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3/6

3.事件だ!

全6話を本日中に投稿予定。これが3/6です。

「山」

「川」

「よし」

「……すみません、私が口出すことじゃないですけど、この合言葉って役に立つんですかね? 誰でも反射的に答えちゃいそうですけど」

「ふっ……そう思っていればいい」

「えっ?」

「貴様にはいつも世話になっているからな。教えてやろう。実は、この合い言葉には……」

「あ、いいです。余計なことに巻き込まれたくないので」

 私は急いで遮った。

 特別警備局の秘密を聞いてロクなことはないはず。


「……まあ、いい。ところで、今日の出国状況はどうだった?」

「えー、今日ですか? ちょっと忙しかったですね」

「ふむ。よく知っている者ばかりか?」

「出国ですよね? いえ、知っているヒトは、二人くらいですね。さっきまで入国審査していたので、まだ日報締めてないんですよ。リスト見れば間違いないですけど。どうかしました?」

「うむ。実は、不穏な情報が入ってな。『三枚のお札』が紛失したらしい。それがあちら側へ流れたという噂がある。そうなると人間界が山姥の襲来に備えて対策を取っているのかもしれない。ただ、山姥っていっても色々いるからな。どの山姥なんだか特定するには、不確定すぎる情報なのだ。しかし、山姥が何か事件を起こす前に、手を打てるものなら打っておきたいからな」

「へえ」

 うん。へえ、としか言いようがない。「○○を指名手配」みたいなときは、特別警備局から、全ゲートに連絡が流れるから、指名手配犯が現れたら連絡すればいいけど、小僧(とは限らないが)を攫いそうな山姥なんてわからないよ。


 しかも、「山姥」っていうのが微妙だ。

 実は山に住んでいるババアは全員山姥。職業? みたいなもんなんだよねー

 昔から「ババア」っていうからシワシワのお婆さんを想像する人間が多いのだが、それは間違っている。エグイくらいの美女もいる。それにパスポートは別に職業欄があるわけじゃないから、誰が山姥かどうかなんてこちらにはわからない。

 さらに、山姥の業界も多様化していて、性別も超えはじめたからね。というか、妖怪に性別ってあるのか?

 いや、ない。一反もめんとか、布ですよ。

 ということで、今日出国したヒトの誰もが山姥の可能性があるのだ。


 でもねー

「なんで第七十七ゲートなんですか? 大きいゲートの方が、ヒト混みに紛れて出国できそうなのに」

「それが、タレコミによると、『三枚のお札』を入手したのが、高尾山近くの寺らしい、ということなのだ」

「へえ」

 二度目のへえ、だ。中途半端なところが具体的。警備局の情報収集能力って微妙だな。


「まったく。迷惑ですねー ここ、管理者が私一人の最小タイプのゲートなのに」

「小さいところはあらかた統廃合されたからな。一人管理者で残っているのは第七十七ゲートだけだな」

「なんで残ってるんだろう」

「色々な理由はあるが、自分で心当たりがあるんじゃないか? 大体、一人で管理できるようなのは貴様くらいしか現代では残ってないだろうよ。まあ、あとはゲートのあちら側に駐在している高尾山の天狗がな……」

「ああ……ゲート無くなったら激オコしそうですね」

「うむ。八大天狗の皆さんは大人で統廃合にも特に口を挟まなかった。基本的に険しい地形が多いし、一般ゲートには不向きだったりするからな。高尾山は、その点都心からのアクセスが良い。そこを飯綱山の三郎殿にもアピールして統廃合に反対しているらしい。まったく、天狗業界内で利便性を比較されてもな……」

 警備局のヒトは、けっ、と言いたそうな顔をしていた。目隠しがあるから、表情あまりわからないけど。


「ま、まあ、それでも高尾山は何かあったときには、フットワークが軽いじゃないですか。口も軽いけど」

「……それは否めん。ということで、急いで本日の出国者リストを出してもらえないか」

 あー残業確定。

 しかし、未然に犯罪を防げるものならそうしたい。

「かしこまりました。個人情報も入りますので、閲覧許可証の提出をお願いします」

「これだ」


 警備局が発行した許可証を確認して、ぺかっとコピーをとってから、本日の出国者リストを出力した。

 リストを見ながら、警備局のヒトは、何気なく言った。

「偽造ビザはなさそうだったか?」

 なにぃー?!

「私の『目』を騙せるとでも?」

「……いや、失礼した。あ、ヤメロ。お前の第三の目を開くなっ! そ、そうなると、ちゃんとビザ発行された者しかいないな。どれが、このゲートをいつも使用している常連だ?」

 私が、眉間にしわを寄せただけで、そんなに焦らなくてもいいのになー まだ開いてないですよー


「えーと……私がわかる範囲ですけど、この『花園はる子』さんは、毎年三月には人間界へ出張がありますね。多分、桃の精なんだと思いますが。あとは、この『山童タロウ』さんも、春と秋にお見かけするので、カッパ系の職業だと思います」

「この二人は問題なさそうだな。そうなると、残りは十人か。多いな?」

「確かにそうですねー 昨日はゼロ人でしたから、その反動かなって思ったんですけど」

「まあ、あちらはもうすぐ桜も咲きそうだが……別に異界からの出国者が特別増えるようなイベントではないな。花見なら異界でもできるし」


 警備局のヒトは、リストを見ながらしばらく考え込んでいた。

「やはり、一応、高尾山には連絡しておくか……」

「報・連・相は大事ですよー」

「貴様に言われるとはな」

「ただ……高尾山の気合いが入りすぎるとヤバいかもしれません」

「……」


 そうなのだ。高尾山は、ちょっとお調子者なのだ……

「ウチには山頂ビアガーデンがあるんだぜ」って自慢されてもねー あなたが経営しているんじゃないんだから、と言いたいのを我慢した。だって、唐揚げと枝豆の差し入れしてくれたし……

 まあ、気のいい奴なんだよね。天狗のくせに、花粉症になるのを心配して、この時期はこっそりマスクをしているお茶目なヤツでもある。あの鼻でマスクは難しいと思うが。

 人化してるんじゃないか?


 その時、警備局のヒトが持っている携帯がブンブン鳴りだした。

「はい、こちら異界特別警備局、暗黒。何っ! わかった。緊急出動する。現在、第七十七ゲートにいる。ゲートの時間外オープンの許可を」

 ええーそんな……泊まり込みになっちゃうよ。


「貴様、聞こえたな。今すぐ、ゲートの緊急オープン許可が、異界省から出る。ゲートオープンと、非常事態のため、この場所での待機を頼む」

「どうしたんですか?」

「高尾山から緊急連絡が入ったそうだ。三枚のお札が使用された形跡があると」

「おおう……噂をすれば……」

「お、来たな」

 ぴろりん、と私の端末に緊急メールが届いた音がする。

 そこには、第七十七ゲートの緊急オープンのためのコードがあった。


「はーい、じゃあ開けますよ。戻るときは、事前に連絡ください」

「うむ。早期解決を目指すが、状況次第だな」

 ゲートを開けると、もう真っ暗になった高尾山へと暗黒さんが出て行った。暗黒さん、そうそう。そんな名前でしたね。

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