2.逢魔刻、過ぎてますよ
全6話を本日中に投稿予定。これが2/6です。
「ふあー、間に合った! あぶないところだったよ」
ゲートから出国するのと同時に、異界に入国する人たちも入ってくる。
逢魔刻の五分間しか開かないので、その時間にゲート前にいなければ、もう一日待たないといけない。
「あ、郵便屋さん、お久しぶりですー」
ゲートが閉まる直前に飛び込んできたのは、この第七十七ゲートを定期的に利用する郵便屋さんだった。
大昔、人間界で結婚して子供ができたヒトとかが、今でもあっちに残した子孫と手紙やお歳暮のやり取りをすることがある。そういう場合にお願いするのが、この郵便屋さんだ。
三か月に一回、この第七十七ゲート近隣に寄ってくれる。
そのときに郵便物を回収して、人間界のポストへ投函してくれるのだ。
しかし、それだけではない。
実は、私の提案で、「カタログお取り寄せ」サービスもテスト開始してくれたのだ!
異界最大手商社、「奇々怪々商事」さんが、色々人間界から仕入れて一般にも販売してくれるのだが、どうしても大量販売がきくもの優先になってしまう。
その点、この「カタログお取り寄せ」は、三か月毎に違うカタログが届いて、あちらで流行っているものを一つから頼める。郵便局に事前に申し込んでおくと、三か月後に届くのだ。届け日までは指定できないが。
あまり広がっちゃうと、仕入れと配達が大変、ということで、まだテスト段階。それでもかなり人気で、新たな事業開発も視野に入っているらしい。
えへへ。今回は私も注文してあるんだよねー あっちの二月はチョコレートの種類が爆増するシーズンということで、今回は三月の定期訪問時に限定品のチョコレートが頼めたのだ。
「頼まれてたものもちゃんと仕入れてあるよ」
「わーい、ありがとうございます。とりあえず入国手続きを済ませちゃいますね」
「ああ」
パスポートにスタンプを押そうと思って開くと、そろそろスタンプを押すページが無くなってきている。
「お忙しそうですね。そろそろ空いているページが無くなってきそうですけど、増やします? ビザもまだ有効期限ありますもんね」
「ああ、そうだね。入国管理事務局が混んでいると、頼みづらくて」
「丁度今日は郵便屋さんが最後の入国者ですし、よければ、今のうちにやっておきます?」
「じゃあそうしようかな」
そう言って、近くの椅子に腰掛けると、鞄からペットボトルを取りだしてゴクゴク飲んでから「ふー、ケーブルカー乗っても山登りはそれなりに疲れるよ」と言った。
そりゃそうだよね。「少々お待ちくださいねーちゃっちゃとやりますから」と言って、すぐに作業に取りかかった。
異界パスポートは、一種類。大体のヒトは、見た目が一生変わらないから(歳をとらないとも言う)、特に期限がない。たまに見た目が大きく変わるヒトもいるので、そういう場合は写真で本人確認できないから、作り直しをしてもらうことになっている。
ということで、パスポートは身分証明書みたいなもので、これだけでは人間界へは行けない。絶対ビザがいる。
この審査は結構厳しい。本来、人間界がビザ発行する側だからね。
あちらの外務省の中にあるらしい。「異界関係事務方」を兼務している人間が。
問題起こされてもいけないし、仕事でもなければ、ビザを取ってまでいかない。そうねー仕事以外で渡航するのは、あっちに親戚が残っているような一握りのヒトだ。時間とお金とコネがないとねー あと、人間界のマナーがわかってないと、楽しめないし。
大半のヒトは、情報が古いから。「昔は怨霊として、羅生門あたりでブイブイ言わせてたんだぜ」って、それ、平安時代じゃないの?
今、京都へ行ったら、観光客が多すぎて目的地に辿り着く前に挫折すると思うな。
ほとんどは商用ビザ。サンタクロースさんとか、郵便屋さんとか、商社のヒトとかね。あとは、警察。人間界でいうところのインターポール? みたいな人間界でも捜査をできる資格のヒトがいる。異界から逃亡したヒトを探し出して連れ戻したり、逆に神隠しに遭った人間を、帰宅させるように手配したり。
あとは、現地駐在用のビザとか留学ビザ。いや、留学っていうよりも、あれは正確には修行ビザだと思う。
書類審査とか面接とかは、異界省(外務省的なトコ)が人間界の委託を受けてやっている。
ただ、それ以外の実務は私のような各ゲートの管理者が担っている。
こうやってパスポートのページを増やすのもゲート管理者である私の仕事。異界省はそんな細かい実務はやってくれないのだ。
偽造されたらまずいんで、特殊加工された紙と糸を使い、新しくページを足したところに「第七十七ゲート」の割り印と担当者である私の印鑑を押す。
「はい、できましたよー」
「助かったよ。はい、じゃ、これが頼まれてたお取り寄せ品と、こっちがカタログの最新版」
「やったー! 仕事の後の楽しみができた……」
今日は久々に出国手続きが混んでたし、まだ締めの仕事が残っている。でも、終わった後の楽しみがあると思えば、もうひと頑張りできそうだ。
郵便屋さんがパスポートをしまったり、荷物をまとめていると、異界側のドアが開いた。
あれ、こんな時間に誰だ? 逢魔刻を過ぎたら、基本的には誰も来ないのに。
不思議に思ってそちらを見ると、そこに立っていたのは、黒い帽子に黒いマント、黒いスーツに黒いネクタイ、黒い靴、目元には黒い目隠しが入ったヒトだった。
その姿を見た郵便屋さんは、これは面倒事があったな、とすぐわかり、「じゃあ、またね」とそそくさと出て行った。
その判断は正しい。
そこにいたのは、異界特別警備局のヒトだった。




