1.プロローグ:異界出入国管理局第七十七ゲート
一度、完結した物語を書きたいと思い、短編を書いてみました。が、1つにするには長かったので、6話に分割しています。さらっと読めるものが書きたかったので、サクサク読めると思います。全6話を本日中に投稿予定。これが1/6です。
「はい、気をつけて」
私は、ぺたん、とスタンプを押して目の前の旅慣れたビジネスマン風のヒトにパスポートを返した。
そのヒトは、軽く会釈をすると、さっとパスポートを胸ポケットにしまい、奥の「出発ロビー」と書かれたぼろっちい待合室へと入っていった。
「お次の方、どうぞー」
窓口の前には、まだ何人も待っている。
時計を見ると、17:00だ。本日の日の入は17:37。急がなければ。あと十五分くらいで出発ロビーが開放されて、入国審査が始まってしまう。
……今日は珍しく混んでるな……
ここは、異界出入国管理局第七十七ゲート。私はそこの管理人だ。
ほら、昔から聞くでしょ? 神隠しに遭ったとかって。天狗に連れ去られた娘が、歳もとらずに何十年後に戻ってきたとか、金太郎が山姥に育てられた昔話とか。
あれって、異界で暮らしていたんだよね。
昔は、色々いい加減だったから、「子育てのために」とか言って、鬼子母神が人間の子供を千人も攫ってきたりとか、「敵方から隠して欲しい」と依頼されて、人間の子供がこっちで大きくなるまで育てられて、人間界に帰って仇討ちしたりとか、それなりに往来があったんだけど、この現代ではそういうわけにはいかないでしょ。
お互い法律とか常識が違うんだから。
ということで随分昔に、異界と人間界の間は基本的に閉じられているのだ。
ただ、正式にビザ取得したヒトは行き来ができるようになっている。え、例えば誰って?
有名どころでは、サンタクロースさんとか? 毎年人間界出張してますよ。うちのゲート使用者じゃないけどね。
あとはねー……まあ、人間界の人が知らないだけで、いるんですよ。
ここ、第七十七ゲートは、ゲートで繋がっている先が、人間界の高尾山なんだけどね。
昔は、ほどほどの混み具合で、気楽に出入りできる割にアクセスがいいと、通好みの場所だった。
それが、最近、登山が流行ってるらしく、山が混んでいて、逢魔刻になっても人がいるらしい。もー、そういう時間はウロウロしちゃいけないって習ってないのかしらね。
攫われちゃっても知らないよ?
まあ、そういうことしそうな前科者には、ビザがおりないけどね……
よし、今日の列が捌けた。
もうすぐ日の入時刻だ。
私は、異界側の出入り口が、しっかりと施錠されていることを確認してから、近くにあるマイクを取った。
マイク必要ないくらいの狭いゲートだけど。ゲートの標準装備なんで。
「出発ゲートの皆さま、あと五分で逢魔刻でございます。人間界側ゲートを開きますので、お手回りの荷物をご確認の上、五分以内にご出発ください。それでは、良い旅を」
受付にある、ゲート開放ボタンを押した。
壁が開くと、オレンジ色の太陽が高尾山に沈むところが見えた。
異界とか逢魔刻は好きなので、もしかしたらいつか続きを書きたいなあ、と思いつつ……
気分転換に楽しんでいただければ嬉しいです。




