叔父様は団欒の妨げ
またゲームの夢を見てしまった。
今度はクリス様ルートのシェリー断罪イベントだ。
はー。泣いた。
なんだかんだクリス様は優しいよなー。人気投票2位は伊達じゃない。
今思い出すとゲームのシェリーにだって、情状酌量の余地がないこともないんだよね。
まあ思いこみが激しくて高慢ちきで高飛車で僻みっぽくて嫉妬深いのは否定できないので、立ち位置的にロクな末路じゃないのは仕方ないのだけど。
とはいえクリス様エンドでのシェリーは、一人ぼっち修道院エンド、命はあるし更生の余地あり、しかも公爵家はマシュウがいるから安泰という比較的穏便なラストを迎えている。
「シェリー、どうかしたのかい? あまり食事が進んでいないね」
どうかしたのかい、じゃありませんわお父様。
言っておくけど、食欲が無いのは夢見が悪かったからというわけではない。
「おや、シェリーが不調とは珍しい」
家族のような顔でそう発言したのは、お母様の隣に座ったザカリー叔父様だ。
叔父様、といっても正確にはお母様の従弟にあたる。三男なので爵位は持たず、帝国軍に帰属した一族の変わり者、だけど頭もそこそこ切れる。家柄も手伝って今では軍の偉い人らしい。おっとりしたお母様とは何故か仲がよくて、こうして時々我が家に顔を出すのだ。
「まあ、何か心配事でもあるのかしら。それともどこか具合が悪いの? 無理はしなくても良いのよ、可愛いシェリー」
はい、叔父様がいるので落ち着きません……、なんてお母様には言えないので、私はせいぜい力なく微笑んでみせた。
「心配をおかけしてごめんなさい。私は元気です」
どうしてザカリー叔父様がいると落ち着かないのか。
それは叔父様がシェリーの悪行に加担するキャラの一人だからだ。あ、これはゲームの中の話ね。
実際目の前にいる叔父様には(今のところ)罪は無いけれど、没落エンドを避けるためにはあまり関わりたい相手ではない。
「ただ、お茶会のお誘いが重なってしまったので、どちらへお邪魔しようかと考えておりましたの」
「あら、もちろんシェリーが行きたいところへ行けばいいのよ。ねえ、あなた」
「その通りだよ、シェリー。君は君のしたいようにすれば正しい」
これだよ。
ゲームのシェリーが自己中に育ったのも頷ける溺愛ぶりだ。父も母もやんごとなき生まれなので、今は仕方ないと思えるようになった。視界の隅でマシュウがこっそり息をついているけど、やむなしです。
「はは、シェリーは人気者だな。護衛が必要ならうちの兵士を貸すから、いつでも言ってくれ」
いやっ、ザガリー叔父様が発言すると家族の団欒が一気に物騒になるからやめてください。
「おお、それは心強いな」
「そうね、軍の方がついていてくれれば安心だわ」
そしてお父様とお母様が軽率に同意しちゃうからマジ困る!
お友達のお茶会に帝国軍の兵士を連れて行ったら場違いなことこのうえないでしょう。
「ありがとうございます、叔父様。でも、今のところ困っておりませんから」
「そうかい?」
「ええ、私にはマシュウもおりますし」
「いつまでも弟に頼っているのはよろしくないな。彼には彼の付き合いがある。なあ?」
唇の端をあげて、叔父様がマシュウをちらりと一瞥する。この二人、あんまり相性良くないんだよね。顔には出さないけれど、マシュウはそもそも好き嫌いが激しいと思う。
「いえ、俺は全然かまいません」
こらマシュウ、もう少し愛想よくしようよー。その人、一応お母様の従兄弟で軍の偉い人なんだからね。ああもう、笑顔がひきつりそう。公爵家の平和のために頑張るのよシェリー。
「ふふ、お聞きの通り、頼りになる弟がいてくれる間は大丈夫ですわ、叔父様」
「なるほど。姉弟仲が良いのはなによりだ」
ザカリー叔父様は渋く頷いた。ちっとも『なにより』と思っていなさそう。どうフォローしようかと言葉を探していると、思わぬところから援護が入った。
「ええもう、うちの子たちは本当に仲が良いのよ、ねえ、あなた」
「はは、いつまでも子供で困ったものだよ」
よっしゃ、空気を読まないお父様お母様、ナイスゥ! お二人こそ頭の中がお花畑なところ、昔から変わっておりませんわ。さすが公爵家筆頭、ちょっとやそっとのことじゃ地位は揺るがないからこその鷹揚さだ。
「そういえばシェリー、」
と、お父様のターンは続く。
「昨日、ラズボーン侯爵のサロンで、ボーフォート伯に挨拶をされたよ」
「えっ」
いきなりボーフォートの名前が出たので、私はあやうくフォークを落としそうになった。ラズボーン侯爵ってことは、ジェロームの家だ。あの家はホント、社交活動に労を惜しまないよなあ。サロンと銘打ちつつ実は先日の舞踏会の報告会、情報交換会だろう。子供たちの行動、恋愛、そして婚姻によって貴族の勢力図が変わることもあるのでこういった会は頻繁に開かれている。
「気難しい伯爵から、シェリーとマシュウに礼を伝えてくれと言われて私も鼻が高かった」
「お礼、ですか?」
「ああ。『舞踏会では娘に親切にしてくれて、本当に助かった』とね。ヘレナ嬢も大層喜んでいたようだ」
「ええ、二人とも貴族の範となる、素晴らしい行いですよ」
よし、ヘレナがそう思ってくれたってことは、まだ私、悪役令嬢化していないってことかな。ゲームのヘレナは最初の舞踏会でさんざんなめにあって泣いてたものね。
「ザガリーも確か、ボーフォート伯爵をご存じでしょう?」
「ええ、伯爵はなかなか顔が広くて、軍部でも懇意にしている者は大勢いますよ」
お母様の問いに、叔父様が頷く。
ジェロームから聞いた話だと、ボーフォート伯爵は商売人で資産家だというから、たぶんいろいろとお金が動いているんだろうなあ。
「国を守るために助力をいただいて、我々も助かっています」
「うん、なかなかの人物のようだな。国を守るため、我々貴族も協力しなければ」
「ええ、またどこかの兵が攻めてきたら恐ろしいわ」
「私もできる限りのことはしよう。何かあったら言ってくれ、ザカリー」
「ありがとうございます、ハーヴェイ公にそう言っていただければ百人力です」
不穏な話をしている。
確かに、今のところ戦争には至っていないけれど、四方を他国に囲まれている我が国は常にどこかと小競り合いを繰り広げている。そのたびに帝国軍が力をつけていくのは、商人や裕福貴族からの援助があってのことだ。
少し心配になって視線を移すと、叔父様もこちらを見ていてバッチリ目が合った。すいと目を細めて可笑しそうに笑う。
「心配しなくても戦争になどならないよ、シェリー」
心配はしていないけれど、何か嫌な感じはしています――――、とは言えないので私は曖昧に頷いておいた。
どちらにしたって、この叔父には近づかない方がいいな。




