6代目支配人
飛行機と電車を乗り継いで別府市にやってきた。福岡空港を出る時、空は雨模様だったが、別府市に着く頃には雨は上がっていた。今回、駅まで迎えに来てくれたのは、尚斗ではなかった。門をくぐり、玄関までの坂道の途中で、掃き掃除をしている着物姿の女性従業員がいた。後ろ向きだったので、はっきりと見えなかったが、女将さんではないようだ。玄関で車から降りた詩音は、仲間と訪れた4年前からなにか雰囲気が変わったことに気付いた。受付でチェックインを済ませ、エレベーターで部屋に行こうとした時、受付横の扉が開き、いらっしゃいませと声を掛けられた。そこには、以前からは想像も付かないほど立派になった尚斗が立っていた。髪は短く切られ、色も黒に戻し、整髪料できっちり整えられている。スーツ姿もとても似合っていた。尚斗は詩音に名刺を渡した。そこには肩書が『支配人』と書かれていた。
尚斗は岡田屋旅館の6代目支配人となっていた。
「今回は『久しかぶりだな、おと』じゃなかったやろ?」
「びっくりしたよ」
詩音は口をポカンと開けたままだ。
「人って二年でこんなに変われるの?」
「な? 驚くやろ? 実は自分でもビックリしとうと。俺、あの墓地でおとと会うたとき、知らん間に大人っぽくなったおとば見て、俺もしっかりしなきゃなと思うたんや。それに親父もあれからさらに体調が悪化して、もうほとんど現場に顔出せなくなったけん、おふくろにかかる負担が大きゅうなってきたんよ。
やけん、俺もそろそろ腹くくんなきゃって思うたと」
「そう思えるようになっただけで、尚斗ももう十分大人じゃん」
「そう言われると素直に嬉しか」
二人は高校の時のように、そして時に幼稚園児のようにおしゃべりを続けた。
「ところで、なんか玄関の様子が雰囲気変わったように思えたけど」
「おっ、さっすがおと。よう気付いたな。実は改装したんよ。といってもこの建物自体歴史的建造物に指定されとるけん、一部だけやけどな」
尚斗は、自分自身背が高いこともあり、この昔ながらの建築様式では天井が低く、頭がぶつかってしまう。なので、使用されている柱や梁はそのまま使用し、天井のみを高くする工事を行い、背が高いお客様でも無理なく利用できるようにした。また、一部の客室を茶室にリノベーションし、インバウンド向けに『日本文化が学べる宿』として近年再び
注目されるようになった。尚斗は傾きかけていた岡田屋の経営を、見事にⅤ字回復させたのだ。
「おーい、新支配人がそげんところで油売っとってよかと?」
と受付のほうから元気な聞こえた。振り返ると、そこには先程の着物姿の女性が立っていた。




