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#030「マザー・コントロール」

――この部屋には、ハンドルを差し込んで発条を巻いて使う、旧式のレコード再生機がある。誰も居ないとき、僕は専ら、それでカラヤンとフルトヴェングラーのレコードを流すことにしている。これは僕が中学に入ってから続けている、ちょっとした秘密の習慣。

  *

「片腕が不自由だと、針を替えるのは無理か。今日は木綿針より、竹針で聴きたい気分だったんだけどなぁ」

  *

――二枚とも作曲者はベートーヴェンなんだけど、伝わってくるイメージが丸っきり違う。これは僕の思い込みではなくて、分かる人には分かる違い。感性は人それぞれだから、分からない人を馬鹿にする気は無いけど、もったいないなぁとは思う。このあたりは、お茶やお酒の風味と似てるかもしれない。

  *

「お婆さまは慣れた手つきで何気なく扱ってたけど、盤に針を落とすまでは細心の注意が必要だ。……よし。これで良い」

  *

――前置きが長くなったので、この辺で本題に入るね。お父さまと僕とは、血の繋がりがある。けれども、いまのお母さまは、僕が三歳のときにやって来た赤の他人なんだ。教育ママの典型で、それまでの自由に伸び伸びと育てようという方針が、百八十度転換してしまったんだ。

  *

「ちょうど、エー面とビー面を入れ替わったような感じだね」

  *

――公立校で良いと言ってたのに、急に私立校を受験することになったり、行儀が悪いこと、品の無いこととして、徐々に言動に制限を掛けられるようになったりしたんだ。具体的には、炭酸飲料を飲むこと、チューイン・ガムを噛むこと、駄菓子屋さんや氷屋さんや鯛焼き屋さんで買い食いすること、ボトルや缶からグラスやコップを使わずに飲むこと、袋菓子を袋のまま食べることなんかを禁止されてね。そうそう、お握りやピザやサンドウィッチ、ロール・ケーキに銅鑼焼き、蜜柑とかバナナとか、それまで手掴みで食べてたものも、一度お皿や器に移してから食べなきゃいけなくなったんだ。

  *

「上流階級としてのエチケットを叩き込まれて、メリットが無かったとは言わないけど、窮屈な思いをしたのは紛れもないんだ」

  *

――もう少し年齢が上がると、民放のテレビ番組や深夜のラジオ放送を視聴すること、飲酒、喫煙、ピアス穴を開けること、彫り物をすること、髪を染めたり癖付けたりすること、薄着でいること、不必要に肌を露出した格好をすること、みだりに異性と交際すること等も禁止されたんだ。

  *

「仮に禁止されてなかったとしても、手を出さなかっただろうことは少なくないけどね」

  *

――さて。そんな僕が、のちに引き篭もりこそすれ、グレずに今日まで来れたのには、とある人物の存在があるんだ。勘の良い人なら、もう気付いてるかな? フフフ。


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