺と仲いいやつで、かなり平和だし」

「もう一人も普通にいいやつだ」


「……だから、そんなに構えなくて大丈夫」


一拍。


「ただ――」


少しだけ苦笑する。


「その一人だけ、クセが強いんだよ」


「悪いやつじゃないんだけどさ」


軽く前置きをしてから、続ける。


「多分……他のやつらも、みんな彼女連れてくると思う」


少しだけ言いづらそうに、言葉が落ちる。


「一応……」


ほんの一瞬、間が空いて。


「みんないるんだ」


そう言ったあと、自分でも少しだけ気まずくなる。


――逃げ場は、ない。


***


「大丈夫」


由衣ちゃんが、少しだけ笑った。


「私、戦闘モードで行くわ」


「……何、その戦闘モードって」


思わず聞き返す。


「んー」


軽く考える仕草をしてから、顔を上げる。


「どういう感じがいい?」


「正統派でいいよね?」


「よくわからないから……任せる」


「了解」


小さくうなずいて――


由衣ちゃんは、さっきよりほんの少しだけ、頼もしい顔をした。


――多分、こいつは強い。

変な意味じゃなくて、ちゃんと。


***


「あとね……」


由衣ちゃんが、少しだけ声を落とした。


「ちょっと、くっつく時あるかもだけど――大丈夫?」


一瞬、間が空く。


その“ちょっと”が、やけに具体的に聞こえる。


「ああ」


短く答える。


それだけなのに、妙に意識してしまう。


――さっきから、手は繋いだままだった。


***


「それと……」


由衣ちゃんが、少しだけ照れたように笑った。


「当日は、服とか髪とか……ちゃんと整えてあげるから」


「……大丈夫だからね」


その言い方が、どこか優しくて。


「ああ」


うなずくと、由衣ちゃんは少しだけ安心したように、目を細めた。


「安心してね」


――なんでだろう。

“作戦”のはずなのに、どこかそれ以上に聞こえた。


***


「絶対に負けないんだから」


由衣ちゃんは、静かに言い切った。


さっきまでの柔らかさとは違う、まっすぐな強さ。


思わず、少しだけ笑ってしまう。


「……何と戦う気なんだよ」


「決まってるでしょ」


即答だった。


「陸君をいじめるやつ全部」


――多分、守られるのは俺の方だ。

それでも、嫌じゃないと思ってる時点で――もう遅い。

今回も読んでいただきありがとうございます。


いよいよ「本番前」の回になりました。

設定を固めているだけのはずなのに、どこかそれ以上のものが混ざってきている感じを楽しんでもらえたら嬉しいです。


特に今回は、

・繋いだままの手

・嘘のはずなのに嘘っぽくない関係

このあたりを意識して書いています。


次回はいよいよ友達との対面です。

“戦闘モード”がどう発動するのか、そして約束していた「話したいこと」がどうなるのかも含めて、少しずつ動いていきます。


引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。

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